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さんしょくし!  作者: 赤井つばさ
二日目
19/33

第十八話 入浴タイムですか?

「特訓?」

 突然の提案にビックリして、思わず聞き返す。

「そう、特訓の時間だよ。今後の戦いに備えて、エネルギッシュにスマートに体を使えるように、これからロロに特訓をつけてもらいます!」

 ふふん、と言い切ったという顔で俺を見るスーちゃん。

「もしかしなくても、俺の特訓?」

「大丈夫、私とマイお姉さんが見守っててあげるから」

「モニター越しにか」

「ちゃんと熱血実況してあげる、よ」

「ごめんなさい、私は、生で見たい」

「じゃあ、ふたりがやってるのを生で見よう」

「その言い方だと俺たちがヤバいことしてるみたいに聞こえるからやめてくれ」

「見られるのが嫌なの?」

「嫌じゃない。」

「なら、良かった」

「それで、特訓って何するんだ。正直あのゴリラよりもヤバい奴なんていないと思うんだが」

 この街に来て、初めて会って、手加減されなかったら即リタイアされてたあのモブ使いだって、今なら対等に戦える自信がある。

「油断大敵だよ。何があるか分からないんだから」

「そりゃ、そうだけど」

「備えあれば、憂いなしって言うしね。それに、気になることもあるし」

「気になること?」

「そう、二人がゴリラと戦ったり、ピンチになった時に何か音が聞こえなかった?」

「バイオリンのこと?」

 もうダメだって思った時に、流れることが多かった気がする。

「うん。その音が流れると二人は、やる気を取り戻したり、戦意が復活したりしてた。

 つまり、私の考えだけど、あの音には、何か特別な意味があるんじゃないかと推測してるんだ」

「特別な意味って?」

「えーと、例えば、エンハンス能力の使い手とか?」

「エンハンス?」

「能力を強化することでございます。

 音は、それ自体は、ただの音波ですが、そこにリズム、高低などを付けることによって、人を感動させたり、鼓舞させたりする効果を付けることが出来るのです」

「そして、ここは、ビル街。楽器がある可能性は、低い。

 それよりも、私みたいに、、、」

「楽器を使う能力者がいるってこと?」

「そういうことだよ、朱雀お兄さん。その可能性の方が高いかな。そこで、もう一つ気になることがあるんだ」

「なんで、俺たちを助けたっていうことか?」

「おおー、今日は、やけに鋭いね。昆布のおかげかな?」

 そう言い、車いすのひじ掛けの部分をグリッと捻ると、ひじ掛けの折れ曲がった部分に穴が開き、中から干し昆布が一本飛び出てきて、口に咥える。

「そうだよ。朱雀お兄さんを助けたということは、朱雀お兄さんたちの味方のはず。それなら、お兄さんたちの目の前に姿を現してもいいはずだよね」

 そうだ。

「でも、姿を現さなかった」

「ということは、姿を現せない理由があった。例えば、敵側の人間だったとか」

「敵なのに俺たちを助けたのか?」

「分からないけど。姿を見せない理由が私には、これしか思いつかないの」

「あの、もしかしたら、その人を私知ってるかもしれません」

「マイ?」

 恐る恐る、小さく手を上げながらマイが言う。

「今までの戦いを見るに、緑のチームは、全員スーさんと関りがある人たちで編成されてます。なら、私たちの灰色のチームも私かシューちゃんと関わりのある人物である可能性が高いです」

「まさか」

 確か、昨日ガーディとの戦いの後、バイオリンの音を聞いた時にマイは、言っていた。

「私の友達にバイオリンをやっている人がいます。もしかしたら、その子が敵に捕まっているのかもしれません」

「それは、有力情報だな。なぜかは、分からないけど、赤のチームは、灰色のメンバーを連れ去ろうとする節があるから、あり得る話だね」

「ちょっと待て。となると。俺たちを助けたことがもし赤のチームの奴らにばれたら、、、」

「まぁ、何かしらのペナルティ。もしくは、スゴイ痛い目にあうかもね」

「すぐに探しに行かないと!」

 外に出ようとするも、腕を掴まれる。

「待って、特訓が先だよ。朱雀お兄さん」

「特訓してる場合か!」

「探索するなら、私の能力が一番安全で広範囲をモニターすることが出来ているの。

 私とマイお姉さんで探すから、朱雀お兄さんは、ロロと特訓してて!」

「でも!」

「害ちゅーーーいえ、あなたが動くと、またビルを壊したりして、アジトの場所がここら辺にありますよと、親切に教えているようなものだから、大人しくしていて欲しい、そうスーお嬢様は、おっしゃっているのですよ。

