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さんしょくし!  作者: 赤井つばさ
一日目
17/33

第十六話 そしてゴリラは、神になるんですか?

 アルカード=吸血鬼によく使われる名前



 街に怪物が現れるというのは、特撮映画などでよく見るシーンだ。

 大きな怪獣が街に現れ。あっという間に街を破壊していき、街からは、悲鳴と子供の泣き声に溢れる。

 そして、街一帯が、絶望の闇に覆われた時。そいつは、やってくる。





 白い祈祷師の服を着て、緑色の鉢巻きを腰に巻き、半円の緑色の半透明な防壁を張り、二人の子供を守るヒーロー。

 その前に立つ怪獣は、真っ赤な炎に包まれながら、ウホオオと狂気の唸り声を上げ、

 頭は、見事なモヒカンヘアーで、心臓のある場所には、巨大な穴が開いていた。

 眼球から赤い光が放たれているが、時折点滅しており、見るからに壊れかけだ。




「ご飯っていうのは、毎日、決まった時間に食べることで、生活のリズムを整える役割もあるのでございますよ」

 祈祷師、ロロ=マキシュ=アルカードは、そう言うと、背中を向けたままこちらに何かを投げてくる。

 それは、倒れている俺の頭に命中して、ヒンヤリとした感触を感じる。

 手に取ると、その正体がすぐに分かった。




「やっぱり、、、、、、コンブか」

 頭に落ちた時にベチョッとした感触とヌルヌルした感触と生臭さが一気にきて、

 すぐに分かった。

「ていうか、何の嫌がらせだ!」

「心当たりは、ございませんか?害ちゅ、、、いえ、申し訳ございません害虫さん?」

「言い直してねえよ!!いきなり害虫呼ばわりされたのなんて、初めてだわ!」

 丁寧な言葉遣いでも、言ってることは、悪意しかない。



 この感じ、ガーディを思い出すな。

 そう考えると、なんでーーーー

「お嬢様に近づく人間を全て排除する、みたいな考えの奴ばっかり集まってるんだ」

「一度命を失いかけた経験をして、お嬢様の人間関係に神経質になるのは、当然でしょう。

 執事なら、なおさらでございます」

 ガーディが言ってたな。昔、スーちゃんは、自分の屋敷に爆弾が仕掛けられて、その爆発により、足を使えなくなってしまった、って。




「そんなに害虫でも、聞けば、お嬢様と協定を結んだらしく、駆除できないのが残念で仕方ありません」

 協定を結んでなかったら、ここで駆除されてたのか。


「まぁ、こちらの準備が整い次第、すぐに迎えに行く予定でしたが、お二方がずっと街中を走り回って移動していたために、立ち止まる瞬間を待たなければならなかったのでございます。」

 言われてみれば、確かにずっとゴリラから逃げ続けてたな。

「お嬢様の慈悲に感謝してください。対価になるものをあなたが持っていないのが残念というか、持ってたら持ってたらで害虫のくせに、とか思わず失礼なことを口にしてしまうところですが、害虫なら価値のあるものを何も持ってなくて当然でしょう。」


