サラリーマン、てんてこ舞い。
開会式の翌朝、俺たちは既にブースに準備万端の体制で会場のオープンを待っていた。
鉱石祭期間中、一般来場者はランポートの3の鐘が鳴ってから8の鐘が鳴るまでの間は広場に入る事ができる。
街を観光した時に聞いた感じでは、大体10時から18時ぐらいだろう。
俺とメアリは鐘が鳴る約2時間毎にゲイルさんと交代だ。ハンナさんの応接スペースは常時開けておく必要はないので、適宜休憩を取るらしい。
隣の販売スペースでは、400台を5日で日割りにした80台のジテンと販売員3名が売り場の最終確認をしている。
「ヤマダくん、いよいよだね。」
「そうですね、ちょっと緊張します。それにしても、自費で連れてきたメアリにも手伝ってもらって良かったんですか?」
「宿に置いといても退屈だろうし、いいんじゃない?本人もやる気みたいだし、いい経験になるよ。」
当のメアリはニコニコ顔でレジをいじっている。
まあ楽しそうだしいいか、と眺めていると鐘が鳴った。
記念すべきお客さん第1号は、早足でやって来たおじいさんだった。
「ハマダ魔道具工房のブースはここかっ!?」
「え、えぇ。ご来場ありがとうございます。早速ですが、ウチの選定品の実演紹介をさせて頂いても?」
「あぁ、いらんいらん。毎日使っとるからの。」
おや、既にユーザーだったか。
「それじゃあ説明は不要でしたね。隣の販売スペースに新型のサンプルがありますので、是非触ってみてください。」
「おっ、あれか!」
新型を楽しみに、開場1番に来てくれたんだろうな。ありがたい事だ。
一緒に販売スペースへ行き、サンプルをいじるおじいさんから感想を聞いているとぽつぽつと人が集まって来たので、隣に戻って実演を始める事にした。
「皆様、本日はハマダ魔道具工房のブースへご来場ありがとうございます。当工房の選定品であるレジの紹介をさせて頂きます。こちらは数字を打ち込めば誰でも簡単に計算ができる魔道具となっておりますので、実際に使う所を見ていって下さい。」
合図をすると、メアリが客側にレジの計算結果が見える様にしながら、サンプル帳票を集計していく。
10人程になっていたお客さんから「ほー。」とか「へー。」とかの感心した様な声があがる中、その内の1人が俺にこう言った。
「ふーん、間違いが無くなりそうってのは凄いな。でも、見た感じだと計算に慣れた人がやる分には、時間はあんまり変わらなそうだな。」
「ええ、まあそうで…」
「わかっとらんの、若いの。」
会話の途中で被せてきたのはさっきのおじいさんだった。
「ありゃあまだレジに慣れてない小さな子が使っても、そこそこ早くて正確に計算できるっていう実演じゃろ。慣れた人がやりゃ、もっと早いわい。」
「そうなのか?」
「ああ。見せてやろう。」
おじいさんはそう言ってメアリの隣に座ると、2台目のレジを使って集計を始めた。
あの、ここハマダ魔道具工房の実演スペースなんですけど…。
しかし、言うだけの事はあった。
メアリより後に集計を始めたおじいさんは、慣れた手つきでレジを叩くとあっという間に計算を終わらせた。
「ほれ、こんなもんじゃ。慣れると良い魔道具なんじゃよ、これは。」
その圧倒的な計算スピードにお客さんからは拍手が巻き起こった。
いや、2回目になるけど、ここハマダ魔道具工房の実演スペースなんですけど…。
まあ、おかげ様でそれを見ていた内の3人が1台ずつジテンを購入してくれた。
ちなみにおじいさんは既に支払い済みだったらしいジテン10台を担いで去って行った。
なんだったんだ、あの人は…。




