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heart物語  作者: 木と蜜柑
3/6

三、

トイレの洗面台の下、私は雪美と一緒になって、床にピンクの石が転がっていないか探してみる。でも、ここにも、どうやらそれらしき物はなさそうや。


「もしかして、流してもたってことないよな・・・・?」

私は、不吉なことを口にした。

雪美は真っ青になって便器の中をのぞきに行った。

もしかしたら、プカプカ浮いてるってことも、無くも無い。

「もしも便器ん中やったらどうするん?拾うん?」

思わずおえっとなりながら、私は雪美を見た。

「うん、拾う!」

たとえどんなところに落ちていようが、何が何でも必要らしい。

私には、それ程まで物に固執する気持ちが理解できへん。


私立の女子高やから、公立の高校よりも、まだトイレが綺麗でよかった。

私は、中学のときに、模試を受けに公立高校に行ったけれど、そこのトイレの汚くて臭いこと・・・。もしあんな所で探し物をするとなると、さすがに口で息するのもはばかられてしまう。


「やっぱりないわ・・・。トイレやないんかな・・。」

雪美は、髪を耳にかけながら、きょろきょろと周囲を見回した。

まだ、さっきの名残で、睫毛が濡れている。


「なあ、そのキーホルダーって、そんなに大事なん?」

気がつくと、ふっとそんなことを口走っていた。

雪美がこくこくと頷いた。


ほんまに迷惑なやつ。

廊下に置いていた荷物を持って、私と雪美は再び歩き始めた。

雪美の視線は、やっぱり足元へいっていて、常にキーホルダーの姿を追い求めている。

並んでみると、この子はなんて小さい。そして、女の子らしい。

染髪は学則できつく禁止されてるのに、雪美の髪は亜麻色だった。

「篠原さんの髪って・・・。」

「地毛やで。生まれつき色素薄いねん、うち。癖っ毛やしね。」

廊下の空気はひんやりと冷たくて、雪美の頬がますますピンクがかっている。

そうなんや、地毛なんか。

「大江さんの髪って、素敵だね。綺麗な黒色で真っ直ぐで。」

「シンプルやと言うてくれへんか。」

プッと雪美が吹き出した。

なんや、ころころと表情の変わる子や、どない接していいかわからへんわ。

これやらか人と話すのは好きやない。そう思って、私はまた口を閉じた。


「大江さんって、いつも放課後教室で本読んでるん?」

私は敢えて返事をしてやらんかった。

色々と質問されたら鬱陶しい。

「大江さんて、無口?」

ただ、人と馴れ合うのが嫌いなだけや。

「もしかして、うちのこと嫌いなん?」

だんだん声のトーンが下がってくる。

ひょっとしたら、また泣き出すんと違うか。


体育館の裏。

黙ったまま、雪美が木材の隅やら地面の上を探し始めた。

なんでこんなとこに来たんや。

こんなところ、普段滅多に来ることあらへんやろうに。


「なんでこんなとこに来たん?」

雪美は懸命に探している。

「うん、ちょっとな・・・。」


わいわいわい、と体育館から声が近付いてくる。

騒がしい声がばったりと止んだかと思ったら、私と雪美の目の前に姿を現した。

汗をじっとりと掻いた、バスケ部員4人。

女子と言えども、4人とも170センチ近くあり、ちょっと見上げてしまう。

肩からタオルをかけて、はたとこちらを見つめている。


「雪美・・・、こんなとこで何してるん?」


ボーイッシュで髪をショートにした子が口を開く。

雪美も、あっというような顔で顔を擡げた。


「優ちゃん!えっと・・・。」

雪美が何やらあたふたしている間にも、その子が眉間に皺を寄せながら、私と雪美を見下したような目で見比べている。

「お前、もうここ来んなって言ったやろ?皆に誤解されたらこっちが迷惑やねん。」

声を荒げながら、言った。

後ろの3人が、ぽんぽんとその子を宥めている。

「もう来んな。ってか、二度と話しかけんといて。気持ち悪いねん!」

そう言って、くるりと向きを変えると、バタバタと体育館の方へと走っていってしまった。


浅野優。

C組の宝塚。


今朝の、クラスの噂を聞いていなかった訳ではない。


ぽつりと取り残された雪美の小さい背中。

小刻みに震えている。


2人に何があったのか、全然興味はないし、私には関係ない。

誰が泣こうが笑おうがどうだっていい。

巻き込まれるのはご免や。



そのとき、ピカリと何やら視界の端っこに光るもんが入った。

ちょうど、西日で反射して、草陰の中でチカチカ光っている。

手にとってみる。

ピンクの丸い石。

Y.A.とイニシャルが彫られている。

浅野 優。


私は咄嗟に、ポケットにそれを突っ込んだ。








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