令嬢の雲隠れ11
「実は、わたくしも、フィリーさんに依頼をした身なのです」
ミラージュは続けます。
「……依頼内容は、身辺に起こる嫌がらせ原因究明、そして排除です。ほら、よくあなたの前でわたくし体調を壊したり、荒らしなどの被害にあっていたでしょう? ですから、依頼してみましたの。……すると、大変興味深い結果を得ましたの。なんと、犯人としてあなたの存在が浮上してまいりました。私驚いて驚いて……でも、フィリーさんの推理は信用に値するほど精巧でしたから疑いようもなくて……」
「と言うわけで、現在、私フィリーはオリバー様ではなく、ミラージュ様のご依頼により動いている身です」
そうなのです。私は今、オリバーの依頼を早々に片付けミラージュの依頼を解決しています。
オリバーからお金をいただきたいという願望と、ミラージュを助けたいという気持ちを両方叶える方法がないか、私なりに考えました。
その結果、ミラージュからも依頼を受けることで、オリバーの依頼完了後にミラージュ助けられるのではないかとの発想に至ったのです。
ミラージュからの依頼により、オリバーが他人の依頼に口出しする権利は無いため、私は堂々と嫌がらせの真相を暴き、証拠を掴みました。後はミラージュからオリバーを引き離せばミラージュの依頼も達成されます。
「オリバー様は現在、私にとってただの加害者でしかありません。ミラージュ様の依頼を達成するためにはあらゆる手を取るつもりです。……どうでしょう。何かおっしゃりたいことはありますか?」
オリバーは焦りからか呼吸が荒く、血走っています。ここまで顔に出してしまっていれば、ミラージュ様への嫌がらせに関して、罪を認めるも同然です。
「オリバーさん、罪をここで認め、平和的な婚約の破棄、そして金輪際近づかないことを誓うのであればミラージュ様は罪として公にするは現状控えるとおっしゃっています。いかがいたしましょうか」
「まってくれ、ミラージュ。私が君に酷いことをするわけがないじゃないか」
少し懇願するようにミラージュを見たオリバーですが、ミラージュは毅然とした態度をとりました。
「いいえ、オリバー様。わたくしはフィリーさんを信じることに決めたのです。それに、何よりも証拠がでておりますから、それが事実を物語っています。貴方はさも私を心配するかのように装っておいて、実際のところ生存確認をしたかっただけでございましょう。私が生きていて残念でございましたね」
「そんな……」
淡々とお話するミラージュは顔は少し笑みを浮かべてらっしゃるものの、隙の無い少し近づきがたい雰囲気をされています。
以前はレイバーばかり話し、ご自分でお話するのもやっとのようでしたが、笑みを浮かべて話が出来るほどに決意を固められたのでしょう。
私はミラージュ様の頑張りを無駄にすることのないよう、精一杯圧をかけてオリバーに言いました。
「さて、あなたを排除することで依頼達成になるのですが……物理的に排除されたいですか? 社会的に排除されたいですか?」
オリバーは私と目が合うと、少し身震いをされました。そして、ミラージュと私とを恐ろしい物でも見るような目で、交互に見てきます。しかし、次第に状況が好転することはないと思ったのか、徐々に表情に変化が現れました。
あの表情は……『諦め』ですね。
「フィリー。あんたが関係している時点で俺は負けだね」
そう言うとオリバーはポツリポツリと話始めました。
「知っているかもしれないが、俺は確かに悪意を持ってミラージュの捜索依頼をした。生存確認のためと言われればそうかもしれない。生きているか気が気でなかった。ミラージュが生きていれば、また追い詰めてやろうとさえ思っていた。でもまさか本人への嫌がらせがばれているとは思ってなかったんだ。しかし、君がミラージュからも依頼されたということは、既にミラージュは俺からの嫌がらせに気づいていたということなのだろう。……そうなんだろ? ミラージュ」
「ええ。わたくしは気づいていました。初めこそ疑いもしていませんでしたが、後々全てに貴方が関連していることが分かりました。それにあの貴方が個人的に恨みを持ったであろう件も覚えています。でも、いつか改心してくれるだろうとわたくしは希望を捨てずにいたのです。……その希望は消え去りましたけれども」
「希望だと? 君は知っていてしばらく僕を放置していたのか?」
「はい。 ですが、もう改心は無駄であろうと思ったため、このようにフィリーさんやレイバーさんに助けを求めることにしたのです。家の者もそれを知っていたので、あえて貴方に居場所を教えてなかったでしょう? ……貴方は私の期待を裏切ったのです」
「……そうだったのか。私はまたしても君の手のひらで踊らされていたんだな……」
オリバーは悔しそうに地面に崩れ落ちました。
「では、オリバーさん、お覚悟はよろしいですね?」
私はオリバーに寄り、ニコリと笑いかけました。
全て悟ったであろうオリバー。もはや反論する余地もないらしく、オリバーは目を閉じて「あぁ……」と弱々しい返事を残しました。
私は鋭く光沢のあるものを腰から取り出します。
……そして、今回の依頼は無事達成されました。




