第9話「4回目の——またね。」
「いいか?まず、クリップを上から入れて、引き抜くだけだ。簡単だろ?」
「は、はい」
僕は、銃の扱い方を教えてもらう為に、地下の射撃場に来ていた。
ガチャ…キ……
ボルトを引き、クリップを押し込む。
ジャッジャッ
そしてクリップを引き抜く。
チャッ…キン…
ボルトを戻す。
ジャキッ
「よし、そのまま狙え」
「え?どうやって狙ったらいいか……」
日本では銃の狙い方なんてわかるはずがない。
「なるようになる。いいからやれ」
僕はサイトを的の真ん中に合わせる。
「ふぅーー……」
……息を吐く。
ドッガァン!!
静かな部屋に、銃声だけが響く。
……煙で前が見えない。
煙が晴れると……視界に入ったのは、丁度真ん中に穴が空いた的だった。
初めて撃ったとは思えない程、完璧な弾道……だったはず。
「ぶれちゃいるが、まあまあだな」
《対仮、京砂さん。司令執務室までお越しください。司令執務室までお越しください》
「おっと、お偉いさんからのお呼びだ。……今日の練習はひとまず終わりだ」
お偉いさん?……銃を持っていったら失礼なんだろうか…
「銃は…ひとまずここにおいておきますね」
「いや、銃は肌身離さず持っとけ。日常生活でもな」
榊さんは当たり前のように言った。
「JCIは殆ど寮生活だが……たまに休みがある。その時に、腐神が起きたらどうする?」
なるほど……JCIに所属するってことは……
「さっさと行ってこい!司令官は時間にはうるさいぞ」
———◇———
「ふぅ……」
僕は、エレベーターの壁にある鏡で、身だしなみを確認する。……とは言っても、別にスーツでも無いのだが。
チン
乾いた音が、小さな空間に響く。
扉が開く。
「おぉ……」
視界に入ったのは… 視界に入ったのは、照明が等間隔に並ぶ、異様に長い通路と……奥で机の上で手を組んでいる人物だ。
重い空気が、奥から流れ込んでくる。
一歩。また一歩と踏み出す。
一歩踏み出すたびに、何かが肩にのしかかってくるようだ。
司令官の目の前に僕は立つ。
その冷たい視線は、まるで心臓を貫かれているかのようだ。
……いや、僕に心臓は無いのだけれど。
「君が、対仮 京砂だね。初めまして。そしてようこそ。腐神対策機関…JCIへ。…単刀直入に言わせてもらうが、君を呼び出したのは、別に挨拶をしたかったわけではない」
僕は唾を飲み込む。
「まず、1つ目だ。君のそれについてだが……」
彼女は、僕の胸に視線を注ぐ。
「口外は避けてもらいたい。……人工的に作られた心臓自体は製造は容易だが、核は生きている生物の心臓にしか宿らない。つまり…君は今までの理論を根本的に覆す証拠になり得る」
「私に神洩だと教えに来てくれた人がいたのですが…」
「それは、私の秘書だ。問題無い」
「こんにちは」
僕は後ろを振り向く。
部屋の右側、本棚の陰に隠れるようにして、あの時の医者が立っていた。
「それで2つ目だ。君の神秘の流れを見させてもらったが、どうやら特殊な遺物と関係がありそうなんだ」
「いぶつ…ですか?」
「あぁ、遺物について説明しないとな。簡潔にまとめると、コルプトを倒した際、人間だった頃の記憶が結晶化したものだ。例えば……これだ」
司令官は一本の万年筆を取り出した。
「ただの万年筆に見えるかもしれないが…」
カツン
司令官が廊下の方へ万年筆を投げた。
すると、司令官の手へと吸い込まれるように戻った。
「これが遺物だ。これは一番低い階級の遺物だが、今までに確認されている遺物の中には、人の命を代償として奪いかねない物もある」
彼女はポケットに戻した。
「遺物は、銃と同じように相性があってな。大まかではあるが、相性がわかる。そして…」
ギシッ
「問題はここからだ」
司令官は椅子にもたれた。
「君は理論上存在しない存在だ」
「……」
「そして、この情報を知る者は限られている」
部屋の空気が少し重くなる。
「だが、もしその情報が横流しされていた場合……」
司令官は一枚の資料を机に置いた。
そこには『VERITAS』の文字。
「ヴェリタスが君に興味を示す可能性がある」
「興味……ですか?」
司令官は難しい顔をした。
「彼らは「真理」を追っている。世界の法則を覆す存在など現れたら、放っておくとは思えない」
司令官は静かに続ける。
「研究対象、実験材料……あるいは、生贄」
「ですが、JCIが倒してしまえばいいのでは?ニュースでも聞いたことがあります。ヴェリタスがJCIを妨害しているって……」
司令官は難しい顔をしていった。
「……奴らは、…我々と同じような装備を持っている。遺物も大量に所持している。…一部は———」
その瞬間、一瞬で部屋の空気が変わった。
司令官の放つ静かな怒りに、僕は思わず息を呑む。
「職員を殺し……奪っている報告も度々…」
「…………すまない。とにかく、君には奴らに気をつけてもらいたい。資料は寮に戻って読むといい。明日から本格的な訓練が始まる。寮までは秘書に案内させる」
「どうぞ、こちらへ」
秘書は、エレベーターの扉を開けながら待っていた。
「……失礼します」
僕は一礼すると、踵を返して歩き出した。




