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サラリーマン、異世界で働く。  作者: 雨崎 王助
漫遊編
51/123

義妹、働く。

姉の夫、ハヤトは不思議な人だ。


落とし人だから変わったところが沢山ある。

まず、名前が変だ。ヤマダでもあり、ハヤトでもあるそうだ。よく分からない。


そして頭がいい。買い物に行けば、店員が時間をかける支払いなんかもすぐに計算できる。

でも、力は無い。引っ越しの時に荷物を運んでくれたけど、私とあまり変わらないんじゃないかな。


あと、優しい。

初対面のときは「姉さんの夫に相応しいか見極めてあげるわ。」なんて言ったけど、不安だった。

美人の姉さんが欲しいといっても、私と弟は要らないだろう。

姉の手前、一緒に住むと言っても、弟と二人で隅に追いやられる様な生活になるんじゃないかと思っていた。


でも違った。

ぼろの布団を見ればすぐに新しいのを買ってくれたし、私とイルが作った料理を「うまいうまい。」と言いながら喜んで食べた。

姉と旅行に行くとなっても、最初は当然の様に私とイルも連れて行こうとしていた。

いざ2人で行くと決まったら、「俺たちも贅沢してくるから、イルと美味しいものでも食べなよ。」と大金をポンと置いていった。


旅行から帰って来たら、きれいな髪飾りをお土産にくれた。まるで実の妹の様な扱いだ。

いや、実際にハヤトは私たちも実の家族として見てくれているのだろう。

ハヤトの居た国ではそういうものだったからなのかは分からない。だが、なんにせよありがたいことだ。


また、ハヤトと結婚して夜の仕事を辞めた姉は本当によく笑う様になった。

夜の仕事が大変だったというのもあるだろうけど、ハヤトと居ると安心できるのだろう。

本当にこの人が姉の結婚相手で良かったと思う。今まで苦労をかけた分、姉には幸せになって欲しい。


そのためにも、早く自立をしようと思った。やはり、幸せに暮らすためにはお金が必要だ。

お金があればぼろの布団をかぶって、狭い部屋に3人で縮こまって寝る必要もないし、安くて固いガムーの肉を買う必要もない。

今は義兄と姉の稼ぎで余裕がありそうだが、いずれは姉も子供を産んで働けなくなるだろう。

その時のために、私の食い扶持だけでも貯金に回して欲しいと思う。


14歳になって、さあ仕事を探そうと思った時に、最初に相談した相手はやはりハヤトだった。

ハヤトに何かを相談すると、「うーん、困ったね。」なんて苦笑しながらあっさり解決してくれるのだ。

もちろん、スミナ商会へのコネも目当てではあったが、何の知識もない小娘を簡単に雇ってくれるとは思ってはいなかった。


結局、スミナ商会では働けなかったが、以前ハヤトが手を貸したという魔道具工房であっさりと働かせて貰えることになった。

姉やハヤトとは比べるべくもないが、見習いでも自分1人なら食べていけるお給料をくれるという。


工房で働き始めると、ハンナさんが仕事を教えながらハヤトの事を話してくれた。

デンタクの開発に知恵を貸してくれたこと、

素材探しの際は魔素が扱えないので率先して雑用に回ってくれたこと、

不慣れな上に先の見えない作業は辛かっただろうに、文句も言わず手伝ってくれたこと、

試作に関しても色々と意見をくれて、それで上手くいったこと。


やはり私の義兄はすごい人なのだ。


以前、ハヤトが「俺は向こうの世界じゃサラリーマンだったんだよ。」なんて笑って言ったことがある。

そのときは"サラリーマン"とは"勤め人"のことだと思った。でも、今はなんか違う気がする。

職人が自分の技術に誇りを持って物を作る様に、義兄の語る"サラリーマン"とは仕事をやり遂げる事に誇りを持って働く人のことなのだろう。


なんだか少しカッコいい気がした。

私もそんな"サラリーマン"になれるだろうか。


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