三、
トイレの洗面台の下、私は雪美と一緒になって、床にピンクの石が転がっていないか探してみる。でも、ここにも、どうやらそれらしき物はなさそうや。
「もしかして、流してもたってことないよな・・・・?」
私は、不吉なことを口にした。
雪美は真っ青になって便器の中をのぞきに行った。
もしかしたら、プカプカ浮いてるってことも、無くも無い。
「もしも便器ん中やったらどうするん?拾うん?」
思わずおえっとなりながら、私は雪美を見た。
「うん、拾う!」
たとえどんなところに落ちていようが、何が何でも必要らしい。
私には、それ程まで物に固執する気持ちが理解できへん。
私立の女子高やから、公立の高校よりも、まだトイレが綺麗でよかった。
私は、中学のときに、模試を受けに公立高校に行ったけれど、そこのトイレの汚くて臭いこと・・・。もしあんな所で探し物をするとなると、さすがに口で息するのもはばかられてしまう。
「やっぱりないわ・・・。トイレやないんかな・・。」
雪美は、髪を耳にかけながら、きょろきょろと周囲を見回した。
まだ、さっきの名残で、睫毛が濡れている。
「なあ、そのキーホルダーって、そんなに大事なん?」
気がつくと、ふっとそんなことを口走っていた。
雪美がこくこくと頷いた。
ほんまに迷惑なやつ。
廊下に置いていた荷物を持って、私と雪美は再び歩き始めた。
雪美の視線は、やっぱり足元へいっていて、常にキーホルダーの姿を追い求めている。
並んでみると、この子はなんて小さい。そして、女の子らしい。
染髪は学則できつく禁止されてるのに、雪美の髪は亜麻色だった。
「篠原さんの髪って・・・。」
「地毛やで。生まれつき色素薄いねん、うち。癖っ毛やしね。」
廊下の空気はひんやりと冷たくて、雪美の頬がますますピンクがかっている。
そうなんや、地毛なんか。
「大江さんの髪って、素敵だね。綺麗な黒色で真っ直ぐで。」
「シンプルやと言うてくれへんか。」
プッと雪美が吹き出した。
なんや、ころころと表情の変わる子や、どない接していいかわからへんわ。
これやらか人と話すのは好きやない。そう思って、私はまた口を閉じた。
「大江さんって、いつも放課後教室で本読んでるん?」
私は敢えて返事をしてやらんかった。
色々と質問されたら鬱陶しい。
「大江さんて、無口?」
ただ、人と馴れ合うのが嫌いなだけや。
「もしかして、うちのこと嫌いなん?」
だんだん声のトーンが下がってくる。
ひょっとしたら、また泣き出すんと違うか。
体育館の裏。
黙ったまま、雪美が木材の隅やら地面の上を探し始めた。
なんでこんなとこに来たんや。
こんなところ、普段滅多に来ることあらへんやろうに。
「なんでこんなとこに来たん?」
雪美は懸命に探している。
「うん、ちょっとな・・・。」
わいわいわい、と体育館から声が近付いてくる。
騒がしい声がばったりと止んだかと思ったら、私と雪美の目の前に姿を現した。
汗をじっとりと掻いた、バスケ部員4人。
女子と言えども、4人とも170センチ近くあり、ちょっと見上げてしまう。
肩からタオルをかけて、はたとこちらを見つめている。
「雪美・・・、こんなとこで何してるん?」
ボーイッシュで髪をショートにした子が口を開く。
雪美も、あっというような顔で顔を擡げた。
「優ちゃん!えっと・・・。」
雪美が何やらあたふたしている間にも、その子が眉間に皺を寄せながら、私と雪美を見下したような目で見比べている。
「お前、もうここ来んなって言ったやろ?皆に誤解されたらこっちが迷惑やねん。」
声を荒げながら、言った。
後ろの3人が、ぽんぽんとその子を宥めている。
「もう来んな。ってか、二度と話しかけんといて。気持ち悪いねん!」
そう言って、くるりと向きを変えると、バタバタと体育館の方へと走っていってしまった。
浅野優。
C組の宝塚。
今朝の、クラスの噂を聞いていなかった訳ではない。
ぽつりと取り残された雪美の小さい背中。
小刻みに震えている。
2人に何があったのか、全然興味はないし、私には関係ない。
誰が泣こうが笑おうがどうだっていい。
巻き込まれるのはご免や。
そのとき、ピカリと何やら視界の端っこに光るもんが入った。
ちょうど、西日で反射して、草陰の中でチカチカ光っている。
手にとってみる。
ピンクの丸い石。
Y.A.とイニシャルが彫られている。
浅野 優。
私は咄嗟に、ポケットにそれを突っ込んだ。