 そもそも前のアジトだって、あなたがあんな派手にアジトに通じる巨大な一本道を作らなければ、長い距離を歩かずに済んだんですよ。自覚あるんですか?」

「ごめんなさい!特訓します!」

 朱雀は、敬礼をして、固い誓いを立てた。

「じゃあ、お昼ごはんができたら、呼びに行くね」

「イエッサー!」





「では、特訓を始めるぞ、害虫」

 あ、害虫に戻るのね。

 俺とロロじぃは、部屋を出て、下の階の部屋に移動した。

 俺たちがいたのは、給油室で、部屋を出るとオフィスのようなところだった。

 階段を使い、一つ下、ちょうど給油室の真下の部屋の大きな会議室に入った。

「こんなデカいビルに入る会社って絶対、巨大企業だよな」

「そんなことは、どうでもいい。

 まずは、武装を出してみろ」

「言われなくても」

 全身に力を入れ、粒子を出すイメージをする。

 すると、身体から灰色の粒子が溢れだし、それを足に集めるように意識する。

 やがて、粒子が脚に踵から角の生えた灰色の靴に変化する。

 靴の表面には、細長い線が入っており、そこに灰色の粒子が流れている。

 {よし。では、まず最初にその場で粒子を噴出させ、私のところまで来い」

「おーけー、楽勝だ」

 粒子を足に溜めるイメージをする。

 足の武装が強い灰色の光を放ち始める。

「いくぞっ!」

 溜めた粒子を一気に解き放つ。

 初速から音速を超えんばかりのスピードを出して、一直線に飛ぶーーーー





 ―――――真上の方向に。

「うがっやべええええええあがっ」

 そのまま勢いよく天井に激突し、天井に突き刺さる。

「おーい、大丈夫かー?」

 下からロロじぃの声が聞こえる。



 現状を説明しよう。

 俺の目の前には、女の子二人がいる。

 当然、マイとスーちゃんだ。

 その二人は、今、こちらをガン見して動きを止めている。

 それもそうだろう。床から突然人間が現れたのだから。

「すすすすすすすすすす朱雀お、おにいさん、忘れ物でもしたの?」

 でも、それよりも、たぶん動きを止めているのは、

「シュ、シューちゃん、ダイナミックな覗きね。そんな私と一緒に身体洗いたかったの?」

 二人が体を洗っている最中だったからだ。

 台所の近くの床にどこかから持ってきた大きなタライに水を溜め、その中でマイがスーちゃんの髪を洗っていたのだ。

 ちなみに、スーちゃんは、頭にピンクのシャンプーハットをしている。

 なんで、ビルにそんなものが置いてあるんだよ、と思ったが、それどころじゃなかった。

 二人の身体には、一応タオルが巻かれていたが、水で濡れて二人の身体のラインがはっきりと分かり、特にマイの豊満な胸が強調されていて、、、、

「わっ!朱雀お兄さんが泣き出した、どうしよう」

「これが血のつながった姉妹の格差なのか、、、うぅ」

「え?なんのこと?取り合えず、その穴から引っ張り出せばいいの?」

「・・お願いします」

 マイが両手を引っ張り穴から俺を引っ張り上げてくれる。

「ビ、ビックリしたー」

「私たちの方がビックリだよ」

「それもそうか、悪い」

「別に悪いことしたわけじゃないから謝らないで」

「おお、わる、、、すま、、、ありがとう?」

「何に対するありがとうなの?」

「いや、すまん、頭が混乱して。」

「そう?スーちゃんが最近お風呂に入ってないっていうから、今、私も一緒に身体を洗っていたの。ほら、執事さんがいるとお風呂に入れないから。」

「なるほど」

