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【完結】暗殺一家の令嬢ですが、政略結婚した騎士団副団長の愛が重すぎます。  作者: ほしよみ


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「不審な動きが宮廷にある」


王の声は静かだったが、

逆らうことを許さない響きを持っていた。


「お前の娘を、アルノルト・フォン・シュタイン——

騎士団の若き副団長に嫁がせよ。

奴の屋敷を拠点に、宮廷内を探らせるのだ」


父は深く頭を下げた。

ヴィオラは、隣室の扉の隙間からその光景を見ていた。


——また、仕事だ。


調べる。潜る。探る。

標的を仕留める代わりに、

今度は「妻」という仮面を被る。

それだけの違いだった。


婚約の席は、驚くほど早く整えられた。

顔合わせの茶会から一週間と経たず、

教会の鐘が鳴った。


ヴィオラは白いドレスに身を包みながら、

隣に立つ男を横目で見た。


アルノルト・フォン・シュタイン。


噂に違わぬ美丈夫だった。

だが、それよりもヴィオラの目を引いたのは、

彼がこちらを見る目だった。


値踏みでも、義務感でもない。

まるで——ずっと探していたものを、

ようやく見つけたような目。


(変な人)


ヴィオラは内心で呟いた。

他の令嬢たちなら、

頬を染めてしなだれかかるところだろう。


だが、彼女はただ淡々と、

誓いの言葉を口にした。 


「健やかなる時も、病める時も」


その距離感こそが、

アルノルトの何かに火をつけたのだと、

この時のヴィオラはまだ知らない。


式が終わり、二人きりになった馬車の中。


「緊張しないのか」


アルノルトが尋ねた。

ヴィオラは窓の外を見たまま答える。


「政略結婚ですもの。

緊張する意味が分かりません」

「……そうか」


短い返事の後、彼が微かに笑ったのを、

ヴィオラは見逃した。


その夜——屋敷の最奥、夫婦の寝室で。


ヴィオラは、任務の一環だと自分に言い聞かせていた。

宮廷内の情報を得るためには、

まず夫の懐に入り込む必要がある。

それだけのこと。

そのはずだった。


「……綺麗だ」


アルノルトの声が、

思っていたよりもずっと掠れていた。


寝室の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


ヴィオラは寝台の端に腰掛けたまま、

動けずにいた。

任務なら、こんなことで固まったりしない。

相手の懐に入り込むことも、

時には体を使うことも、覚悟の内だったはずだ。


なのに、アルノルトがゆっくりと近づいてくるだけで、

心臓が跳ねる。


「怖いか?」


彼の声は、思っていたよりずっと優しかった。


ヴィオラは首を横に振る。

嘘ではなかった。怖いのとは、違う。


「では、何だ」

「……分かりません」


正直な答えだった。

アルノルトは僅かに目を細めると、

ヴィオラの頬に触れた。

指先が、まるで壊れ物を扱うように震えていた。


「俺は、今日という日をずっと待っていた」

「政略で決まった話です」

「ああ。それでも」


彼の顔が近づく。


「政略でも、俺は運が良かったと思ってる」


唇が重なった瞬間、

ヴィオラの中の「任務」という言葉が、

遠くへ霞んでいくのが分かった。


灯りが落とされ、

月明かりだけが部屋を満たす。


アルノルトの手は丁寧で、

性急さよりも、確かめるような優しさが

先にあった。

ヴィオラの纏っていた鎧のような冷静さが、

少しずつ剥がれ落ちていく。


「……ヴィオラ」


名前を呼ぶ声に、

これまで聞いたどの声とも違う響きがあった。

夜は、静かにそして激しく更けていった。


朝の光が、

カーテンの隙間から差し込んでいた。


ヴィオラが目を覚ますと、

隣にはまだ眠るアルノルトの姿があった。

整った寝顔を、少しの間ぼんやりと眺める。


(……参ったな)


昨夜のことを思い返して、そう思った。

それだけだった。

動揺も後悔も、驚くほど薄い。

任務のためと割り切っていたはずが、

思っていたより悪くなかった――


その事実に、

自分でも拍子抜けするくらいだった。


体を起こそうとした瞬間、

隣から手が伸びてきて、腕を掴まれた。


「……どこへ行く」


アルノルトの声は、

まだ眠気の残るしゃがれた響きだったが、

目はしっかりと開いていた。


「起きていたんですか」

「今起きた」


嘘だとすぐに分かったが、

ヴィオラはあえて指摘しなかった。


アルノルトは腕を引き寄せ、

ヴィオラを再び寝台に沈めると、

満足げに息を吐いた。


「――夢じゃなかったな」

「何がです」

「君を、俺のものにできたことが」


あまりにも真っ直ぐな物言いに、

ヴィオラは一瞬言葉を失った。

他の男なら、もっと言葉を選ぶところだろう。

だがアルノルトには、

迷いも駆け引きもないように見えた。


「政略結婚ですよ」

「それでも、俺は君を離すつもりはない」


アルノルトの目には、

隠しきれない高揚があった。


まるで、望んでいたものすべてを

一晩で手に入れた子供のような――

そんな喜びが滲んでいる。


「これから、ちゃんと大事にする。約束する」


ヴィオラは、

その言葉にどう返せばいいのか分からず、

ただ小さく頷いた。


(この人は、本気で言っている)


そう悟った瞬間、

任務のはずだったこの結婚が、

思っていたより厄介なものになる予感がした。


―――――――――――――――――――――

挿絵(By みてみん)

ちょっと短編に挑戦してみようと思います。

ぜひ、お暇な時に読んでくださいませ。


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