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ココロに心を読まれる時のトキ  作者: しぐれのりゅうじ


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心が読める転校生

「私は心が読めるの。だから近づかない方が良いわ」

 隣の席になった、見た目小学生女子の転校生。彼女に話しかけると、そっけない対応で、それでも会話を続けると、それ以上を拒絶するような声音でそんな事を言われた。

 一応、中身は俺と同じく高校二年生のはずだ。ちゃんとここの高校のブレザーの制服を着ているし、決して見た目通りの年齢ではないだろう、多分。

「失礼ね、小学生とか。そんなわけないでしょ」

 こげ茶色のふんわりとしたショートカットの髪を横に揺らす。

「そうだよなごめん……ってもしかして今心を読んだのか?」

「そうよ。まぁ見た目の事はよく言われるから読む必要すらないけれど」

 童顔で華奢で小柄な見た目と反して、仕草や表情、話し方は落ち着いておりどこか大人っぽく、プラマイゼロで同学年な気がしてくる。

「どういう計算式なのよ、それは」

「おおっ! 本当に読めるんだ!」

「そ。だから改めて言うわ。私とはあまり関わらない方が良い」

 流石に今のツッコミは心を読めなければできないだろう。それに、この世界には魔法もあれば超常現象も何でもある。そういう人がいても何も不思議じゃない。

 だからそれを信じて、俺は読まれる事もわかりつつも本音を伝える。

「俺、人の心を読んでみたいって昔から思ってたんだ。何というか憧れ、みたいな感じで」

「……え」

「だから、そんな事が出来る君と仲良くなりたい」

 恥ずかしい事を言っている気がするが、口は動き出していて言葉は既に出ていた。

 彼女は目を丸くして数秒俺の事を見つめ、しばらくするとようやく再起動する。

「……おばか。心を読まれる事がどういう事かあなたはわかっていないわ」

「特別、隠したいことがあるわけじゃないし、逆に俺の事を沢山知ってくれるってことじゃん。それは結構嬉しい気がするんだけど」

「わかってると思うけど、私と仲良くしてもあなたが心を読めるわけでもないわよ」

「別になれなくても、凄いなって思う人と仲良くなりたくなるのは普通じゃないかな」

 俺の言葉に彼女は呆気にとられたように口を小さく開けている。

「……本当に心からそう思ってるのね、呆れた。いえスイート呆れたわ」

「スイート……? まぁとにかく……これからよろしく、ココロ」

「はぁ、止めても意味ないみたいね。あなた、お名前は?」

「俺はトキ、よろしく」

 そう微笑みかけるとココロは困ったように苦笑を浮かべる。

「言っておくけど、一応は普通に接するけど、あなたの気持ちに応えるつもりはないから」

「りょーかい。今はそれでいいよ」

 最初からここまで踏み込んで関係を構築させようと思えたのもするのもほとんど初めてだ。そしてそれを持続させていきたいとも思えたのも。

 きっとこれが運命の出会いだ。

「運命って大げさな。はぁ……あなたと関わるとスイート苦労しそう」

「……そのスイートって何? 甘いの好きなの?」

「甘いお菓子は好きだけれど……これはただの口癖よ」

「へぇ、何かいいね可愛い感じがして。俺も使ってみようかな」

 言霊じゃないがネガティブな事で使ってみるとまろやかな中和されそうな気がする。

「……そう? 変に思わずそう思ってくれてるのは……スイート嬉しいわ」

 ころっと機嫌が良くなる。心を読めない俺がすぐに分かるほどで、落ち着いているが意外と分かりやすいのかもしれない。そしてチョロいのかもしれない。

「別にチョロくないから」

「ちなみに俺はすぐに人を好きになっちゃうから、仲間だ」

「だからチョロくないから! 覚悟していて、私はあなたとは全然違うし、相容れないって事をこれからの時間で教えてあげる。そして心を読まれる恐ろしさもね!」

「まじか! おお、これから心を読まれまくるのか……何かワクワクしてきた」

「はぁ……あなたってスイート変人ね」

 これが、ココロと過ごす日々の始まりだった。


 ※※※


 時は2100年。日本では初の完全没入型のVRゲーム『リ・ユーウ2』が生まれた。

『リ・ユーウ2』の舞台は何でもありな世界。現代、SF、ファンタジー等々あらゆる要素が混ざっている。

 そんな特殊世界に仮想空間にダイブしたプレイヤーには一つの制約があった。それはゲーム内にいる間は、現実の記憶がロックされるというもの。つまりその世界に生まれた人間として生きられた。プレイヤーが現実に戻れば、ゲーム内の記憶は残る。まるでリアルな夢を見たような体験が出来た。

 全く違う人間となり、剣も魔法も未来技術も存在する何でもありな世界を生きられる。そんな世界に魅了された人々は毎日のようにダイブして、第二の人生を歩んでいた。

 それと同時にゲーム内の出来事はリアルタイムの配信でもアーカイブでも視聴可能だった。視聴者は仮想空間内のプレイヤーの見ている世界を一人称視点で見て楽しむことが出来る。

