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アタル  作者: 桐野 時阿
フジマ アタル
4/7

才田皇輔 1

 「お、おい。才田君、君はあれほど藤間を誉めていたじゃないか」



僕は、藤間という名を口にしながら、辺りに人がいないか、そっと見回した。大丈夫だ、今この場にはこの二人しかいない。幸い、一方は規則(ルール)を知らない転入生だ。僕はほっとして、胸の高鳴りを撫で下ろした。



「才田でいいよ。誉めたのは大衆の前での話さ。実際は慕っちゃいない。それなら、なぜ嫌うのか、……それを話すのはここじゃない。行こう」



才田の催促が続いていたので、仕方なく僕は立ち入り禁止区域に指定されいる屋上へと足を踏み入れることにした。



 始業式を終えて、ほとんどの生徒が教室へ一時的に集合し、予め指示された時間になれば掃除場所へと移動、各々掃除を始める。僕と才田は、今の教室へ一時的に集合している時間と、掃除の時間を利用して屋上へと侵入し、そこで何らかの話をする予定でいる。僕としては、掃除中に僕がいないことに誰かしらが気づかないか心配だったが、そこは才田の機転で、二人で探し物をしていたことにした。過去の都合上、学年は階が上がるごとに下になっていき、教室は便宜上、階段の近くに設置されている。要するに、僕ら2年生の教室は三階にあり、階段を上がろうとする度に教室から丸見えだということだ。



 まずは、二階。階段の目の前には3年A組の教室がある。僕は誰とも目を合わせることなく、三階へと上がった。次は、三階。目の前には、2年A組の教室だが、ここも僕は目を合わせずに四階へと上がった。四階には本来、1年生の教室があるが、入学式がまだのため今日は1年生は登校していなかった。あとは、この階の廊下を半分ほど突き進んだところにある図書室を目指せばいい。屋上へと繋がる階段は、その図書室の廊下を挟んだ向かい側にある。1年生の全ての教室を通り過ぎ、僕と才田は、目指す図書室の前に着いた。屋上へと繋がる階段の前には、大きく「立入禁止! 近寄るな」とプリントされた紙を糊付けしただけのベニヤ板が、図書室のものと思われる椅子に立て掛けられていた。僕はこの場へ初めて来たが、まさかこんな応急的で簡素な仕掛けで立ち入りを禁止していたとは思わなかった。それでいて、階段も至って健在で、どこも火事があったとは思えない有り様だった。これでは、寧ろ「入るな」という看板に興味をそそられてしまう。入っても良いのではないか、そんな思いが芽生えてくる。



 と、その時、僕らの後ろで物音がした。図書室からだった。僕と才田は、互いの顔を見て、恐る恐る図書室を覗いた。扉の隙間から見えたのは、女子だった。そして、男子も近づいてきた。カップルだろうか。どうやら、女子の方が、先ほどの物音について謝っているようだった。



「ごめん、急に触るから驚いちゃって……」



「触られたの、初めて? もっとリラックスしていいよ」



なんだかやばいものを見せられそうな気がしてきたので、僕は才田の肩を叩いて、階段を指した。だが、一方の才田は、にやついたまま動こうとしない。甘いマスクでむっつりスケベとは、どうやら優等生とはかけ離れているらしい。僕の思い違いだったようだ。言い出しっぺの才田が動かない以上、僕も一人で動くわけにもいかない。仕方なく、男女の続きを見守った。男子の方は、野球部なのか坊主だった。女子の方は、横顔だけだが、色白でセミロングの髪型で目は大きい。……タイプだ。



