令嬢の雲隠れ10
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数日後、私はミラージュの屋敷に尋ねました。今回はレイバーに同伴しています。
前回、ミラージュの家にはレイバーの部下として顔が知られたので、今回は堂々と屋敷を歩きました。
「ごきげんよう、オリバー様」
ある部屋のドアを開けると、中にはオリバーが待っていました。
今回、私がこの屋敷を訪れるにあたり、お呼びだてしておいたのです。
「やあ。えーっと、ここではフィーって呼ばれてるんだったか。フィーさん、待っていたよ」
「お待たせして、すみません。実は今回大事な調査結果が分かったので、こちらに来ていただいたのです」
「うん、それは聞いている。もしや、見つかったのか……?」
「……」
「見つかったんだね? 黙ってないで何とか言いなよ」
一人、とても嬉しそうにオリバーは言いました。小躍りでもしそうな勢いです。しかし、私はニコリと笑うと一言まず添えました。
「あらかじめお聞きします」
すると、オリバーは不思議そうにこちらを見ました。
「もし、ミラージュ様の行方が分かったら、謝礼は約束通りいただけますね?」
「当たり前じゃないか。僕は彼女に会いたいんだ」
「では、発見され、あなたの前に出た段階で謝礼がいただける基準になるわけですね?」
「ああ。そうだとも。なんだいもったいぶって。早く結果を教えてくれ」
私が確認している時間も惜しいと言わんばかり、急かすオリバー。私はオリバーが本気であるのを確認すると、ドアに手をかけました。
「分かりました。では……」
そう言うと、私はドアを開きました。
ドアの向こうには、貴族にしては簡素な服装をしたミラージュが立っていました。
「ミラージュ!!!!」
オリバーはダッと駆け出し、今にもミラージュに抱き着こうとしました。しかし、その手をレイバーが押さえます。
「何をする!」
「早まらないでください」
レイバーが鋭い目つきでオリバーを睨みました。
「な……!?」
困惑するオリバー。何故、久々の再会を喜ばせてくれないのかと目が訴えています。
「オリバー様、ミラージュ様にはお会いできましたでしょうか?」
私はゆっくりとオリバーの前に立ち、微笑みながら問いました。オリバーは困惑と焦りの混じった声で応えました。
「ああ、会えたさ。しかし、近づけない。再会を喜んではいけないのか?」
「では、事実上『会えた』ということにはなりましょうね?」
「ああ、そうさ。距離はあるがね。さあ、早く私をそちらに行かせてくれ」
「では、オリバー様からの依頼はこれで完了と言うことになりますね」
「ああ、そういうことか。お金を払うまでは会わせないと。君はつくづくがめついね」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてはいない。これだからこの手の輩はたちが悪い。……まあいい、ほら! 謝礼の残りだ。これでいいだろう!」
オリバーは金銭の入った袋を乱暴に手渡しました。いつもは丁寧な所作だったのですが、焦りや苛立ちから少し横柄になっているようです。少し私もよろけましたが、無事謝礼をいただけたので、にっこりと笑顔を返しました。
「さあ、これで契約は終了だ。君はどいてくれ。私は彼女に用がある」
そう言うと、オリバーは私を押しのけてミラージュの所に行こうとします。
しかし、再びレイバーによってその道は閉ざされます。
「なんだ!? 金は払った! まだ私を拒む理由があるのか?」
オリバーは私を睨みました。必死さがとても伝わります。ただ、私はそのオリバーとは反対に、とても穏やかに笑いかけました。
「はい。そうでございます」
恭しくお辞儀を添えて、私は大きく頷きました。
すると、オリバーはまたしても驚いた顔をしました。そして、理解できないといった様子で私に詰め寄ります。
「そうだと? ということはまだ何かあるということか?」
「はい。その通りでございます」
私はオリバーの圧に負けじと、丁寧に受け答えをしました。オリバーは苛立ち頭をかきむしります。
「なんだって! 他に何があるというんだ! 」
私はニコリと微笑んだまま無言でオリバーを見上げました。
「さて、何故なのかご自分でお分かりでしょう?」
「私がさも把握しているような口ぶりだな……金は払った。それにこの家の住民にも許可は得ている……何が、何がだめなんだ」
私の余裕の表情に対して、オリバー逆に焦りを感じたのかぶつぶつと呟き始めました。
その様子が可笑しくて、笑ってしまいました。すると、横にいたレイバーも、ドアの向こうのミラージュもつられて笑いだします。
「な、何が愉快なんだ! 何故笑っている?!」
口裏を合わせたように笑い出した私達に対して、オリバーは理解できない様子でした。
「すみません。つい面白くて笑ってしまいましたわ。だって、ご自分が一番分かってらっしゃるのに、分からないだなんて。ふふっ」
「どういうことだ」
「だって、ミラージュ様に一番危害を与える存在をご自分で、把握してらっしゃりますでしょう? そんな方をミラージュ様に近づけるわけにはまいりませんから」
「把握している……?」
「あら、まだシラを切るおつもりですか? 何を隠そう貴方様が一番の加害者ではないですか!」
「……!?」
急に、オリバーは黙りました。
苛立った様子は無くなり、代わりに困惑と焦りと……これは恐怖でしょうか。顔がみるみる内に青白くなっていきました。
非常に分かりやすいですね。
「あなたがミラージュ様に対して、婚約以外の点で接触されていることは存知あげています。何故だと思いますか? 本人に聞いてみましょう」
私はミラージュに目配せをします。待機していたミラージュは貴族らしく凛とし、そして鷹揚に言葉を発しました。




