隣人B、分岐点に立つ。
俺はカイン。
アスツールにあるスミナ商会2号店で店員をしている。
将来は自分の料理屋を開き、そこで腕を振るうのが夢だ。
エルクと村を出てアスツールに来てから早6年、人とも大分話せる様になったし、金もコツコツと400万コルを貯めた。
最近では給料も上がったので、あと4,5年も金を貯めれば開店の目処は経つだろう。もう少しだ。
そんな事を考えながら商店に売り物を陳列していると、店長から声を掛けられた。
「カイン、商会長がお呼びだ。ここはいいから行っておいで。」
「商会長が…?分かりました。行ってきます。」
商会長から直接の呼び出しとは、何かやってしまっただろうか。特に心当たりは無いが…。
商会本部で働くエルクはともかく、店舗で働く俺はあまり商会長と話す機会もないので少し緊張する。
商会長室に着いた俺はノックをして声を掛けた。
「カインです。お呼びと聞きました。」
「おう、入ってくれ。」
声色を聞く限り、怒られる用件ではなさそうだ。
「突然呼び出してしまってすまんな。急ぎ…でも無いが、早めに決めておきたい件があるんだ。」
俺に何か特別な仕事が与えられるという事か?
「ミロン亭はお前も良く知っているだろう。」
「はい。」
もちろん知っている。
スミナ商会と契約して、安く昼飯を出してくれている店だ。
よく分からないが、ヤマダが″シャインショクドー″と呼んでいる店でもある。
「あそこの爺さんが今朝、とうとう腰をやっちまった。歳も歳だし、そのまま引退だそうだ。」
「そういえば今日は店が閉まってました。娘が居たと思いますが、継がないんですか?」
「ありゃあ実家の手伝いみたいなもんだ。飯は爺さんと婆さんだけで作ってたから腕もそう無いし、どうやら子どもが出来たらしく、稼ぎは別で働いてる夫に任せるとさ。」
料理の腕が無いならしょうがないが、俺からすれば継げる店があるのに継がないというのは贅沢な話だ。
「それで、俺に話というのはその店の事ですか?」
「あぁ。昼飯が安く済むってのは思ったより商会員から好評でな。出来れば続けたいんだが、カインお前あの店を買う気はないか?」
ようやく事情が飲み込めた。
直接伝えた事は無いが、商会長はエルクかヤマダあたりから俺が店を持ちたいと思っている事を聞いたのだろう。
あの店なら立地も良いし、昼食にスミナ商会員が来るとなればある程度の売上も確保される。
問題は資金と人手か。
「それで、店はいくらなんでしょう。」
「1200万コルだ。とりあえず即金で600万払うなら、残りは10年以内でいいと爺さんは言っている。」
破格だ。
元々俺がやろうとしていた店の2倍以上の敷地がある。
普通に買えば1500万は下らないだろう。
ここか。
ここが人生の分岐点か。
「やりたい気持ちが強いですが、少しだけ冷静に考えさせて下さい。明後日までに回答します。」
「分かった。爺さんには俺から伝えておく。」




