俺、決意する
結局、俺達はやる事やった後、神殿に戻って宿場街の奥に有る『仲間酒場』で反省会をする事になった。
でっ、俺はマリーさんにこっぴどく怒られた!
「注意力が散漫過ぎます!!一体、ご主人様は戦闘中に何を考えているのですか!死にたいんですか!死ぬ気なんですか!」
うぅーん、まさかモンスターが珍しくて見とれてた、なんて言えないし、困った。
どうも、ライフゲージが見える俺は、モンスターとの戦闘がゲームのような感覚で緊張感が欠けているみたいだ。
「それに、ご主人様は不器用だから回復役は向かないよ。」、とメリー。
そうなんだよなぁ、回復役は回復、支援、援護、回避と結構やる事が多いから難しい、俺のような不器用には向かない。
俺としては単純に軽い剣と盾を持って、剣をただぶちかますだけの脳筋剣士か、ただ単純に詠唱して大威力魔法をぶちかます、軽薄魔法使いが合っている。
その他のジョブは狩人は不器用だから矢が当たらないし、探求者は三半規管が弱いから目が回るし、
戦士や聖職者は剣や盾が重くて俺には向かない。
「やっぱりさぁ、回復役を雇ったほうが良いよ、旦那様。」
金持ちのメリーは簡単に人を雇えって言うけど、冒険者の回復役が一日、一体幾らするか知ってるのか、2万Gが最低なんだよ!一日1万Gも稼げない俺達にそんな余裕は有りません!
と、俺は心の中でメリーを叱り、
「メリー、回復役を雇うのは、家では無理! 他の方法を考えないと。」、とマリーがフォローしてくれて、
「そうだよねぇ、旦那様、稼ぎ少ないし。」
グサッ!
メリーの一言が俺の豆腐のようなメンタルに直撃!
「まぁ、稼ぎは多くないけど、メリーが家に来てくれてチームで仕事が出来るようになって大分良くなったのよ、貯金も出来るようになったし。」、とマリーさんが変なフォローを再び。
「まぁ、一番の原因は俺がマリーやメリーより弱い事なんだよなぁ、二人には『ハイドル霊廟』の新しく出来たダンジョンのモンスターも雑魚だけど俺には強敵だったからなぁ、状態異常も耐性が少ないし。」
「だったら、強い防具と武器を買えば良いんだよ、レイ。」
と俺の後ろから声が掛かり、俺は振り向いた。
其処には、中央広場で何時も冒険スポットの情報を初心者や中堅冒険者に売っている、元冒険者の猿顔でペンシル型の髭が良く似合うダンディーな男、
「サルザック!」、が俺の前に立っていた。
「よぉ、レイ、話は聞いたぜ、横に座って良いかい。」 と彼が俺に聞いてきたので、
「あぁ、良いけど。」 と俺が許可すると、彼は遠慮無く円形テーブルで食事している俺の横に座った後、店のウェートレスのサリーに向かって、
「サリー、俺にミートローフとレストニアワインを頼む。」
俺は慌てて、「おぃ、サル、奢らねえからな。」と言い、
彼は笑いながら、「貧乏なお前に、たかる気はねえよ、」
貧乏って、サルザック、お前だって貧乏だろうが、って?何?お前?その防具?
俺はその時、サルザックが着ている防具が神殿騎士団の防具、『赤征の戎衣』である事に気がついた。
そして、その防具の強化が☆4!俺には防具や武器の強さのレベルが数値で分かるし、強化の状態は☆の数で分かる。
「サルザック、お前、どうしたんだ、その防具、騎士団の『赤征の戎衣』だろ!そんな高価な防具!お前盗んだな!」
サルザックは慌てて、俺に言った。
「バカ言え、神殿が主催している宝くじスロットで当てたんだよ!」
えっ、あの目玉が当たらないで有名な神殿主催のガチャスロットをお前やったの!
