第1話「長い長い夢の始まり」
ポタッ——ポタッ——ポタッ——
一定のリズムで水音が頭の中で反響している。
「うっ…頭…が…」
…ここはどこなんだろうか。
どうやら、自分は床に倒れているらしい。
少しずつ目を開けていくと、少し離れたところに黒煙と炎が立ち昇る機械があった。
とても大きくて、球体の形をしている。
「あら…生きていたの、良かったわ。もし死んでしまっていたら…計画が全部パーになっていたからね」
女性がこっちに歩いてきた。
(計画?なんのことだ?)
体を動かそうとしたけど、全身が痛くて上手く動かせない。少し上にある天井を見るに、どうやら落ちて来たらしい。
「起きてもらったところ悪いのだけれど…少し長い夢を見てもらうわ」
そう言うとその女性は手を僕の額にそっとのせた。
「貴方にとっては相当先の話でしょうけど…もし起きたら私を貴方の手で殺してね。…私はすぐに消えてしまうから」
(何を言っているんだ…?)
「それじゃあ…おやすみ。…お人好しさん」
僕はすぐに夢に落ちた。
ピピピ ピピピ ピピピ
「うるさい…」
ガシャン!
「あ…またやっちゃった…これで20個目くらいだっけ?はぁ…おかげで目は覚めたけど…」
僕はもはや時計とはいえない何かを見た。
「あちゃー…、これはひどい」
僕はふと窓の外を見る。
今日はいつもより青い、澄んだ空な気がする。
まるで「青空を始めて見た時みたいな」感動だ。
少し視線を落とすと、銀色の毛をした綺麗な猫が呑気に散歩をしていた。
僕は時計を壊した後悔が少しあったけど、気にせずベットから降りた。僕はパジャマのまま真っ直ぐ玄関へ向かった。
「全く変な夢だったな」
僕は玄関で靴を履きながらさっき見た夢のことを考えた。
(そろそろ来てる筈なんだけど。)
僕は玄関の扉を出ると、郵便受けの中身を見た。
「あ!やっぱり来てる!」
僕は、自分の人生を決める封筒を掴んだ。
初めて腐神が発生してから…第1次大神災が起きてから10年が経った。
最初は誰しも恐れていた腐神だが、10年という歳月に、腐神対策機関設立、
さらに最近の腐神縮小化も相まってもはや日常に溶け込み、
もはや最初のような危機感が無くなっていた。
腐神対策機関(JCI)に受験した、僕こと対仮 京砂はアパートで合格結果を伝える封筒を汗ばんだ手で3時間ほど握っていた。
「うぅ…緊張するー!開けたくないなぁ…。…いや、大丈夫だぞ京砂!この2年間お前は必死に努力してきた!それにもし不合格だったとしても、お前は頑張ってたじゃないか!しかもまた2年後には試験がある!…だとしてもなぁ…。はぁ…旦水でも飲むか…」
そう言って腰を上げた時だった。
「うわぁっ!」
リビングで大きく一回転をかました僕は、すぐに湿った封筒が千切れているのを発見した。
「あぁっ!ど、どうしよう…な、中身は無事だよね?」
そして中身を確認した僕は信じられないものを目にした。
「う…嘘だろ…何だこれ!」
震えていた声はどんどん跳ねるような声になっていく。
そこには…
「ご…ごごごご、合格!?」
その瞬間…僕は全ての神様に感謝したが、その直後に気まずくなってしまった。
「あぁ、そうだった。全ての神に感謝なんて罰当たりだよな。
うーん、じゃあ…シャーペンと消しゴムの神様!ありがとうございます!」
僕はシャーペンと消しゴムの神様に全身全霊の感謝を捧げた後、合格通知書を読んでみることにした。
合格通知書
あなたは第4回腐神対策員試験に合格し、採用候補者名簿に記録されました。
なお、採用については、任命権者から在隊証明書を譲渡された時となりますので、念のため申し添えます。
ID 119221044513
〔留意〕
なお、これは重要機密です。
本文または本紙を謄本、増刷は禁止されています。
集合場所 対策機関中央本部
集合時間 2/14 8:00
僕は合格通知書を読み切った後、壁に掛かっているカレンダーを見つめる。
「2月14日は…あと3日後だ」
あと3日で隊員になれるんだ!
…勿論、怖いとも思う。
僕は両親を、腐神で失った。
もう、自分以外にこんな思いはして欲しくない一心で、僕は腐神機関の入隊試験に挑んだ。あの時の衝撃で記憶も曖昧で、両親の事はもう殆ど覚えていない。
でも、靄がかかっているが、あの優しかった笑顔は覚えている。
-次のニュースです。
昨夜未明、宗教団体『ヴェリタス』による大規模通信ジャック事件が発生しました。
今回の通信では、都内各地の大型ビジョン、ラジオ、個人端末などに対し、およそ37秒間に渡って同一映像が送信されたとのことです。
現在までに人的被害は確認されていません。
なお、送信された映像内では、
『世界は減速している』
『真理は神秘の向こう側にある』
など、意味不明な音声が含まれていたことが確認されています。
JCIは、ヴェリタスと過去の腐神災害との関連性を含め、現在も調査を続けています。
また、映像の一部には、実在しない教会のような空間が映り込んでいたとの情報もあり———
僕はテレビを消して浮かれていた心を鎮め、荷造りを始めた。




