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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第284話 皆が彼を忘れてないか心配です

 急遽ルックブックの試作に取り掛かった翌日、ランディは眠たそうな目を擦り、学園へと向かっていた。


 ハリスンとリタをモデルにした撮影は直ぐ終わったのだが、その後部屋に戻ってから、完成品への構想に没頭しすぎたのだ。


 最後は早く寝てくれというリタのお願いに、渋々ベッドへ潜り込んだランディなのだが……夢中になった代償が、こうして眠気として襲いかかっている。


 眠気眼のまま通りを歩くランディだが、以前のように取り繕う事すらしない。制服こそリズに言われてしっかり着ているが、貴族らしからぬ立ち振る舞いである。


 そんなランディが大通りへ一歩踏み出せば、同じように登校する生徒達が、遠巻きに視線を向けてくる。


 誰も彼もがまるで値踏みをするかのような、そんな視線だ。


 欠伸を噛み殺し「ねみぃ」と目を擦るランディだが、チラチラと己に向けられる視線を感じている。それが何故なのか分からないが、今までも無かった訳では無い、と気にする事もなく大きく伸びをした。


「昨日の試作だけどよ……」


 ランディの言葉に、リズとエリーがそれぞれランディを見上げた。


「理想としては、フォトブックみたいに写真をデカくしたいんだよな」

「大きく、ですか?」

「ノートくらいは欲しい」


 再び欠伸を噛み殺すランディに、「「ノート?」」とリズとエリーが、同時に首を傾げた。


「ノートくらい大きな写真だと、全体的に大きくなりませんか?」


 紹介文を書くスペースも必要なら、ルックブック自体が大きくなりすぎるのでは、と問うリズに、ランディは大きくした写真の――風景部分など――余白に文字を書き込むのだ、と教えた。


「モデルと紹介文が一体化する……。文字のタッチから色まで、それこそ考える事だらけだけどな」


 それでも頁を丸々写真が埋める迫力には代えがたい。


「あの写真館とやらで、大きな写真が撮れるんじゃろう?」


 思い出したようなエリーに、「確かにそうなんだが」とランディが唸った。確かに大判の写真は撮れるが、結局はスタジオでしか撮れないのだ。昨日の撮影会で思ったが、やはり様々な日常を切り取った場面こそ、ルックブックには映える。


 だがそうなると、撮った写真を拡大コピーする必要があるわけで……


「やっぱ、コピー機もいるよなー」


 量産は出来ずとも、せめて写真の拡大コピーくらいはしたい。ランディがそんな思いを吐露した頃、学園の正門が見えてきた。昨日同様浮ついた雰囲気の前庭には、やはり多くの生徒が詰めかけている。


「昨日と何も変わらねーだろうに」


 ランディが、立て看板に群がる生徒達にため息をつくのだが、それにため息を返すのはエリーだ。


「お主の名前が新たに載っているのじゃろう」


 ジト目のエリーに「あ、そうか」とランディがポンと手を打った。


「忘れてたんですか?」


 こちらもジト目のリズに、「いやいや」とランディは首を振る……のだが、それに説得力など皆無だ。


「この鳥頭が覚えてるハズがないじゃろう」

「試作に夢中ですからね」


 ジト目のまま学舎へと向かう二人を、「いや、ちょっとだけだって」とランディが追いかけていく。そんな情けない姿は、前庭に集まっていた生徒達の注目を集めることになっていた。


「……本当に出るのか?」

「なんでまた?」

「無理だろ」


 口々に囁かれるのは、ランディではダリオの対抗馬にすらならないという噂ばかりだ。ランディの耳には届かないが、静かに広がる噂は、間違いなくダリオの勢いを加速させている。




 ☆☆☆



「んで? お前は一体何をしてんだ?」


 テラス席で眉を寄せるルークに、「設計だよ」とランディは頭を抱えたまま、図面とにらめっこをしている。


 試作を形にするため、コピー機の設計にまで乗り出したランディに、ルークがため息をついた。


「生徒会長選挙はどうしたんだよ」


 ため息をついたルークが、周囲から感じる視線に眉を寄せた。ランディ達と合流してから気付いたが、間違いなく周囲から注がれる視線の種類が変わっている。それは、どちらかというと挑発に似た、「出来るものなら、やってみろ」とでも言いたげな視線だ。


 視線を向ける連中に睨みを聞かせるルークを、「放っておけ」と止めたのは意外な人物だ。ルークの肩に手を置き、笑顔を見せるユリウスが、自分達が気にしたところでどうしようもない、と首を振った。


「だいたい一度決めたら、走り切るような男だろう?」

「そりゃそうだが……」


 ため息混じりのルークが、それでも退学がかかっているのに、と不満そうな顔でランディを見た。


 ルークが心配するのは、ダリオは既に選挙活動を始めているからだ。


 具体的には様々なクラブに顔を出し問題を吸い上げ、授業でも積極的な姿を見せ、更には昼休みや、午後の空き時間を利用した集会を開いている。


 特に集会は元中央貴族を中心に大人気で、いわゆる組織票がかなり期待されている状況だ。だからこそランディへ注がれる視線が厳しいのだが、当の本人は全く意に介さず、今も「うーん」と図面とにらめっこである。


「このままだとボロ負け確定っすけど……」

「デカ男だものね。そもそもスタートからマイナスだし」


 隣の席で果実水をすするキャサリンが、ランディだけでなく、そのサポートをするリズとエリーを呆れた顔で見ている。二人共ランディ同様、周囲の視線など我関せずで、試作に夢中なのだ。