 視聴者の一人であるあなたは今日も今日とて平凡な高校二年生、トキの人生を眺めるのだった。


※※※


 2026年6月。暑い日があれば、突然雨が降り、すぐに夏のような日が現れる。そんな梅雨に入りそうで入らない不安定な気候の中、俺はいつも通り、ギリギリの時間に登校していた。   駆け足で教室に入り、俺が向かうのは一番後ろの窓際の席……ではなくその隣。俗に言う主人公席にはココロが座っていた。まだまだ他のクラスメイトよりも目立つものの、転校生という肩書にも少しずつ新鮮味がなくなりつつある。

「おはよう」

「おはよう。あなたいつもギリギリね」

 落ち着いた様子で座っていたココロは、俺を見るなり呆れたような表情を向けてくる。出会って数週間程度だが、すでに俺に対しては遠慮がなくなりつつあった。

「遠慮とかそういうのじゃなくて、こんな毎日毎日遅刻ギリギリだと、なにしてんのってなるでしょ」

「いやー、ついつい起きるのが遅くなるんだよ」

「また夜ふかししたのね。いい加減、早く寝たら?」

「ははっ、理由もわかってるくせに」

「……スマホの中のアイドルを育成してたんでしょ。アイドルを大切にするのもいいけれど、自分の体も大事した方がいいんじゃない? ……というか、普通に心読まれる前提で会話するの抵抗なさすぎでしょ」

 こんな風に心を読まれながらも会話するのも自然になってきた。何だか自分を深く知ってくれているような気がして、読まれる度に嬉しくなる。

「本当に変わってる。心の底からそう思ってるのが」

「ふっふっふ、もちろん」

「褒めてないし。まぁ、嫌われるよりは好意的に思われる方がましだけれど……でもやっぱりあなたは読まれる本当の怖さをわかっていないのよ」

「そうかな」

「だから今日こそ、しっかりと教えてあげる。そうすればきっと私から離れる」

 自分でそうアクションを起こすと言っておきながら、寂しそうに微笑む。

 ココロは基本的に人と関わろうとしない。理由は彼女が俺に告げている通り心を読めるからだ。クラスメイトも一人でいたいオーラを剥がしてまでも関わろうとする人はおらず、必要最低限のコミュニケーションを取る程度だった。

「良いよ、その勝負受けて立つ。それでも俺のこの想いは変わらないけど」

「ふふっ、なら遠慮はいらないわね。後悔しないでよ」

 この気持ちの本気さを証明するため、今日からトキとの戦いが始まった。互いに笑みを浮かべながら。


 ♢


「ねぇ、あなたって恥ずかしい過去ってある?」

「な、何急に」

 内容と先生の話し方によって、眠くなってしまう古典の授業を受けている中、突然ココロがそう話しかけてくる。

「聞いてなかっただろうけど、古典の『はずかし』の使い方を説明してたのよ。それで、何となく恥ずかしい過去とかあるのかなって気になって」

「どうしてその流れで俺の過去を気になるのか良くわからないけど……まぁ、あるよそりゃあ」

「ふふっ、そうよね。誰しもあるものよね」

「ああ」

 そこで会話は止まった。再び先生のゆったりとした説明が明瞭に聞こえてくる。

 一体何なのだろうか。本当にただそれだけを聞いただけで、そこから深堀りしてくるわけでもない。そのせいか、あまりにも退屈すぎるのも相まって、つい、いくつかあった過去を思い出す。あの悶えるほどの羞恥を感じた瞬間を。

「へぇ、そんな事があったのね」

 過去を追想し終えると、ココロのささやき声に現実に引き戻される。横を振り向くとココロは不敵に笑っていた。

「……まさかさっきの質問は」

「まんまと罠にかかったわね。ありがと教えてくれて」

 勝ち誇ったような笑みと声だ。ムカつくよりも子供っぽくて可愛らしいという感想が出てくる。

「か、可愛いとか思わないでくれる? 今はしてやられたって悔しがるところでしょ」

「だって、別に悔しくないし」

「強がっちゃってあなたこそ可愛らしい」

 そう、こちらの腕をちょんちょんつついてきて挑発してくる。

「え……強がりじゃないの? い、いえ! なら私の口からあなたの恥ずかしい事を聞かせるわ。心を読まれ知られて話される苦痛を思い知りなさい」

 もはや授業そっちのけでココロは俺の過去を語りだした。

「中学二年生の初めの頃、あなたは隣の席になった女の子と趣味の話をした」

「……」

「そこでその子がアニメの話をしてくれた。それもコアな人が見る深夜アニメ。それについて楽しく話した後に、あなたはその子がアニメ好きな人だと確信して……そして事件は起きた」

