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第十八話 遊牧民的生活 参

 何だか肌寒くて目が覚めた。

 テントの布が風に揺れ、外からは風の音が聞こえてくる。

 俺はソフィアを起こさないように気をつけながら布団から這い出て、全裸のまま靴だけを履いて暖炉の前へ。


 さすがにもう火は消えていた。

 乾いた木の皮や枝、薪をくべて、マッチで火を点ける。


「ふー、ふー……」


 息を吹きかけると、火は徐々に大きくなっていった。

 これでしばらくしたら、テントの中も暖かくなるだろう。


 まだ外は暗い。時間はわからないが、感覚的にはまだ夜だ。

 今日は寒い一日になりそうだな――そう思いながら布団へ戻ると、ソフィアが目を覚ましていた。


「すまん、起こしちまったか」

「うん、何か寒い気がして……」

「ああ、俺も寒くて目が覚めたんだ」


 なぜかソフィアは首を振った。……何か違ったのか?


「もう……」


 そう言って、ソフィアがもぞもぞと布団の中で近づいてきて、抱きついてきた。


「肌の温もりか」


 俺もソフィアを優しく抱きしめ返す。

 それにしても、女の子ってなんでこんなに良い香りがするんだろうな。

 そういえば、前に髪に香油を塗るって言ってたっけ。あれか。


「良い香りだな」

「そうでしょ?ちゃんと手入れは欠かしてないから」


 確かに昨日も寝る前に髪にブラシを通してたな。


「綺麗な髪ってのは、手間をかけて保たれてるんだな」

「まあね。……って言っても、カイの筋肉や銃だって、外にあるスノーモービルだってそうでしょ?」

「そういうもんか……まぁ、ショットガンよりは手間がかかるが、慣れれば……なるほど、そういうことだな」

「そ。何事も慣れたら簡単だよ」


 こんなどうでもいい雑談も、泊まりがけの狩りだからこそ楽しめる醍醐味だな。


 外がぼんやりと明るくなり始めたが、吹雪は止まないようだった。

 風の音がずっとテントを撫でている。


 昨日隠しておいた凍った肉を取りに一度外に出てみたが、まあ行動不能というほどの吹雪ではない。

 とはいえ、天候がまた悪化したら厄介なので、今日も基本的に動けそうにない。


 時間を持て余した男女がやることなんて限られている。

 でも、そう何度もできるものでもないし、気がつけば体力の回復もしてしまって一層暇を持て余す。


 体を拭いたり、食事を取ったりしながら、吹雪が止むのを待つ――だが、止まない。


「止まないね~」

「そうだなぁ~」


 やることもないから、寝床でゴロゴロしながら雑談を続けるくらいしかない。


「雪が全てを包んで、全てが落ち着いた……まるで一年前の日常みたい」


 突然そんなことを言い出すソフィア。

 日常? あぁ、そういうことか。


「どこかピリついた空気があったもんね。人が集まれば、誰かが戦火の話を始めるような……」


 最近、みんな少しずつ気にし始めていた。

 今までは無視していたか、知らなかった人も、同胞の死や怪我を目の当たりにして、ようやく治安悪化の現実に気づき始めていた。

 だけど、ここではそれを感じない。二人きりだし、俺はもうとっくに諦めも覚悟もしていた。


「昔、カイが言ってたよね。『平和を欲するならば、戦う準備をしろ』って」

「ああ……言った気がするな」


「最初はよく意味がわからなかったの。平和が欲しいなら話し合えばいいんじゃないの?って」


 とても平和的で、素晴らしい感性だ。

 もしこの世の全ての生命がそれを共有できれば、戦争なんてなくなるかもしれない。

 でも、それは夢物語。絵に描いた餅だ。


「国家は国家を従えるために暴力を使う。家庭では、夫が妻を支配するために暴力を使う。……昔も今も、変わらない」


 現代社会の平和だって、軍事力や警察力といった『暴力』の後ろ盾があるからこそ成り立っていた。


「そういえば、カイに叩かれたことって、子供の頃から一度もないかも? 喧嘩はたくさんしたのに」

「当たり前だろ……」


 懸想してる相手に手を上げるようなガキじゃない。

 いや、ゼロとは言わんが、やり方は考えてる。


「当たり前……なのかな? そういえば小さい頃、お母さんとお父さんが本気で喧嘩してる時、食器が飛んでた気がする」

「なかなか派手だな……それは、ちょっと引くわ……」


 マジで当たりどころが悪ければ死ぬやつだぞ、それ……。


「でも仲は良いから、大丈夫! カイも知ってるでしょ?」

「ああ、知ってるからこそ驚いたって感じだな……人にはいろいろあるんだなって」


 取り留めのない雑談をしていたら、再び外が暗くなってきた。

 テントから顔を出してみると、分厚い雲が空を覆っている。


「こりゃ……止みそうにないな」

「わかった……じゃあ、早いけどご飯にしよっか」


 そうしてその日は終わった。

 女性なら刺繍や編み物、俺なら勉強や読書もあるが……ここではそれもできない。

 唯一できたのは、カリブーの皮をなめすくらいだった。

 とにかく、何もなさすぎるほど暇な一日だった。


翌朝

「今日はまだマシだな」


 朝食を終えて外に出てみると、曇ってはいるものの、吹雪は止んでいた。


「そうね。薪を追加で取りに行く?」

「そうだな。まだ少し残ってはいるが、多いに越したことはない」


 下手をすれば一週間も缶詰になりかねない。

 そうなると食料よりも、まず燃料――つまり薪のほうが問題になる。


