俺、エリーと出会う
俺達は『運営堂』から借りた300万Gを一月で返す為に、『運営堂』が俺達に提示した、一日に『渦霊の宝石』を二百個、合計六千個集める条件を呑んだ。
それは、某有名漫画、『賭博破戒録○○ジ』のように、長く、暗く、辛い、地下洞窟での苛酷な労働を強いられるような出来事だった。
余りの辛さにメリーは、「もう嫌だぁぁぁ!お父様に言ってお金借りようよ!」と騒ぎ、
俺は、「君の父さんは俺達の事、反対しているんだろう、きっと条件に俺と別れて変態錬金術師と結婚しろと言われるぞ。」
メリーは嫌な顔して、「それも嫌だぁぁぁ!レイと、旦那様と別れたくない!!」と騒ぎ、
マリーは、「御主人様のお友だちに手伝って貰ったらどうでしょう。」と俺に聞き、
俺は、「彼等を呼のに『白龍』様に対価を支払って条件を伺い、伺った条件を達成するのが更に大変だし、それに彼等が来たら前回のようにあっという間に宝石集めが終わって、もっと仕事寄越せって大騒ぎになる、だから彼等に頼るのは無理だよ、マリー」
結局、俺達は毎日『ハイドル霊廟』に朝の七時から夜の八時迄、時には生活費を稼ぐ為に十時迄潜った。
潜る回数も一日に最低十回、最高で十二回を毎日繰り返し、一週間が過ぎる頃には俺の『転身』酔いも馴れたのか大部楽になった。
こんな状況でも、俺の強さのレベルはシーカーのレベルが一つ上がっただけで、それ以上は上がらなかった。
だが良い事もあった、シーカーのレベルが上がり俺はシーカーのスキルの一つ、『跳鷹斬』が使えるようになった。
『跳鷹斬』、シーカーロープを放って敵を捕らえ、反動を利用して激しく斬りこみながら距離を詰め、フィニッシュ技で両手に持つダガーを鷹のように掲げながら大ダメージの一撃を入れた後、空中にそのままの姿勢で反転する。
更に追加で空中からロープを放つ事で追撃を繰り出す事も可能で上手くいけば、地上に降りる事無く空中で連続して攻撃出来る、シーカーのスキルの中でもっとも華麗で華やかな技だ。
そして、その事件は俺達が『ハイドル霊廟』に潜り始めてから十五日目、『渦霊の宝石』を『運営堂』に納品する個数がその日で三千個になろうとした時に起こった。
時刻は夕方、俺達は九回目の地下洞窟に潜ろうとした時、地下洞窟の入り口から十人近い女の子の冒険者が叫びながら飛び出てきた!
彼女達の殆どはレベルが低く、中には冒険者に成り立ての素人もいるような気がした。
その中のリーダらしい、赤毛のショートカットの娘が、仮設テントで待機している『運営堂』の黒鎧達に、
「出た!!オーガが出た!!中に人が!!!」
その瞬間、俺は『かまいたち』を発動させた!!!
高速に地下洞窟を駆け抜け、キャンセルして更に『かまいたち』を連続発動させる!!
俺のスタミナはぐんぐん削られていき、高価な高級ガラナエキスを片っ端から飲んでスタミナを回復させながら、
俺は間に合え!!!と大声で叫びながら疾走した!
地下洞窟の化物は死なない、一度消滅しても何度も再出現する。
そして再出現を繰り返すうちに、
地下洞窟は化けて、その化物をその場所には存在しないレベルの化物にして、その場所に配置してくる!
今、化けて出現したのが『オーガ』
『オーガ』、全長三メータ以上の猿人型化物で、全身が黒い剛毛で覆われ、その特徴は鬼のような顔に鋭く巨大な牙と地面に迄届く長くて太い腕、
その鋼鉄のような剛腕を振り回して繰りだされる、薙ぎ払い、アッパーカット、両手ハンマーはベテラン冒険者でさえ気を失う程の破壊力を持ち、
そしてその巨大な両手は、一瞬の気を許さない程の素早さで獲物を掴み、掴んだら決して離さず、掴んだまま鋭い牙でその獲物を噛み砕く、まさしく巨大な鬼の化物、
其が『オーガ』だ!!!
俺が第一層の大ホールに飛び込んだ時、オーガは今まさに巨大な口を空けて、手に持つ少女をかじろうとしていた!
それを目にした瞬間!
俺のリミッターは外れた!!
奴の動作は緩慢となり、時はゆっくりと動く中を俺はスキル、『跳鷹斬』を発動させた!
