わりとどうでもいい潜入
わりと19-1
翌日、俺たちは今夜の決戦、さらに昨日の事もあり……よそよそしいながらも、出来る限りいつも通りにしようと務めた。
可能な限り皐月の勉強を見て、裏皐月にバッテリーを送り、えふから脳内講義を受け……喧嘩するじぇい、えふを叱る。そんな今日まで過ごしたものと変わり映えのしない……春休みの一日を終えた。
そして……今やすっかり静寂に包まれた闇夜。皐月と二人、上山女子までやって来た。門の前にして……どこか異様な雰囲気に包まれている。
「何だよこれ……」
「学園全体がガーデン下みたい。気を付けないと……」
皐月と二人、深呼吸する。ビビっても仕方ない。そうだ。
「皐月」
「恭二」
お互い呼び合う。怖い、逃げ出したい……そんな気持ちを振り払う為。そして。
「「行こうっ!」」
そう声を張り上げ、皐月と二人その禍々しい結界の中に突入する。
俺以外の地球人には全く関係の無い話だけど……エリザベス、ヴィクトリアの命運を賭けた一大決戦が、ここ上山女子で行なわれようとしている。
そして……俺たちにとっての、長い長い一日が始まった。
わりと19-2
皐月と二人駆け込んだ上山女子敷地内。重苦しい雰囲気と赤褐色に歪み切った空間……行った事ないけど、地獄ってこんなところかなあと思う。
「全く、悪趣味だな……」
「うん……」
お花見の時の記憶を頼りに、とりあえず校舎を目指して進んで行く。しかし……中々記憶にある建物に辿り着かない。
「皐月……何かおかしくないか?」
「私もそう思う……上山女子ってこんなに広かったかな……」
歩みを止め、冷静に辺りを見渡してみる。そして……気付いた。
「……明らかに、前とは違う。今は校舎もないんだ」
「こんなこと……出来るの?」
皐月も頭を抱えているようだ。でも……これじゃあどこに向かえば良いやら……。
「お困りのようですねえ」
「「!?」」
背後から声がして、皐月と二人慌てて振り向く。そこには細身ながら長身の男、気味の悪い笑みを浮かべながらこちらを伺っている。
「如何なさいましたあ? もしかしてえ……道にでも迷われてえ?」
嫌味ったらしく聞こえるのは……こいつの放つ湿っぽい笑みのせいだろうか? 生理的に受け付けない感じの……。
まあそれはいい。スーツ姿だがこんなとこを彷徨いている、一般教員なわけない。
「……宝を何処へやったの?」
俺より先に、皐月が男にそう尋ねた。それに対し男は「あー、そんな事」という風にポンと手を打った。いちいち気持ち悪いなあ。
「宝嬢でしたらあ……彼方に御座いますう、建物の最上階でえ御預かりしてますよお。ちなみにい……僕の自信作でしてねえ、あの塔……気に入って頂きましたかあ?」
男の指差す先に……黄土色の建物が、まるで天まで届くかのような高さで聳えている。なんだありゃ……。
皐月は男を睨み付けつつ、こう言い放つ。
「早く宝を解放しなさい。さもないと……今この場で、殺すよ?」
それに対し……男は降参ポーズをしつつ、皐月を宥めにかかる。
「まあまあ、待って下さいよお。この至近距離でアナタに睨まれたらあ、僕なんて一溜まりもないですよお」
「じゃあっ!?」
皐月が男に迫ろうとする、もピョンと後ろに跳ね飛び……距離を取られる。
「……話を聞きなさいなあ。それに……口上くらいさせてくれてもお、罰は当たらないでしょう?」
「……わかった、聞いてあげる」
「皐月、もしかしてここで……」
戦うのか? 俺のその言葉を遮り……男は口上? を楽しそうに述べ始める。
「僕はあ、ヴィクトリアが夏星……横山安田と申しますう。ではあ……以後お見知り置きをっ!」
言うが先か、ぴょおおーん! っと跳ね歪んだ闇の中へ。……カエルかよ。
「くっ! 逃がすかっ……」
皐月が飛び掛るのも虚しく、男改め安田は俺たちの視界から消え失せた。
わりと19-3
安田が飛び去ってしまった事により、俺たちは敵の本陣に向かう事を余儀無くされた。
ただヒントを得た様な気もする。
「でも安田がこの空間と塔を作り出したってことは、直接戦う奴じゃないのかもな」
塔を目指しながら皐月に確認してみる。実際そうなら……この環境さえ苦にしなければ、四星は最高でも残り三人……あるいはって感じする。しかし……。
「どうかな……仮にも四星だし、ただ舞台を用意するだけっていうのは、考えにくいと思う」
皐月は冷静に分析している。確かに……楽観視しても仕方ないか。
「……見えてきた」
皐月の指差す先、塔の根元辺りが見えて来た。中に宝塚が囚われている。……つまり。
「ヴィクトリア勢が、待ち構えてる……」
ふと呟く。何だろう? この感覚……漫画やゲームの世界なら、この上なくワクワクするんだろうけど……。
正直、生きた心地がしない。
「……恭二、大丈夫?」
入り口の前に辿り着いた時、立ち止まった皐月がそう尋ねてくる。……顔に出てたんだろうな、情けない。
「ああ! ……すまん、心配させちまって……」
「ううん……恭二はこういう世界で生きてきたわけじゃないから。私こそ……巻き込んでしまって……」
俯く皐月を宥める。
「何言ってんだ、俺は……お前を守る為自ら来たんだ。そんなこと言うなよ」
「うん……ありがとう」
「よしっ!」
気持ちを切り替え、秋華さんや安田の待つ塔の門に向き直る。さて……やったるか!
「あの……恭二に、お願いがあるの……」
「ん?」
皐月が上目遣いに此方を見つめる。
「こんな時に不謹慎だけど……キス、して欲しいな……」
「!?」
一瞬、戸惑う。でもまあ……それもありかなと、すぐに了承する。
「……ああ、昨日できなかったしな」
「嬉しい……」
「じゃあ、早速だけど……」
皐月の両肩を抱き。
少し屈んで、皐月の高さに合わせ。
その柔らかな唇に触れた。




