サラリーマン、異世界だと気付く。
砂利道の上をこちらへ走る馬車に向かって歩み寄り、御者台のおっちゃんに声をかける。
「エクスキューズミー」
馬車を止めたおっちゃんは周りを見回しつつ答えた。
「アロスケル サルゥ ピジァ」
…何語だよ、コレ。
どうしたものか、と首をひねりつつ考えているとおっちゃんが鞄から指輪を取り出し、差し出してきた。
え、求婚されてる訳じゃないよな?
俺、女性が好きなんですよねぇ。とかバカな事を考えていると、更に指輪をずずいと差し出された。
何なんだろう、付ければ良いんだろうか。
付けてみるか。右手の人差し指とかでええかな。
『こんにちは。どちらの国の方でしょうか??』
「!?」
脳内で声が聞こえる!?
いや、なんだこれ!?気持ち悪ぃ!
『おや?ヒタギ石を使われるのは初めてでしたか。慣れぬ内は少し気持ち悪いかもしれませんね、申し訳ない。』
最早理解不能なんだが、これは俺の声もおっちゃんに聞こえるって事なのか!?
『えぇ、そうでございます。申し遅れましたが、私はアスツールでスミナ商会を営んでおりますガストンと申します。』
『あ、ご丁寧にどうも。私は日本でサラリーマンをしております山田 隼人と言います。』
ガストンさんは不思議そうな顔をして首をひねる。
頭の上に「?」が3つぐらい浮かんでそうな顔だ。
『ニホン…、とはどこの国の都市でしょうか?ウェンズかランポートで?』
『日本という国なのですが…。ウェンズとランポートというのは国なのですか?』
『ウェンズとランポートをご存知でない!?ロナウ、バラムと合わせて世界四大国なのですが…』
『えぇ…一個も聞いたことないんですけど…。』
『ニホンからは海路で来られたのですか?その上質な布で作られた服を見て、貴族の方とお見受けしたのですが、従者は居られないので?』
じょ、上質…?いや、上下で5万円のスーツなので安くはないが。
っていうか貴族ってなんだ。この辺は貴族制度なんてものがあるのか。
すごい丁寧な人だなと思ってたが、俺の事を貴族だと思ってたのか。
『貴族、とかではないです。仕事の帰りに急に穴に落ちたと思ったらここに落ちてきて…。いや、ホントに何言ってるのか分からないと思いますが、嘘じゃないんです。』
ガストンさんは訝しげな顔をして考え込んだと思ったら、急に「ハッ!」とした顔になった。
『もしや、ヤマダさんは<落とし人>で?』
『<落とし人>?』
『ええ。突然異界より落ちて来た人をそう呼ぶ様で、過去に隣国のバラムにも1人居たそうですよ。』
馬車と貴族はまだいいとしても、この指輪とか国名とかで嫌な予感はしてた。異界、か。
ここ地球じゃねええええぇ!!




