↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/11

プロローグ 木の下で出会った少女

まだ、ひよりが生まれるよりも、ずっとずっと昔。

食堂のそばには、その頃から一本の木が立っていた。

今ほど大きくはなかったけれど、幼い芳乃にとっては、見上げなければてっぺんが見えないほどの大きな木だった。

五歳くらいだった芳乃は、その日も一人で木のそばにいた。

何をして遊んでいたのかは、もう誰にも分からない。

ただ、その日。

いつもと同じはずの木の下に、見たことのない少女が立っていた。


「……だれ?」


芳乃が尋ねると、少女も驚いたようにこちらを見た。

少し変わった服を着ていた。

この辺りでは見たことのない服だった。

けれど、不思議と怖くはなかった。

少女は辺りを見回して、それから芳乃に尋ねた。


「ここ……どこ?」


芳乃は首をかしげた。

少女の方こそ、どこから来たのだろう。

家の人とはぐれたのかもしれない。


「お名前は?」


幼い芳乃が尋ねる。

少女は少し迷ってから答えた。


「芳乃」


「……え?」


「私、芳乃っていうの」


芳乃は目を丸くした。

そして、自分を指さした。


「わたしも、よしの」


今度は少女の方が驚いた。

二人はしばらく顔を見合わせ――やがて、どちらからともなく笑った。

同じ名前。

ただ、それだけだった。

それなのに、ずっと前から知っていたような、不思議な感じがした。

二人は木の下で話した。

何を話したのか。

どれくらい一緒にいたのか。

そのすべてを、後の芳乃が覚えていたわけではない。

けれど、一つだけ。

別れ際に交わした言葉だけは、いつまでも忘れなかった。


「また会えるかな」


少女が言った。

幼い芳乃は、大きくうなずいた。


「うん。また会おうね」


その直後だった。

風が吹いた。

木の葉が大きく揺れた。

芳乃は思わず目を閉じた。

そして、もう一度目を開けたとき――

少女はいなくなっていた。


「……芳乃ちゃん?」


呼んでも返事はない。

残っていたのは、いつもの木だけだった。

幼い芳乃は、その木を見上げた。

また会おう。

たった一度出会った、自分と同じ名前の少女との約束。


それから長い年月が流れた。

少女との再会が叶ったのか。

あの日、何が起きたのか。

その答えを知る者はいない。

ただ――

あの日二人の芳乃を見ていた一本の木は、

今も、食堂のそばに立っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。