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さんしょくし!  作者: 赤井つばさ
二日目
22/33

第二十一話 二人の守護者のご対面ですか?

「やだね」

 ロロじぃから、仕事の内容を聞いて、すぐに断る。

 ロロじぃは、やはり、という呆れた顔をしている。

「もう一度言いますよ。

 あなたの能力は、直線限定とは、いえ、運搬スピードでは、誰にも負けないでしょう。働かないクルマは、廃材以下でごさいますよ」

「敵二人の状態で、味方一人置いて逃げれるかよ」

「私の能力は、人を守ることに特化した能力です。

 頃合いが来たら、私も逃げますよ」

 ロロじぃが笑う。

 無理だ。

 一対一でもキツイのに、一対二、しかも、一人は姿が見えない。

「勝つ見込みなんてないだろ」

「勝ちませんよ。負けもしません。

 私は、あなたと違って、脳筋ではありませんから。

 お嬢様のもう一つのブレインでごさいます。

 私には、勝ち負け以外の第三の選択肢があります。」

「なんだよ、その選択肢って」

「お嬢様の初めてのお友達を守るための選択肢でございますよ。

 あなたと梅さんがここにいては、私の計画の邪魔になります。

 あなたは、守りたくないのですか?梅さんを。マイさんを」

「守りたいに決まってるだろ!」

 梅さんこと、ばぁちゃんを右肩に抱える。

 足の武装に銀色の粒子が溜まっていく。

 左手で地面に三つ指をつく。

「すぐ戻ってくるからな!」

「必要ありません、梅さんをすぐ布団で休ませてあげて下さい。

 急所は、外れてそうですから、急げば間に合います。

 くれぐれもスナイパーに狙われないように、ビルの間を走ってくださいね」

「ああ!」

 すぐに粒子を放出させ、風の如く街中を走る。

 ビルの間を細かく曲がりながら走るため、全力で走れないが、それでもギリギリの速度を出す。

 灰色の景色が目まぐるしく変わり、少し酔いそうになる。







「さて、、、、、困りましたね。私一人になりました。敵は二人。孤立無援の状況。最悪ですね。ハア」

 執事は、わざとらしくため息をつく。

「にしては、余裕そうな顔に見えるがな」

 騎士が訝しげな声でそのため息に返す。

「いくら秀才のブレインの私も詰みますよ。困った困った」

「戦うなら腹を決めた方が良いぞ。悩むことは良いことだが、ただの悲観は時間の無駄だ」

「ご忠告有難うございます。されど、、、、、私、あなたとは戦いませんのでご安心を」

 右手を胸に当て、ゆっくりとお辞儀する。

「ほう、興味深いことをいうな、祈祷師よ。我が戦わないと?」

「先程の二対一、というのは、嘘です。本当に二対一なら絶体絶命ですが、、、」

 そこで、騎士のフルフェイスの目を真っ直ぐに見る。絶対的な自信を込めた力強い目で。



「あなたは、戦う意思のない人と戦うことを好まない。ならば、私が白旗を上げれば、戦闘が発生しない。違いますでしょうか?」



「・・・・・ほう、いい観察眼をしている」

「お褒めいただき有難うございます。即ち、この状況で私の対立しているのは、私とどこかのビルの上にいる狙撃主のみ。戦闘向きでない反面、私は、自己防衛だけは得意でございまして、、、、逃げる際には、最適な能力の持ち主でございます。そして、狙撃主の弾丸を防げるのは、先程証明済みでございます」