静寂の中を俺が放ったロープは奴の頭に絡み付き、奴の頭を起点に俺を高速に引き寄せる!!
引き寄せられた俺は更に高速に回転しながら奴の頭を切り裂き!!!
飛び散る血飛沫!!!
砕け散る、巨大なオーガの牙!!!
そして、交差したダガーは奴の頭蓋骨に慘撃を撃ち込み、
俺は空中で高く両手を広げて鷹のポーズを取る!!!
その瞬間、時は戻り、
ギャアアアアアアアア!!!
奴の怒り狂う絶叫が、地下洞窟内に木霊する!!
奴は少女を掴んだ両手を放し、空中に入る俺に向かってその太い剛腕を振り回し、
落ちた少女を、俺の後から来たメリーが受け留め、
マリーは『かまいたち』で奴の足下を切り裂き、
空中で連撃する俺、足下で連撃するマリー!
後は一方的な俺達によるオーガへの蹂躙だった。
奴のレベルは30、俺は50代、マリーは70代、俺達の敵では無かった。
やがて、オーガはゆっくりと塵となり、地下洞窟の壁、天井に吸収されて消えた。
マリーは心配そうに俺に聞いてきた、「大丈夫なんですか?」
? マリーは俺の何を心配しているんだ、
「大丈夫だけど、何で?」
マリーは不思議そうに俺の顔を覗きながら、「あんな大技を連発して体は、吐き気は、何とも無いんですか?」
マリーに言われて俺は気がついた、確かに吐き気も体の異常も何とも無い。
何故だ?
その時、
「えええええええええっ!!」
メリーさんの驚きの声に俺とマリーさんがビックリ!
俺とマリーはメリーの方に振り向いて、
「どうした!メリー!」
メリーは驚いた顔で、「この子、マーガレット女史だよ!」
マリーも驚いて、「えっ!」
俺は、
マーガレット女史?誰それ?
その後、俺達は転移で『ハイドル霊廟』の前の『拠点の礎』に戻り、黒鎧達と赤毛の初級冒険者に彼女を無事に救出した事を報告し、赤毛ちゃんは泣きながら俺達に感謝していた。
赤毛ちゃんが言うには、彼女の護衛として組合のボードに張り出されていた依頼を受けただけで、彼女が何者なのかも知らないそうだ、此処に来たのもアースボルトが此処の一層、中間迄と指定したからで、
赤毛ちゃんも、一般人が地下洞窟を見学する事はよくあるので気にせず、レベルの低い『ハイドル霊廟』で十人近い冒険者が護衛なら大丈夫だと安心していてオーガが出現したのだそうだ。
所詮、素人に毛が生えた程度の初級冒険者、オーガを見てパニックになり、護衛対象者を置き去りにして逃げちゃった、と言うわけだ。
結局、俺達は彼女を赤毛ちゃん達や『運営堂』のスタッフ達に預ける分けにもいかず、俺達の借家に連れてきて医者にみせた。
彼女の頭の後頭部のキズを見た医者が言うには、たぶん彼女はオーガを見て気絶した時、床に頭を打って軽い脳震盪を起こしたのだろうと、彼女は直に目が覚めるそうだ。
まぁ、俺が思うに彼女は直ぐに気絶したのが良かった、もし彼女がオーガの前で暴れたら、一般人の彼女はあの太い腕で簡単に潰されていた。
オーガは彼女をまるごと食べる為に潰さないように持ち上げたようで、彼女の体には外傷は無かった。
彼女が目を覚ましたのは、其から二時間後、俺達が遅い夕食を取っていた時、彼女は目を覚ましゆっくりとベッドから起き上がった。
「此処は?私は死んで粗末な世界に生まれ変わったのですか?」
あのなぁ、そりゃ組合の借家だから高級じゃないけど、
俺達は食事を止めて、彼女の寝ている俺達のベッドに行き、俺は、
「目が覚めたかい、お嬢ちゃん、あんたは生きていて、此処はあんたを助けた俺達の貧相な家だ。」
彼女は暫く考えた後、事態が飲み込めたのか驚いて、
「私は助かった!・・・貴方が助けてくれたのですか?・・・失礼ですが貴方は?」
「俺は冒険者のレイ、此方がマリーに、メリー、二人とも俺のビショップだ。」
彼女は二人を見て驚き、「ビショップ!其も二人、まさか貴方が、」
と彼女が話している途中にメリーが興奮して、「ねぇ、ねぇ、貴女、『冒恋』の作者のマーガレット女史だよねぇ!」
彼女は驚いて、「えっ!何で知っているんですか?」
