サラリーマン、帰国する。
俺たち一行は予定通り、閉会式の次の日には鉱石祭の開催地であるカレルから帰路へ着いた。
後は特になんということも無い、大体行きと同じだ。
帰りの船でも船員が釣った魚に舌づつみを打ったり、馬車の車輪が壊れて野営が1回多くなった事ぐらいしか特筆する事も無かった。
馬車ではハマダ魔道具工房への転職に際しての雇用条件も決まった。
スミナ商会での給料は10日で10万コルだったが、工房では16万コルになる。給料が上がるのは嬉しいが、そこそこ給料が良いらしいスミナ商会より60%増ってのはプレッシャーもある。でも一般の転職とは違って、先に利益をもたらす成果を出してるのでちょっと気持ちは楽だ。
同行していたトトさんから行きの船で提案された、鉱石素材について学ぶ件も話が決まった。俺は10日ほど午前中に通って勉強し、ハンナさんとゲイルさんは基本的な素材は知っているので1日だけ珍しい種類を見せて貰いに行く。
鉱石素材の勉強をすると言っても、新製品を開発する機会はしばらく無いだろう。しばらく工房は鉱石祭で優秀魔道具賞を受賞したレジと、その後継機であるジテンの生産に全力を注ぐ事になる予定だとハンナさんから伝えられた。
ちなみに馬車では暇を持て余していたので、以前から気になっていた事を聞いてみた。
この世界には著作権など無いので、鉱石祭で製品の構造等を説明したら簡単に類似品が作られてしまうのでは?と。
結論から言えば、答えはノーだ。
少なくとも鉱石祭に選ばれた様な魔道具は、類似品を作ってもすぐにバレる。自分達が心血を注いで開発した魔道具で飯を食っている職人業界も、その職人達に素材を売って稼いでいる商人業界も、盗作についてはかなり厳しく対応するらしく、発覚すればどちらからも爪弾きにされてしまうらしい。
そうなれば職人としてはやっていけないだろうし、下手をしたら著作権違反よりも厳しい罰則かもしれない。
レジの販売開始初期にガストンさんが販売を急いだのも、盗作が出る前に各所で「これはウチのお抱え工房が開発した魔道具ですよ。」と伝えておきたかったのもあったそうだ。
ガストンさん、色々考えてたんだなぁ…。
そんな話をしながら移動すること19日目の夕方、ようやくアスツールの街へと帰って来る事ができた。
スミナ商会員はこれから倉庫で積荷の整理をするらしいが、工房側は特に荷物も無いので、ハンナさんから3日間の休暇を言い渡されて解散となった。
そわそわしながら家に帰ると、扉の外まで赤子の鳴き声が聞こえてきた。ウチの子だろう、元気なことだ。
「ただいまー。」
「ハヤトさん、お帰りなさい。長旅お疲れ様でした。」
「うん、座ってばっかりだったから身体が痛くなっちゃったよ…。明日から3日間は休みを貰えたから、ちょっとゆっくりさせて貰おうかな…。」
そうだ、べナにも伝えておかねば。
「べナー!工房は3日間休みで、4日後から再開するってさー!」
リビングのソファーに腰掛けながらそう声を掛けると、べナがキッチンからとてとてと出てきた。
「おかえりー。工房の件は分かったわ。ハヤトはいつからスミナ商会に行くの?」
「ん…?あぁ、伝えて無かったけど俺、工房に転職したんだよね。」
「えっ、ハヤトさん転職したんですか?」
レイナさんが鷹也をあやしながら、顔をぐりっとこちらに向けた。
「あ、うん。今までもほとんどハンナさんの所に居たし、あんまり仕事自体は変わらないけどね。」
「そうなると、家はどうしましょう?ここってスミナ商会の持ち家なんですよね?」
「あ、そうそう。何か鉱石祭で特別手当とか賞金とか色々貰っちゃってさ、そのお金でガストンさんからこの家を買ったんだ。」
「「家を買った!?」」
流石は姉妹。レイナさんとべナの驚いた顔が凄く似てる。
「うん。ガストンさんに引越しの話をしたら、500万コルにしといてやるって言うから…。」
「いや、そりゃ家の値段としては安いけど…。ハヤトの話を聞いてると、真面目に働いてるのが馬鹿らしくなってくるわね…。姉さん。姉さん!自慢の旦那がランポートで荒稼ぎして家を買ってくれたんだって!」
レイナさんはよく固まっちゃうよね。ちょっとかわいい。
べナは復帰早いんだけどな。
「え、は…あ、ありがとうございます…?」
何で疑問形なんですかね?
まあ、そもそもお礼を言われるのも変な話だが。
ちなみにこの日の夜だが、鼻息を荒くした俺はしっかりと部屋の扉につっかえ棒を挿すと、約10ヶ月ぶりとなるレイナさんとの夜の営みを2時間ほど堪能して、そのまま気を失う様に眠りについた。