「シューちゃんも特訓が終わったらこのタライ使って体洗いなよ。

 昨日は、ずっと粉塵の中にいたから、結構汚れてるよ」

 言われてみれば、昨日は、ずっと破壊活動をしていた気がする。

「分かった。そうする」

「それにしても、下で何の特訓すれば、朱雀お兄さんが床から飛び出てくるの?」

 スーちゃんは、腕だけ匍匐ほふく前進で穴の下を覗こうとする。

 しかし、タオル一枚巻いてる状態で、匍匐ほふく前進すれば、当然タオルがどんどん

 脱げていくもので、

「わー、わー、スーちゃん下覗くならちゃんとタオル巻いて―!」

「えっ?」

「スーお嬢様―、何か変なことされてませ、んんっ!」

 下からロロじぃの呼びかける声が聞こえるが時すでに遅し。

「お、お嬢様っ!どうして上の服を着てないんですかっ!はっ!もしや、害虫がお嬢様に変なことをっ!今、そちらに向かいますから!少々お待ち下さあああああい!」

 そういって、下の会議室の扉を開け、階段のある方向に走っていく。

「今、ロロが来る!」

「スーちゃん、扉の前に大量のテレビを置いて!」

「わ、分かった!」

 マイは、もはや全裸のスーちゃんを抱きかかえ給油室の扉の前に走る。

「いくよっ!全力の!大型のボックステレビっ!」

 スーちゃんの身体が淡く緑色に光ったかと思うとスーちゃんの目の前の空間に大型のボックステレビが大量に現れる。

「「間に合えーー!」」

 大量のテレビが扉に向かって、雪崩のように流れていく。

「おじょ、、うわああああ」

 その流れは、ちょうど扉を開け、中に入ってきた執事を巻き込み、扉の外に流れていく。

「やったね。スーちゃん!」

「うん!悪・即・斬!悪い大人をやっつけたよ!」

 スーちゃんがマイの腕の中で嬉しそうに万歳する。



「ロロじぃ、、今だけあんたには、同情するよ」

「あ、そういえば、さっきロロ、害虫って言ったよね」

 スーちゃんの笑顔に影が入る。

「私耳良いから、聞き逃さなかったよ。ふふふ」

 スーちゃんが両腕を真上に上げる。

「120%カットの20%を今、やってあげる!」

 身体が淡い緑の光に包まれたかと思うと、スーちゃんの頭上に

 先程とは、比べ物にならないくらい巨大なテレビが出現する。

「まぁ、20%じゃ済まないだろうけどね!フハハハハ!」

「おじょ、お嬢様それは、シャレになりませんって、考え直してーー」

「問答無用!契約は、絶対!」

「お嬢様あああああ!」

 瓦礫から顔だけ出した執事の上に隕石の如くテレビが落下する。

 下敷きになったテレビの壊れる音とロロじぃの断末魔が部屋で木霊する。



「これじゃあ、どっちが悪か分からないな、、、」

 満足げな顔のタオル一枚だけの少女とシャンプーハットだけの少女を見て、ため息をつく。

 こんな姿の敵役が居たらそれはそれでビックリだけどな。





「そういうことで、午前中の特訓は、中止になりましたー」

 騒動の後、マイとスーちゃんがお風呂に、といってもタライだが、入った後、俺がそのままタライで身体を洗い、制服を着て、テーブルの周りに集合して、今に至る。

「元々、特訓もロロを外に追い出すだけの口実だったり、なかったり」

 まじですか。

「監視は、どうしたんだ?」

「今もやってるよ、ほら」

 スーちゃんが指さしたのは、黒い壁もといモニターの壁だった。

 といっても、元の壁を反転させたわけじゃなく、スーちゃんがテーブルに座りながら、モニターできるように、新たに画面の向きwpこちら側に直してモニターの壁を作成したのだ。