宝くじスロットは神殿前の広場に出店していて、売り子は美人で有名な次期巫女ちゃん候補のキャロメン嬢、
一回、スロットを引くのに10万Gか古代通貨で100Yかかる、勿論、貴重な丸薬や薬、霊薬、護符、酒等が当たるのだが、目玉の防具や武器が必ず一品有り、其を目当てに金持ちの高位の冒険者が高額を賭けてスロットに挑戦する。
まぁ、金持ちの遊びだ。
「おい、サル、スロットで当たったって、お前が10万Gでその防具を神殿から貰えたって事?」
サルザックは手を振りながら、
「そんな分けないだろ!一回じゃあのスロットは当たらねぇよ!だいたい、キャロメン嬢から聞いたんだが、今回は三十回スロットを回すと防具と武器が最低でも一個は確定で手に入るように神殿が決めたんだとさ!」
えっ!ガチャスロットなのに、三十回で確定?
「まぁ、キャロメン嬢が言うには神殿も今回、武器や防具を強化する事が出来る『渦霊の宝石』が大漁に市場に出回ったんで、騎士団用の最新の武器、防具が安く強化出来たから、冒険者に気前良く神殿騎士団のお下がりをスロットで配付する気になったんだとさ。」
えっ!そうなの?スロットの景品で武器や防具を神殿が配付してるの!
其を手にいれたサルザックがちょっと羨ましい、実際良い防具は冒険者が手にいれるのは難しいし、手入れされた武器や防具は中古でも性能は変わんないし、
しかし、ガチャスロットで確定って、
そんな話信じられるのか?
だいたい、三十回って、300万G!
古代通貨で3000Y!
そんな大金を貧乏なサルザックが持ってたのか?
「やっぱり怪しい!サル!俺より貧乏なお前が300万Gを出せる分けないだろ!」
サルザックは慌てて、
「ちっ、ちっげぇよ、借りたの!借りたんだよ!300万G!」
「借りた?お前が?」
サルザックは首を振りながら、
「あぁ、『運営堂』にな。」
運営堂って、運命を冒険者に託すって言う信念で営業している、冒険者専用の金貸し。
サルザックは俺に笑いながら語った、
「新大陸に行って一山当てようと思ってね、あっちで収集した素材はまだ高値で売れるから、借金も一月で返せる。」
「新大陸!お前がか。」
俺は他の人のレベルも見れる、コイツのレベルは確か俺と変わらない筈だ、だが確かに『赤征の戎衣』でレベルを底上げするなら、充分、新大陸でやっていける。
サルザックは俺のマリーやメリーを見ながら、
「レイ、お前にはマリちゃんやメリーちゃんが入るから関係無いけど、今、俺達、中堅冒険者の中では、新大陸のセシルアちゃんがブームなんだよ、皆、彼女が出した本を読んで可愛そうな彼女を励ましに新大陸に行こうってなってね。」
セシルアって、確か新大陸の族長の娘で此方で大人気のアイドル、彼女って本出したの?