 すらすらと喧嘩を売る言葉を言ってることに気が付いてるのか。

 一発蹴り入れてももいいですか、この執事に。




「ですが、お嬢様が珍しく信用している方ですので、私も少なからずあなたに興味があります。

 ですので、ここは、お嬢様の言いつけ通りに、あなた方を守りましょう。」

 ゴリラの真っ赤に燃えた連続のパンチを緑の防壁で受けながら、言う。

「私の能力は、お嬢様を守る力。つまり、防御専門でございます。

 つまり、時間稼ぎが、専売特許の能力でございます。」



 執事がこちらをちらっと朱雀たちの方を見る。

 目が合った瞬間に、執事の言いたいことが理解できた。

「お前さんが時間稼ぎしている間に、俺たちがこの場所から離れろって言いたいのか」

 執事は、肯定の頷きをする。

「ええ、あなたには、まだ少し体力が残っていそうでございますから、

 その体力をそこで倒れている妹さんを連れて離れるために使っていただきたい」




 しばらくの沈黙の後。朱雀は、立ち上がり、執事の方向を向く。

「私がタイミングをいいますので、そのタイミングで、防壁を一瞬解除しますので、

 一気に後ろに逃げてーーーーー」

「なぁ、ヘルメットって知ってるか?」

「はい?」

 朱雀の突然の言葉に、執事は自分の耳を疑う。

 思わず、後ろを振り向いてしまうほどに。

「ヘルメットって言いましたか?」

 執事は、再度聞き直す。

 朱雀は、執事の目を見て、頷き、その後、暴れる赤い怪獣を見上げる。




「あれは、衝撃から頭を守ってくれるが、同時に中の繊維が千切れて、

 二度目の衝撃は、吸収できず、頭を守ることが出来なくなるんだ。」

「存じてます」

 執事の声には、何が言いたいんだと、疑問が混じり、目には軽蔑の色が混じっていた。




「守りたいものを守るっていうのは、ただ耐えるだけじゃいつか自分が壊れてしまう。

 だから、俺は、こう思うんだ。

 ヘルメットに金棒を組み合わせれば、最強なんじゃないかって」

「日本語をおっしゃって下さい」

 執事の声が完全に軽蔑の声になる。


「えーと、つまりだな、困難には、まず耐えることが大事だけど、歯向かう金棒を手に入れることが出来たら、その困難を自分からぶち破っていかないと、二度目の困難にやられちまうってことだ」




 朱雀は、スゥーーと、ゆっくり鼻から空気を吸い込んで言う。





「俺は、これをヘルメットに金棒、と呼んでいる。」





「要するにここであなたと私が戦って、次に戦う敵のために、戦闘経験を積んでおきたい、とか、完全に倒しておかないとまた襲ってくるかもしれない、ということですか。

 無理に例え話をするものではありませんよ。自慢げに言ってますが、分かりにくいですよ、ダサい、ダサいですよ」

 間髪入れずに、呆れた顔の執事のダメ出しがスラスラと早口で入る。




「ダサいをなぜ二回言った!?い、いいと思ったんだけどな」

「確かにヘルメットと何たらの例えはともかく、考えは、否定しません。

 しかし、お嬢様の言いつけですので、あなたが万一でもここでリタイアされては、執事の立場としては、困ります。

 お願いですから、回れ右して、そのまま逃げてください。

 相手は、火だるま状態、かつ、機械。おまけに、心臓に穴が開いていて、体の中まで高熱で熱せられていて、中の金属が溶け出して、機械が機能しなくなるのも時間の問題でございます」