「まぁ本当は、今日の特訓で、新技を作ってもらおう思ってたんだけど、昨日朱雀お兄さんが自分で新技作ちゃったというか、本当は、今日の昼にゴリラを倒すプロットを昨日やっちゃって特訓の必要がなくなったんだよね」

「プロットってなんだ?」

「ああ、こっちの問題。というか神様の問題?」

「???」

「一言でいえば、愚痴だよ」

「特訓終わったなら、少し早いですが、お昼ごはんにしましょう」

 テーブルの上には、朝食と同じメニューが並んでいた。

 一つ違うとすれば、ロロじぃがソファの上でのびてることだ。

「いただきます」

 マイが手を合わせるのを見て、俺とスーちゃんも手を合わせる

「「いっただきまーす」」

 箸を持って、ごはんと昆布を食べ始める。

「マイお姉さんのゴハンは、最高だね」

「ありがとう、スーちゃんの昆布もおいしいわよ」

「えへへ、ありがとう」

 ごはんは、分かるがコンブに人の違いってあるのか?

 その後、しばらく、ゴハンに集中して、みんなが黙る。

 静寂を破ったのは、マイだった。

「シューちゃんにばあちゃんの話してなかったよね」

「ばあちゃん?」

「うん、バイオリンを弾く私の友達」

「家だとあまり友達の話をしなかったからな」

 俺に気を使ってくれてたのだろう。

「私ね、小学生の時からの友達がいるの。名前は、羽依ばい 桜鈴おうりん

 物心ついた時からバイオリニストになるためにスパルタ教育をされていたらしいの。

 放課後は、いつもすぐに帰っちゃうから、遊んだり出来なかったんだけどね」

 不思議に思っていたんだ。

 マイは、社交的な性格で、姉が言うのもなんだが、顔もスタイルも良い。

 何の問題もないのに友達と遊ばず、家に帰る時間が早かった。

「でも、他の友達と遊んだりしなかったのか?」

 俺が聞くとピクッと肩を震わせる。

「うん、、そうだね。ばあちゃんだけが私にとって、友達って言える存在だからね」




 マイの言葉を聞いた時、なぜか背筋が凍る感覚がした。

「・・・・・」

 マイは、茶碗をゆっくりとテーブルに置き、俯く。

「マイは、人見知りするタイプじゃない、、だろ」

 人付き合いが上手いのは、俺が一番知っている。

 まだ俺とマイが小学生のころ、学校で見かけるマイは、いつも楽しそうに友達らしい子と一緒に遊んでいた。

 今も、スーちゃんとも朝初めて会ったのに、もう親しくなっている。

 友達作りに困るなんて、よほどのことがない限りあり得ない。

 よほどのこと、、、、、、、

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・まさか」

「ハッ!違う!そうじゃーー」

 マイが慌てて、否定するが、これしかあり得ない。

「俺のせいかっ。俺がマイの姉貴だから。マイに変態の妹というレッテルを張られてしまったのか、、、!」

 馬鹿だ!俺は、馬鹿だ!どうして今までそんな単純なことに気付かなかったんだ!

 少し考えれば、分かることだろう!