「投票一週間前の人間の行動ではありませんが……」

「ま、デカ男らしいといえば、らしいのよね」


 キャサリンとセシリアが、顔を見合わせため息をついたことで、再び全員が仕方がないと言った雰囲気でランディ達三人に視線を向けた。


 実際ルークもセシリアも、いやそれどころか、ここにいる全員がキャサリンの言う事に妙に納得できる部分がある。


 ――ランディ達らしい。


 だからこそ、これ以上言っても無駄だろうという気持ちもあるのだ。


「ルーク、見守りましょうか」

「ですね」


 恐らく三人を動かせるだろう、唯一の二人が笑顔で肩をすくめたことで、全員がこれ以上三人の邪魔をしない事を決めた。なんせ周りの心配など他所に、完全に試作モードに入った三人は、今も図面を前に


「ここをさ――」

「でもそれだと――」

「魔導回路的には――」


 と完全に三人の世界なのだ。


 そしてこの三人の世界というのは、非常にタチが悪い。なんせそれはとても楽しそうなのだ。そんな空気を間近で当てられ続ければ、どうなるかというと……


「つーかよ。これだとコストが割高になるんじゃね?」

「そうですわね。もっと薄くしたほうが――」


 ……のっけから苦言を呈した筈のルークが、いの一番にセシリアを伴って試作の輪に加わってしまったのだ。


 もうこうなっては流れは止められない。


「ふっふっふ。頭脳枠のアタシの出番ね」

「聖女様のトンチキ発想が必要っすか?」


 キャサリンとレオンが加わった頃には、ユリウスも「面白そうだ」と参戦する始末だ。ちなみにリヴィアはというと……かなり始めから、内容こそ分からないものの目をキラキラさせて、三人の会話を聞いている。


 二つの席をくっつけて始まった談義に、周囲の視線が更に集まる中、一人遅れてきたウェインが合流した。


「なんだ、もりあがってんな。選挙戦の作戦会議か?」


 ニヤニヤと輪に加わったウェインだが、白熱するコピー機試作の議論に「何してんの?」と呆れ顔を見せた。


「何って、まあ作戦会議?」


 首を傾げるランディだが、どう見ても選挙のための作戦会議ではない。


「あー……。また何か作る気か」


 呆れ混じりの笑顔を見せたウェインが席に座り、図面をチラリと見た。ウェインには全く分からないが、一つだけ分かることがある。こういう設計図を見たことがある場所を。


「なんつーか。魔道具研究会みたいな事してんのな」


 苦笑いでコップに水を注ぐウェインに、全員の視線が集まった。


「な、なんだよ」


 皆を見回すウェインが、コップを握りしめ顔を引き攣らせた。そのくらい全員の視線が一斉にウェインに集まったのだ。


「魔道具研究会……そーいやそんな場所もあったな」


 呟くランディが思い出すのは、あのオバ◯ュームもどきだ。アナベルの話では、オカルト研究会が魔道具研究会と共同で作ったはずである。


「そういえば、ゴーストの素材化にも尽力してくれた方々ですわよね」


 こちらも思い出すように呟いたセシリアに、リズも頷いた。正確にはコリーとアナベルが共同で進めて、魔道具研究会はその補助程度だが、協力してくれた事には変わりない。


「急ぎだし、ちょっと意見を貰いに行っても良いかもな」


 ランディが図面を引っ掴んだのと同時、注文していた料理が運ばれてきた。


「丁度いいな。腹が減っては戦はできぬ、ってな」


 料理を前に笑顔のランディだが、全員がその笑顔と言葉が、選挙という名の戦へ向けられた物ではない事に、また苦笑いを浮かべるのであった。





 ☆☆☆



 ランディ達が魔道具研究会への訪問を決め、それぞれが午後の予定に散っていった頃、学院の正門をくぐって直ぐの前庭に、一人の男の姿があった。


 美しい金髪を風になびかせ、人の少ない前庭で立て看板を睨みつける男――


「ダリオ、ランドルフ……お前らには負けない」


 今日まで休んでいた、元王太子エドガーである。ようやく学院に復帰したエドガーは、立て看板をしばし睨みつけたあと、鬼のような形相で学舎へと消えていった。


 生徒会長選挙まで、あと一週間。風雲急を告げる男の出現に、学院の空気が一気に張り詰めるなか、我らがランディはというと……


「なにコレ。美味いポーション研究部ぅ? サバイバル魔獣食研究会ぃ? ……おいおい何だこりゃ、模擬王政倶楽部だってよ? ちょっと寄ってこうぜ」


「「駄目ですよ(じゃ)」」


 何ともそそる不思議な研究会に、胸を踊らせていた。

 ※以下、不思議なクラブの補足。


 美味いポーション研究部

 基本的にマズい事で有名なポーションを、どうやったら美味しく飲めるか、また効能を落とさず美味しく出来るかを研究する、非常に有能な研究部。


 サバイバル魔獣食研究会

 その名の通りだが、サバイバルを想定した限られた道具や調味料で、いかに魔獣を美味しく食べるかを研究する会。魔獣の組み合わせレシピなど、非常に多くの実績を持つ。


 模擬王政倶楽部

 一ヶ月毎に、「王」「臣下」「市民」などの役割をくじで引いて、〝架空の国〟の政を回す。決められた役割は、倶楽部外でも有効で(学内のみ)、「王」は「臣下」に命令でき、「臣下」は「市民」を管理できる。だが圧政を敷きすぎれば、「市民」は「反乱者」に代わり、反乱を起こす事が出来る。市民にいかに反乱を起こさせず運営するかがキモ。

 ちなみに反乱され、王が倒されると政権交代だが、今のところ毎回反乱が起きて王は倒れている。まあ妥当。それでも皆、王様をやってみたい。

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