メリーは嬉しそうに、「私さぁ、貴女のファンで『ボケマ』で必ず貴女からサインを貰ってたの!」
彼女は困った顔して、「すみません、『ボケマ』では何百人の人にサインをしているので、貴女の事は、」
俺はため息を付きながら、「そりゃそうだ、メリーは落ち着いて、でっ、何百人もの人にサインする金持ちの作家さんが何で、危険な地下洞窟に潜るような無茶をしたんだ、」
彼女は俯きながら、「其は、・・・」
彼女が言いづらそうだったので俺は、「兎に角、俺達はメシの途中だ、良ければ一緒にメシを食いながら話しを聞こう。」
温かく旨いメシは気持ちを和ませる、彼女は嬉しそうに、
「貧相な場所での、貧相な食事なのに、すっごーく美味しいです!」
貧相、貧相と二回も言われた俺と料理を作ったマリーは苦笑いをしたが、明るくなった彼女、マーガレット女史を良く見ると結構可愛いタイプの娘で、マリーとメリーとはまた違ったタイプの俺好みの娘、と言う気がする。
身長は百六十前後で小柄で華奢な女子高生のような彼女は、丸顔でパッチリお目目、髪は肩迄の銀髪、耳は祖先にエルフがいたのかちょっと尖っている。
もし彼女がハーフエルフだとすると、彼女は見た目より老けていてもおかしくはない。
食後のお茶とマリーお手製のチョコレートケーキを食する頃には、すっかりと打ち解け、
マーガレット女史はポツポツと自分の事を話し始めた。
彼女の本名は、エリィウェル ガレシアン、愛称は『エリー』、幼い頃に両親と死に別れ、『ビショップの郷』で育った。
だからジュリエッタや宗主コルトミュの事は良く知っていた。
彼女は僧了に成るために郷でかなり勉強し、実際に回復魔法もかなり使えるそうだ、だが空想好きな彼女は『ビショップの郷』を訪れる多くの冒険者達から聞く話しに夢中になり、やがて自分で彼等の話しを執筆するようになったんだとか、
其が後に有名になる『冒険者と恋に落ちて』、俗に言う『冒恋』で、此の小説を読んだ女性冒険者の薦めで『ビショップの郷』を出て、彼女は一人で作品を出版雑貨店に持ち込んだところ、直ぐに本になり、売り出され、そして大ヒットした、そう言うとても羨ましい人生を送ってきた彼女だったのだが、
此処にきて彼女に強力なライバルが登場して、彼女の人気が急降下してしまった。
それが新大陸の族長の娘、セシルアさんだった。
セシルアさんとエリーの違いは、セシルアさんは新大陸の冒険者で実際、冒険をしているし、此方にも一人で来れる程の実力と経験が有り、ストーリにリアリティーが有るのだそうだ。
そして、大ヒット作、『引き裂かれた愛と想い』で、全ての出版雑貨店が次回作をうちにとセシルア詣でが始まり、
彼女はもはや過去の人と言うわけで、出版雑貨店には相手にされなくなった。
「そうだよねぇ、此処んとこ、『冒恋』はマンネリ化と内容が薄くなってたもんね、エリー」、とメリーはまた偉そうに言い、マーガレット女史ことエリーは傷ついて項垂れた。
折角、明るくなってきたのに、また余計な事をメリーさんは!
俺は気を使って、「まぁ、でも一生遊べるくらいには稼いだんだろ、もう引退しても良いんじゃねぇの。」
エリーは手を握り絞めて、「お金じゃ無いんです!」
メリーも賛同して、「そうだよ!ちょっと美人だからって、お高いあんな奴に負けちゃダメだよ!エリー!」
いや、セシルアさんはちょっとの美人じゃ無いし、すっげえ美人だし、ファンサービスも立派な、万を越す冒険者のファンがいる決してお高く無い美人だぞ、メリー。
俺の心の声を読んだのか、マリー迄、「そうですよ、エリー!貴女はまだ面白いのが書けます、あんな性悪女に負けちゃダメです!」
うーん、マリーさん俺がセシルアさんの隠れファンだって絶体知ってるよなぁ。
エリーは顔を上げて、「そうなんです!負けたく無いんです!だから、私はコルトミュ宗主に相談したんです。」
彼女は、俺を見つめる?
嫌な、予感。
「宗主は一人の冒険者の話しをしてくれました。」
へーぇ、そうなの。
本当に嫌な予感。
此の嫌な予感が、俺がマーガレット女史ことエリーに出会って始めて感じた気持ちだった。