メリーさんが直ぐに反応して、「知ってます!知ってます!『引き裂かれた愛と想い』ですよねぇ、いまや『冒恋』を抜いて人気ナンバーワンです。」
「えっ?なにそれ!」
マリーさんが俺に解説、「セシルアの実体験をもとにしたリアルな描写が話題で、闇に染まった幼馴染みで恋人、ドイロとの愛、そして非業の死を遂げるドイロとの別れを切なく悲しく描かれた恋愛小説ですし、今年の『本も売ってる雑貨屋さん』大賞受賞作です。」
俺は驚きで口をあんぐり、
「ええっ、ドイロって、あのドイロ!」
マリーさんが肯定する、「たぶん、あのドイロです。」
「だって、ドイロが悪役になったのって、彼女が小さいって彼をふったからだろ!其に奴は生きて神殿騎士団の牢屋にいるぞ。」
マリーは頷きながら、「結構、彼女は商魂が逞しいようで、タペストリーや彼女の抱き枕、セシルアブランドの民俗衣装も飛ぶように売れています。」
俺は愕然として、「じゃ、俺達が神殿騎士団から奴の事、口止めされたのも、」
マリーは首をすくめながら、「たぶん、彼女がお金を使って裏で手を回したんじゃないかと。」
マリーさん、すっかり探偵気取り、
サルザックは不思議そうに、
「お前ら、何話てんの?セシルアちゃんの恋人のドイロを知ってんの?」
俺は慌てて、「知らん、そんな奴!サル、其より話の続きは。」
此の話を始めると、俺の正体を含めてややっこしくなるから、マリーさんもメリーにも喋らないようにお願いしているし、俺もお喋りなサルザックに話す気は無い。
サルザックはワケわからんと猿顔をしながら、
「其でな、セシルアちゃんに会いに新大陸まで行くような冒険者には、ファンを大事にするセシルアちゃんだから、とある神殿まで彼女に会いに行けばセシルアちゃんの本当の姿を見せてくれるって、俺達、冒険者の中でそうゆう噂が流れてるんだよ、レイ。」
えっ?本当の姿?何それ。
「サル、何だよそれ?」
サルザックはバカだなぁお前って顔をして、俺に言った。
「レイ、決まってんだろ、ほら、本当の姿だよ、本当の、生まれた時の、」
生まれって?
えっ!ええええええええ!
生まれたまんま!
それって!
「サル!お前!」
サルザックはゲスな顔してニヤリと笑い、
「なぁ!すげぇだろ!レイ!」
俺は想像した、あのセシルアちゃんが何万の冒険者が見ているステージの上で、一枚、一枚と衣装を脱いで、そして最後の一枚が!
やばっ!鼻血出そう!
「サル!それって、凄くないか。」
サルザックは更にゲス顔で、
「そうよ!だから、皆、新大陸に行こうって努力してんだよレイ、レイ、のんびりしていると、此のビッグウェーブに乗り遅れるぞ。」
行きてえ!新大陸に行きてえ!今すぐセシルアちゃんに会いに行きてえ!
「レイって、今、凄く変態顔してる!」
メリーちゃんが怒った。
「そうですよ、ダラシナイ顔、止めてください!」
ヤバイ、マリーさんまで怒った。
俺は誤魔化す為に、「ゴホン」とわざとらしく咳、
「まぁ、サルの話は置いといて、稼ぎを考えると新大陸に行く価値はあると俺は思ってる。」
メリーは俺の顔を疑うように見ながら、
「本当ですかぁ、信じられないなぁ。」
勿論、セシルアちゃんのスッポンポンは見たいけどね。
「それは本当よメリー、私達の御主人様は、あんな性悪女の所に絶体行きませんよねぇ。」
わぁ、マリーが言葉を区切って強調した、本気で怒ってる!
「そっ、そうだよ、そんなの興味無いけど、サルの話で、300万Gで『赤征の戎衣』が手に入るのは安いし、チャンスだと思うんだよねぇ、マリー」
マリーは頷きながら、「それはそうですけど、家にはそんなお金無いですよ。」
そうだ、俺達の金は家の主婦、マリーさんが全て管理している、彼女は貧乏貴族の娘さんだったからお金にはしっかりしているし、俺はこっちの人間じゃなかったから金銭感覚が分からないし、営業だったからやれば儲かる、だから使えって感覚の駄目人間、メリーちゃんは良いところのお嬢様だから、全然ルーズ。
二人で管理していたら、たぶん三日で全財産が無くなる。
「この際だから、『運営堂』に借りるしか無いんじゃないかなぁ、マリー、防具が出れば稼げるから直ぐに返せるよ。」
マリーは暫く考えた後、「そうですね。」と一言。
こうして俺達は、『赤征の戎衣』をガチャスロットで購入する為に、『運営堂』から300万Gを借りる事にした。