「俺の勘だが、こいつは、そう簡単に倒れる奴じゃない」

 何度も倒した。しかし、そのたびに新たな進化を経て、生き返り、戻ってきた。

 ここまで、相手が壊れる条件が揃っていても、安心できない。

 これは、のれんに腕押しと言うのだろうか。

 のれんを支えている棒自体を壊さないといけない気がする。




「引き下がる気は、ないのですか?ここで失敗すれば、あなたは、妹を一人残すことになるのですよ」

「負けねえよ。俺は、脳筋である代わりに、マイのためなら火の中、水の中だって、誰よりも早く真っすぐにに飛んでいける覚悟がある。」

 朱雀は、自分の胸をドンと叩く。




「・・・・合図をしたら、ここから出てください」

 少しの沈黙の後、執事は、静かに言葉を口にする。




「後ろか前か、どちらに出ていくかは、あなた次第でございますが」

「執事、いや、ロロじぃ、、、感謝するぜ」

「ただ一つ忠告させていただきます。

 前でも後ろでも、あなたの決めた道をただひたすらに走ってください。

 反対側は、全て崖だと考えて下さい。

 そうしなければ、この状況を強行突破する可能性は、ゼロですよ」

「分かってる。そもそも俺の能力は、一方向にしか進めないんだ。

 途中で止めることなんて、できない」

「そうでしたね」




「あと、私は、まだジィと呼ばれる年齢では、ありませんし、あなたにロロと呼ばれる筋合いもありません。ロロじぃとは、もう呼ばないでください」

「執事を執事ほうが変だろ。執事と言えば「じぃや」とか呼ばれるもんじゃないのか」

「普通に、執事さん、と呼んでください」

「それが普通なのか。普通だったらじぃy―――」

「この防壁を外しますよ」

「ごめんなさい」

 緑の防壁の中は、安全そのものだが、外では、サイボーグゴリラが、ウホウホ言いながら言葉通り燃える拳を延々と振り落としていた。




「それでは、あなたの人となりを確かめたところで、そろそろ本題に入ります。

 このデカ物を倒す方法ですが、、、、」

「倒す方法があるのか!?」

「ええ、恐らく。私の予想が正しければ、これは、このまま倒れることがあっても、すぐに復活するでしょう」

「不死身かよ。でも、それだと、矛盾してるだろ。

 不死身なのに倒す方法なんて」




「ヒントは、そこの妹さんがおっしゃていたことです。

 あの姿、歴史上のある人物に似ていませんか。」

「モヒカン頭で、無敵の騎士?さらに白い巨大な翼が生えた天界の生物か?いたらインパクトありすぎて、覚えてる」

「いえ、いるんですよ。あの頭の形で、無敵に限りなく近づいた騎士で、そしで、天界の生物が。」

「なんだよそれ、神かよ」

「ええ、神ですよ。

 あのゴリラは、神の化身と言えるでしょう」

「・・・・・すまん、分からん」

「要するにですね。あのゴリラは、あなたの力を使えば、簡単に、それも一発で倒せるんですよ」

「・・・・・・???」

「では、私の言うことを一つだけ聞いてください」

 ・

 ・

 ・

 ・

「では、合図と同時に動いてくださいね」

「おう!」

 朱雀は、足に今出せる最大の粒子を集めていた。



 執事に言われた指示は、シンプルなものだった。

 ただ、防壁を消した瞬間にゴリラに突撃すること。それだけだった。

 今まで何回もしてきたこと、そして、その度に、ゴリラは復活し、パワーアップしていき、絶望を与えられてきた。

 でもーーーー今回は、違う。




「いきますよ、3、2、1、、、」

 執事が突き出していた両手を百八十度後ろに大きく反らせる。

 同時にゴリラの拳が防壁にぶつかり、ヒビが入り、瞬間、パリンッと防壁が壊れ、緑の欠片が空気中に飛び散る。




 その中、執事が翼で羽ばたくように、再び前に突き出す。

「今でございます!」

「きたああああああああああああ!!」




 足に溜まった粒子を一気に噴出させ、灰色の粒子を纏いながら、ゴリラに音速を超える速さで、突撃する。



「壁壊しの疾風!!」





 正体さえ分かれば、簡単な話だった。

 無敵に一番近く、たった一つの欠点で、命を落とした神。

 朱雀の狙う場所は、決まっていた。






「お前の脚―――――――いや、アキレス腱をもらうぞおおおおおおおおおおおおおおお!!」





 燃える身体に近づくにつれ、炎の熱さが肌を焼き上げる。

 しかし、それも一瞬。

 朱雀は、ノーガードのアキレス腱にピンポイントで突撃して、爆風と共に、武装をめり込ませていく。

 バキッ、バキッ、と熱で脆くなった機械が中で砕ける音がした後、固い何かにぶつかる。




「つぅぅぅうううううううううらああああああぬぅううううけえええええええええ!!」




 マイが、俺に倒す希望を託してくれ、スーちゃんとの帰る約束を守らないといけないんだ。

 俺の願いは、ただ一つ。



「俺とマイとスーちゃんと、あと、執事さんも一緒に入れて、四人で晩ごはんを食べるんだああああああああああ!!」



 食事を一緒に取ることは、絆の証であり、生きてないと出来ないことなんだ。

 元々四人で食べる予定を立てて、待っていたご飯が、急に二人だけになッた時のゴハンの味なんか、もう、、、思い出したくないし、、



「、、味わせたくない!!!!




 灰色の粒子が光りだし、白銀色の粒子に姿を変え、粒子の吹き出る速度が倍になる。

 そこから、ゴリラのアキレス腱を貫通するまでには、一秒もいらなかった。




「そんな馬鹿nうへええおえおえええええ」



 アキレス腱の中の小さな空洞から、骨皮のヒョロヒョロの色白じいさんが、朱雀のキックと共に外に吹き飛ばされる。

 じいさんは、そのまま空中で輝き始めたと思うと、光の粒子となり、空へと消えていった。

 首にネクタイのようにつけていた赤い鉢巻きだけ残して。





「はぁ、、、はぁ、、、はぁ、、、、」

「ご苦労様でございます。害虫どの」

「ああ、倒したんだ。あの化け物を。俺たちは」

「ええ、正真正銘倒しました。あなたの執念には、ビックリしました」

「そう、、、だろ」

 朱雀は、残った体力を全て使ったため、武装は、解除され、地面に倒れる。

「その調子だと残念ながら夕食は、私とスーお嬢様の二人で食べることになりそうですね」

「本当に、、、、、ごめん、とスーちゃんに、、伝えといてくれ」

「分かりました。でも、起きてなくてもあなた方二人が近くにいるだけで、お嬢様は、安心して喜びながら、夕食の昆布を食べられると思いますよ」

「執事さんがいうなら、、間違いないな、、安心たよ」

「ですので、安らかにお眠りください。快適な睡眠を」

「、、、死んで、、、ないから、、」

 そこで力尽き死んだように朱雀は、深い眠りにつく。




 ―――ぐがあああああああ



 大きなイビキを掻いて。



「この害虫、本当に女なのですか?流行りの転生したおっさんの生まれ変わりなのでは?」


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