 薪は軽くはない上に、熱量もさほど高くない。

 確か高校の授業で、木材の発熱量は4000kcal/kg程度だと習った。

 ガソリンなら8000kcal/kg程度だったはずだが、燃料の質によってかなり変わる。


「なら、私も行くよ」


 ソフィアもついて来るつもりか。

 まぁ、狩りには行けないし暇だろうしな。


「わかった」


 二人で着替えてスノーモービルに乗り、初日に木を切った場所へ向かう。


「うーん……見事に雪に埋もれてるね」


 雪が綺麗に積もって、切り倒した木が線のように雪の下に隠れていた。


「えっと……あの一直線の下にあるの?」

「ああ、そうだ」


 積もっているとはいえ、せいぜい数十センチ。掘り出すのもそれほど大変ではない。


 二人で雪の中から木を掘り出し、転がして雪を落とす。これが一番手っ取り早い。


「力持ち!」

「いや、もう切ってあるからそこまで重くないぞ」


 長さも半分くらいにしてあるしな。


「知ってる。それより、私にチェーンソー使わせて」

「なるほど、それが目的か」


 俺はチェーンソーをソフィアに手渡した。


「危ないから気をつけろよ。使い方はわかるか?」

「うん、いつもお母さんやカイが使ってるの見てたから、多分大丈夫」


 ちょっと心配だから、念のため見ておこう。


 ソフィアはチョークを捻ってガソリンを濃くし、プライマリーポンプを押して燃料を送り込む。

 そのままスターターロープを引こうとしたから、俺は止めに入った。


「一つ忘れてるぞ~」

「え? 間違えた?」

「チェーンブレーキがかかってない。それと、ガソリンとオイルの確認もしとけよ」


「ガソリンとオイルは大丈夫そうだけど、チェーンブレーキってどこ?」

「ハンドガードのとこ。まぁ実際にはあんまり使わないけど、覚えておいて損はない」


「へぇ……チェーンブレーキなんてあったんだ」


 まぁ、そんな反応になるよな。


「複数人で作業するときは、誤って誰かを切っちまう危険もある。そういう意味では重要だ」


「わかった。じゃあ、エンジンかけるね」

「おう」


 ソフィアがロープを引くと、エンジンが一発でかかった。


「一発か。やるな」


 エンジン音を響かせながら、ソフィアがチェーンソーを構える姿を見ていると、まるで成長を見守る親の気分になってくる。


 子供の頃、ソフィアと一緒に雪に飛び込んだり、兎を捕まえたりした日々がふと思い出される。

 そういえば、あの頃はソフィアの方が背が高かったな。

「まだ身長は伸びてるのか?」

「全く。カイは伸びてるの?」

「ああ。今年、柱で測ったら爪一つ分くらいは伸びてたな」


 健康的な睡眠と、そこそこの栄養、適度な運動もしてるからな。


「へぇ、まだ伸びるんだ……」

「もうそろそろ止まるさ。ていうか、これ以上伸びたら困る」


 すでに村で一番の長身だし、これ以上は本当に頭をぶつける。


「困るかな?」

「デカい服を作るのは手間がかかるだろ?」

「かかるかもしれないけど、私は別にいいよ。カイの服だったら喜んで作るし」


 そう言ったソフィアは、自分で言っておきながら急に恥ずかしそうな顔になり、チェーンソーのチョークを戻して作業に戻っていった。

 吹かしながら薪を切り始める。


 キュィィィィン……とチェーンソーの音が響く。

 一応、周囲を見回してみるが、人の気配も、動物の気配もない。

 おそらくこの騒音に驚いて逃げたのだろう。


 その間にも、ソフィアはどんどん木を切り分けていく。

 あっという間に、すべての木が輪切りの薪候補になっていた。


「どう?」

「上出来だな。あとは運ぶだけだ」


 二人で輪切りにした丸太を橇に積んでいく。


「ふぅ、でもこれだけ運んでも息が上がらないってすごいわね」

「毎回やってりゃ慣れるさ」


 回数をこなせば、自然と身体の動きが最適化されてくる。

 力の配分も、無駄な動きも減る。だから体力もそんなに使わない。


「やっぱり、こういうのって男の人の仕事って感じする。根本的に私には向いてない気がする」

「そりゃそうだろ。体力勝負の仕事までソフィアがやれたら、俺の立つ瀬がなくなる」


 本当にこういう生活をしていると、昔ながらの男女の役割分担ってのは、理にかなっていたのかもしれないと思えてくる。

 もちろん、鍛えれば女性でも体力仕事はできるだろう。けど、自然と分業していく方が無理がない。


 別に男尊女卑とかそういうイデオロギーではなくて、もっと実利的な、自然な分担。

 そんな気がしている。


 思考を巡らせているうちに、薪をすべて橇に載せ終わり、スノーモービルでテントへと戻る。


「天気は、なかなか戻らないね」

「そうだなぁ……」


 スノーモービルに揺られながら、雲のかかった空を見上げる。

 また雪が降り出してもおかしくない、そんな空模様だった。


 テントに戻ると、二人で薪候補の丸太をその辺に転がしておく。


「早いけど、ご飯の準備をするね」

「おう、俺は薪割りするわ。……斧はどこに置いたっけな」

 月、木を頑張って投稿日にしたいですが夜勤が挟まると崩れてしまうので、参考程度考えて下さい。

 今日はその告知た為に投稿した感じで、これからは木曜日の投稿で来週の予定を告知したいと思います。

 予定が悪魔の電話により変わらなければ、今週は月、木に投稿します。


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