 俺が変態のレッテルを張られたのは、中学の入学式だ。

 俺の中学校とマイの通う小学校は、近い。

 俺の噂が、小学校にまで広まっていてもおかしくない。

 マイが学校のことを話さないのも、俺にそのことを知られたくなかったからか、、、、

「マイ、、、お願いだ。正直に答えてくれ。」

 俺は、マイの目を真っすぐに見る。

 マイは、動揺して、瞳が小刻みに震えている。

「俺のことが、学校で広まっていたか?」

「・・・・・・・・・・・・・うん、一時期話題になったけど、すぐに皆忘れて、別の話題で盛り上がってたよ。ほら、流行の移り変わりって早いからね」

「ちなみにその時は、何の話題で盛り上がったんだ?」

「ええと、たしかー、、、新作ゲームソフトの「バケモン」の新作が発売されたって、話題で盛り上がってたよ」

「ああ、そういえば、ちょうどその時だったな」

「そうそう、だからシューちゃんの話題もすぐに消えちゃったよ」

「・・・・ああっ!思い出した!そういえば、大流行して、みんなやってたな。

 俺の周りの奴もやってて、ずっとその話ばっかだったな」

「でしょ。シューちゃんの話題のインパクトも強かったけど、それ以上に社会現象にもなった「バケモン」があのタイミングで発売されたから、話題が上書きされたんだよ」

「タイミング良かったんだな、俺。バケモンに感謝して、今度手紙送ろうかな」

「手紙なら、私も手伝うよ。バリケード職人と言えば、私だからね!」

 学校に銀髪を申請した時に職員室の前に大量の申請書でバリケードを作ったことか。

「まだ私の部屋に段ボール20個分の紙と封筒があるから、遠慮なく書けるね」

「いや、そこまでやったら、手紙テロだろ」

「ハハハハ、それもそうだね」

 二人で笑う。楽しい。学校では、決して感じることのない感情だ。

 マイといる時だけ感じることが出来た感情だ。

 誰よりもこの感情の大切さを知っている。


「朱雀お兄さん、朱雀お兄さん!」

 スーちゃんが笑っている俺の裾を引っ張る。

「どうした?スーちゃん」

「ほら、あそこあそこ!見つけたよッ!羽依お姉さん!」

 スーちゃんがモニターの一つを指さす。

 そこには、茶髪のロングヘアーで、茶色のワンピースで、胸は、マイより少し小さめ程度で、普通に大きい部類に入る。

 清楚系の優しそうな女の子が映っていた。

「おい、まずいんじゃないか」

 しかし、その画面には、もう一人映っていた。

 一言でいえば、騎士。全身赤い装飾のフルアーマーで、顔もフルフェイスのため、見えない。

 手には、巨大なランスを持っており、そのランスの先端が今、尻もちを着いて、顔を強張らせている少女の首元に、あと数センチで刺さるぐらいの距離で、向けられていた。

「ばあちゃん!」

 マイが声を上げる。

 ばあちゃんと呼ばれた少女は、少しずつ後ろに下がるも、騎士も少しずつ進む。

「朱雀お兄さんの出番だね」

「ああ、時間がなさそうだ。行ってくる!」

 扉を開けて、階段に向かう時に後ろからスーちゃんの呼び声が聞こえる。

「影と向き合って、右手のある方向に、影から45度の位置だよー!」

「よく分からないけど、了解!」

「あと、屋上から向かってー!もう基地を移動したくないからー!」

「おおっと、危ねえ」

 階段で下に向かおうとしていたのを急ブレーキを掛けて、上りの階段に走って向かう。

「シューちゃん。ばあちゃんを頼んだよー!」

「連れて帰ってくるさ、マイの唯一の友達なんだから」

 さっきの話、マイは、明らかに動揺して、不自然だった。

 だからこそ、マイの本音を聞くことが出来た。

 人気ソフト「バケモン」が発売されたのは、確かに入学式のあった四月だが、それは,俺が中学に入学する一年前の四月だ。

 避けられる前だったから、俺の周りに人がいたし、俺が耳を塞ぐこともなかった。

 確実に俺の噂は、小学校に広まり、マイも被害を受けていた。

 そんなマイが、友だちと言った大切な存在を元凶である俺が守らなくてどうする。



 屋上の扉をバンッと開ける。

 強い日光と強風が扉から入ってくる。

 屋上のまん中に立ち、スーちゃんの言葉を思い出す。

 《影と向き合って、右手のある方向に、影から四十五度の位置だよー!》

「そういうことか」

 自分の足元の影を見る。日光を背中で受けるような姿勢だ。

「影と向き合って、右手のある方向に、四十五度」

 そのまま体を四十五度、右回転し、地面に三つ指をつき、身体から灰色の粒子を出す。

 その灰色の粒子が、足に集まり、かかとに角の生えた武装を作り出す。




「ぶっ飛ばすぞおおおおおおおおお!」

 足に溜まった粒子が銀色に輝き始め、一気に爆発のように噴出する。

 一瞬遅れて、周囲に爆発音が響く。




 ―――――これ以上、マイから繋がりを奪ってはいけないんだ。



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