 それからほとんど進展はなく、たまにいちゃつくのは見て取れたが、何を期待しているのか、才田はつまらなそうにしていた。漸く才田が動くかと思ったその時、先に図書室の男子が動いた。男子は、女子の肩を両手でがっしり掴むと、そのまま女子を図書室の大きな机の上へ押し倒した。突然のことに、僕は驚きの声が漏れそうになった。恐らく、才田も同じだったろう。男子は、押し倒した女子の体を、全て机の上に乗せると、いきなり女子の両足を掴んで、M字開脚の体勢をとらせた。僕はまたしても驚きの声が漏れそうになった。才田は、すでに口元を手で覆って、目をこれでもかと見開いていた。僕は、腕時計を見た。掃除まではあと15分ある。もうここまできたらやってしまえ。僕はいつの間にか、心の中で坊主の男子を応援していた。一方の女子も、もう男子にされるがままになっている。そして、男子は、女子のスカートをたくしあげ、ついに露わになった白い下着をゆっくりと下ろし始めた。この頃には、僕も才田も食い入るように男女の営みを見守っていた。ただ、残念なことにこちらからは、男子の体が女子と重なって、後ろ姿しか見ることが出来なかった。男子は、ついに露わになったであろう( 男子の体が邪魔をしているため僕からは見えてない) 女子の性器に顔を近づけ、女子の感情をそそり、微かな喘ぎ声を誘った。声に出してはいけないことを考慮しながら、その中で最大限の声を感情のままに出しているその女子の姿に、僕も才田もすでに虜になっていた。女子のM字開脚の真ん中で性器を隠している坊主頭が、妙に僕らを焦らした。そして、男子は性器から顔を上げると、ベルトを外し、制服のズボンを下ろした。ついにこの時がやってきたかたと、胸が躍りだした。全く、なにを期待していたのか、自分でも呆れる。だが、いいものが見れたのも事実だ。男子は、ズボンを下ろして、右手で自らの肉棒を掴み、何度か小刻みに動かすと、一気に女性器へ挿し込んだ。痛みで声を抑えきれなかった女子は、突かれる度にいやらしい喘ぎ声をあげ続けた。こから先、男子は、抜き挿しを交互に繰り返すピストン運動を続け、成長著しい女子高生の裸体を、心ゆくまで弄び、犯し続けた。



 屋上の階段を上がっている間も、痛みと感情の喘ぎ声が時々聞こえてきたが、その度に才田は、深呼吸をして、頭を激しく振った。こうでもしないと自分が保てないのだろう。



 火事の痕を残さぬ階段を上がりきると、そこには、焼け爛れたドアノブと足元に割れたガラスが散乱したドアがあった。まるで、別世界へと通じるような不気味さだけを漂わせたそのドアは、確かに火事のあったことを現していた。僕は、一瞬の躊躇のあと、黒ずんだステンレスのドアノブを掴み、開けた。ガチャ、という音もせず、思ったよりスムーズに開いた。



 ドアの向こう側には、確かに屋上があった。激しい火事の痕が残っているというよりも、消火活動の困難さを想像させる、消火器の粉が散乱していた。それ以外にも、黒く焦げ、途切れたフェンスや、燃えた制服があった。誰か死者が出たのだろうか。僕は、その事故について何も知らなかった。



「すげぇな……、ほんとにあったんだ」この頃には、才田は正気を取り戻していた。「これを学校長は隠していたのか」



「隠す? これを?」



「学校長は、前校長からこの事件を隠すように言われていたらしい。どんなトリックかはわからないが、生徒は誰も詳細を知らないって話だが?」



「確かに、僕は知らない。でも、なんで……」



「詳しくはわからないが、周りに知られたら学校の名が廃れるほどやばいんだろうな」



「まさかそれを暴くために……!」



「残念だが、違う」才田は、したり顔になった。「学校長の闇を暴く」



「そんな! 藤間には闇どころか裏すらないぞ?」



「どうして言い切れる?」



才田の表情は自信に満ち溢れていた。これは、なにかを知っている顔だ。



「じゃあ、闇ってなんだい?」



恐る恐る、僕は才田の目を見た。神経を集中させれば心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。



「やつは、……藤間は人を殺す」そして、才田は僕を指指して、言った。「君を、殺す」

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