「あの少年を逃がしたのは、私に戦う意思を見せていたからか」

「ご明察。相手から逃げるには相手を倒さないといけない、という思考が恐らく昨日のゴリラ戦で身に付いてしまったのでしょう。ですから、私がわざわざここまで来たのです」

 赤騎士は、巨大なランスの矛先を地面に落とす。

「我としては、残念だがな。良い目をした少年であったのに、最後まで全力で戦いたかったものだ」

「いずれまた戦いますよ。戦闘型の能力者どうしなのですから。しかし、今はタイミングが悪かっただけのこと」

 祈祷服の懐から大量のお札を取り出し、「守護を」と言うと周囲に緑色の防壁が現れる。

「では、ここら辺で、引き上げさせてもらいます」

 執事は、後ろを向き、ゆっくりと立ち去る。





「ああ、1つ、、、、ブレインのお前さんに情報を1つ教えよう」

 執事は歩みを止め、後ろを振り返る。

「何でしょうか。わざわざ情報を流してくれるなんて、、、、、嫌な予感がプンプンしますね」

 自然と目付きがキツくなる。何か自分の想定と全く違う状況になる、、、そんな気配を感じる。

「さっきまで、残念がっていた騎士が嬉しそうに笑っている状況が不気味に感じるのは自然なことでしょう」

「ハッハッハッ、分かるか!我は少しこの状況が楽しい。正確には、どうなるか楽しみなのだ」

 それを聞き、頬に1粒の汗がツーと伝う。これは、、、、、、間違いない。

「、、、、厄介な人物の登場ですか、、、、、この状況を理解したくないですね、、、、いっそ、思考を停止したいです」

「騎士は、なぜ存在する?答えは簡単であろう」

 周囲の空気が変わる。闘志、殺気に満たされ、まるで灼熱の地獄釜に入れられたように、全身から冷や汗が止まらない。どんなに汗が体を冷やしても、身が焦げるような異様な熱気を持った視線が自分を見ている。


 同時に、周囲に人が現れ、周囲を歩き出した。

 しかし、その人たちの視線はどこか虚ろで、人であって、人でない存在、、、、


「騎士は、、、、主君を守るために存在する。すなわち、騎士のいるところ、主君もありぃぃ!!」


 ランスを地面にドンッと叩きつけ、叫びにも近い声で言い放つ。


 それは、執事にとって、死の宣告に近いものだった


「スーお嬢様の友人の友人に気を取られ過ぎていましたね。猛反省です」

 執事はすぐに近くのビルの壁際に移動して、そのまま壁沿いに走る。

「姿が見えないなら、せめて細い路地に移動するのが吉ですね。それに開けたところで防壁が壊されたら、スナイパーの標的です。マズイですね、本当にマズイです」


 疎らだった周囲のモブの数がドンドン増えていく。


 執事は、ビルの小道に入り、札を持って構え、腰を落とす。


 モブの隙間がなくなっていき、とうとう周囲がモブだらけで見えなくなった。


 ーーーーーー時間だ。王が、、来る。



 少しの静寂が訪れ、聞こえるのは、高鳴る心臓の音のみ。








 ーーーパリン



 緑色の防壁が壊される音が鳴る。


 そして、わざとらしく足音を立てながら、こちらに迫ってくる存在を感じる。


「そこですか!!!!」


 執事は、お札を近づいてくる者のいる方向に向かって大量にばら蒔く。数は、二十~三十枚。

 モブの中に札が吸い込まれて、見えなくなるが、すぐに唱える。


「守護を」


 誰かを守ることに特化したこの能力は、敵にダメージを与えることが出来ない。そんな能力で戦うとなれば、出来ることは、1つ。


「防壁の中に封じ込ませてもらいます!!赤の王!!!」




 いくつもの防壁の箱がいくつも展開され、赤の王を閉じ込める、、、、、はずだった。



「、、、、術が、、、、、発動、、、していない、、、」



 一瞬足音が消えたかと思うと、再びわざとらしい足音が同じ方向から近づいてくる、、、、



「おかしい、、、たしかに不確実な策だったが、術自体が発動しないとは、、、解せませんね」


 再び札をばらまき、「守護を」と唱える。



 ーーーーしかし、何も起こらない。


 何が起きている。何が、、、、


 足音が確実に近づいてくる。



 そして、足音が止まり、バサッと何かがばら蒔かれる音が耳に届く。



 それは、モブの中から上に向かって、ばら蒔かれる。


 執事には、その正体がすぐ分かった。



 紙くず、、、正確にはさっき持っていたお札が乱暴に破かれたものだった。




「リタイアする場所は、そこでよろしいのですか?」



 女性の声が聞こえると同時に鳩尾に重い衝撃がぶつかり、宙に飛ばされていた。



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