 わざとなのだろうが、まるでとんでもない事が起きるような語り口調にしてくる。

「同士だと思ったあなたは、リミッターを解除して、早口でオタク語りを始めた。その作品だけに飽き足らず関連するものにまで広げて深い話をした」

 我ながら軽率だった。その作品はコアな人向けであるが、同時に有名作品でもあって色んな人も見ていたのだ。

「ただ、段々と相手の表情が困惑している事に気づいた。そしてあなたが話し終えたのを見ると、その子は苦笑しながら」

 これから大きな一撃を繰り出すと言わんばかりに間を少し開けると。

「く、詳しいんだね……。そうちょっと引いたような声で言われたのよね。以降気まずい空気になる中、あなたは羞恥と後悔に包まれた」

 ココロは勝利を確信したように頬杖をついて俺を見つめてくる。

「ふふっ、スイート恥ずかしかったでしょうね。それ以来あなたは、同じ趣味の相手にすらそういう話を話せなくなったのだから」

 言い終わると、したり顔をする。俺の敗北宣言を待っているようだった。

「いやーまじでそうなんだよ。あれは、めちゃくちゃ恥ずかしかったわ」

「……え」

「いやーわかってくれて嬉しい。ガチであれ以来話せなくなったからな」

「恥ずかしく……ないの? 勝手にそんな過去を読まれて嫌な気持ちにならないの?」

 信じられないと、声音だけでなく大きく開いた瞳が雄弁に語っていた。

「まぁ昔の話だし。それに、これが俺のダメージになるほどの思い出って考えてくれたんだろ? だから共感してくれたみたいで逆に嬉しいというか」

「それを心から思ってるって、スイートポジティブね」

「そうかな……でもココロの前ではあんまりネガティブな気持ちにならないんだよな」

「何よそれ……。これが効かないなら、次はこれよ!」

 次にココロが選択したのは、またも中二の初めの頃。放課後、家に帰るため俺が駐輪場にいると、さっきの女の子にじゃあねと言ってくれた。隣の席でもあって少し授業でも話していたから、その挨拶が仲良くなった証拠だと感じて俺は嬉しくなった。それで、意を決して挨拶を返すとその子は少し驚いて、そこからまたあの苦笑をすると。

「あなたの一つ奥側からじゃあねと女の子の声が聞こえた。そう、それはあなたにじゃなかった。その後、一応軽くあなたにも挨拶をしてくれたけど、その優しさがさらにあなたの羞恥に火をつけた。ふふっ……これはとっても恥ずかしいエピソードね」

「そうなんだよ! あれから一時的に挨拶するの怖くなったからね。やっぱそうだよな、誰でもこんな事があったら恥ずかしいよな!」

「ちょっとはダメージを受けなさいよ!」

 たまらなくなったのかココロは少し声が大きくなる。

「そこ、静かにしてください」

「す、すみません」

 ぎりっとココロに少し睨まれる。勝手に自爆したくせに俺のせいにしないで欲しい。

「それは悪かったわ。そんな事よりこれも駄目なの? この過去はかなり精神に効いてたみたいなのに」

「そうなんだよ。今となってはもうかさぶたになったけどな」

「……それを無遠慮に剥がしたのだけど。スイート痛いでしょ」

「痛みよりも、それを見て分かってもらえるほうが嬉しいな。俺は……ずっとそういう恥ずかしい系の話を誰かに聞いて欲しかったんだよな」

 心の中でその真意は読んでもらえるだろうけど、俺は自分の口で伝えたかった。

「でも、そういうタイミングって中々なくてさ。他人が聞いて笑えるものかもわからないから、気軽にも出せないし。ずっと詰まらせてたものを吐き出せた気がする。……ありがとう」

「お礼とか……止めてよ。私は嫌がらせのつもりで」

 でも、それで心が軽くなったんだ。ありがとう。

「はぁ……私の負けよ。悪かったわね心に土足で踏み込んで。けれどまさか、これが逆効果になるなんてね。あなたってスイート変よ」

 ココロはふっと力が抜けたように、柔らかく微笑んだ。しょうがない奴だなと思われるのがわかる。

「ご明答よ」

「じゃあ、勝負にも勝ったし変わり者同士これから仲良くしよう」

「結局断っても、勝手に私に絡んで来るんでしょ」

「まぁな。それくらい積極……いや、スイート積極的に行きたいね」

 こんな風に思えたのは生まれて初めてだ。運命の相手とさえ思える。

「そう。なら勝手にすれば」

 冷たくあしらっているようだが、俺に少しデレてくれたのがまるわかりだ。

「デレてないから!」

「お、おい」

「あ」

 先生の声が止まって厳しい視線がココロに向けられる。

「ココロさん。後で職員室に来るように」

「は、はい……すみません」

 これは俺の心で遊んだ事のしっぺ返しなのだろうか。まさしく因果応報というやつだ。

「あ、ちなみにトキくんも一緒に喋ってました」

「な、何を……!」

「ではあなたも職員室に来るように」

「……はい」

 こいつ、なんてことを。俺まで巻き込みやがった。

「だって、あなたもしっかりと関わってるじゃない」

「ぐっ……ココロが始めた事なのに」

「それに運命の相手ならこういう時も一緒にいなきゃ」

 意趣返しのつもりかめちゃくちゃ悪い顔をして、俺にだけ聞こえる小さく輪郭がはっきりした言葉をぶつけてくる。

「ふふっ、どうやら感じたみたいね」

 俺はこの瞬間、初めて心を読まれたくなかったと思った。スイート悔しかった。

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