第40話 スノウの敗北
冒険者人生の中で魔王と戦う確率はどの位なのか?
たぶん0%に近いだろう。
そもそも冒険者は魔王と直接戦うことはない。
神から選ばれた勇者と呼ばれる者たちが魔王と戦っているからだ。
勇者と会ったことはないが、魔王特攻のスキル、強力な武具を持っているらしい。
そのため冒険者が魔王と出会い戦うことはかなりレア、イレギュラーなケースとなる。
魔王と戦うことはある意味運がいいのか悪いのかわからない。
蟻の魔王を見るたびに頭痛が強くなっていく。
頭の中で“魔を滅せよ”とささやき声が聞こえる。
誰かに精神干渉の魔法を受けているのか?
皇帝クラスと戦った時にはなかった声が頭の中で響く。
魔力はすでに三割は切っている。
たぶん数分しか持たないだろう。
ソエルが鎧の中にいる魔女と戦線に復帰するまでの時間稼ぎのため、いまはこの場所に足止めしておくことしかできない。
生まれたばかりでも魔王は破壊の塊だ。
戦闘技術はなく本能のままに手足を振り回して襲いかかってくる。
地面に当たれば陥没し、隙あれば口で噛みつこうとしてくる。
目の前にいる自分は動く食料と思っているのかもしれない。
きっと狩りをしているのだろう。
いまは大人と子どもの戦いに近い。
戦闘技術と対人戦闘の経験がないことが唯一の救いで、魔王の打撃をタワーシールドで受け流し、体勢が崩れた所にメイスの一撃を与えている。
金色のアダマンタイトの身体に斬撃は通りにくい。
それでもメイスの打撃なら、僅かでもダメージが入っているはずだ。
自分の感覚が研ぎ澄まされている。
次は右の腕を振り回してくる、最小限で避けて腹部に膝蹴り。
後頭部から首の辺りにそのまま肘鉄を食らわす。
蟻の魔王は自分の思った通りに動いてくれる。
この魔王には体術という概念がない。
動きが単純で読みやすいのだ。
そして魔力の鎖で蟻の魔王の身体を拘束し、締め上げる。
メイスとダガーで、一心不乱に連打と連撃を混ぜて繰り出す。
(これならいける!?)
そう思っていると魔力の鎖が急に暴れ始めた。
自分の意思とは関係なく、白銀の小手から数本の鎖が出てくる。
魔王の両腕。
首。
両足。
身体以外の部分も容赦なく締め上げる。
右腕から制御の効かないヒュドラが生えているような嫌な感覚。
魔力の鎖が自分の意思と関係なく動いている。
右腕が自分の腕じゃない感じがして、気持ちが悪い。
鎖が魔王を殺そうとしているのだ。
魔王は拘束を解こうと暴れる。
見えない魔力の鎖が、獲物に群がる蛇のように絡みつく。
締め上げる力は強くなる。
金色の外殻にヒビが入り、身体の奥から骨が軋む音が響く。
「ギャァァァ」
魔王は初めて恐怖を知ったように叫ぶ。
「止まれっ!」
魔力の鎖は命令を無視する。
まるで長い眠りから目覚めたように。
むしろ歓喜するように締め上げる力を強めていく。
だが突然、鎖の力が弱まった。
魔王は鎖の拘束から抜け出し、距離を取る。
さっきの攻撃で金色の体表面には打撃痕と斬撃痕、そして暴走した鎖が締め上げた痕が生々しく残っている。
本能なのか、恐怖なのか、魔王は警戒して近づかない。
暴走した鎖の拘束から何故抜け出せた?
何故鎖の力が弱くなった?
自分の身体に重みが感じる。
次の瞬間、魔力の鎖が霧のように消えた……
鎖が消えたことで、魔王は一気に距離を詰めてくる。
魔王の動きが速い。
動きは見えているが、避けきれない。
自分の身体にかすり始めている。
全身に重りが着けられているようで、思ったように動けない。
(やばっ!?)
咄嗟にタワーシールドを間に入れることができたが、一発で粉砕される。
追撃が来る。
もう一枚のタワーシールドを目の前に引き寄せていたはずだったが、盾は地面に落ちていた。
魔王が強くなったわけじゃない。
自分が弱くなった、魔力が尽きたのだ。
魔王の右腕の一撃がくるのが見えているが、体勢が悪く避けきれない。
メイスとダガーを十字にして防御態勢を取り、当たる寸前で軸を少しずらす。
当たった瞬間。
衝撃で吹き飛ばされる。
自分の身体に異変が起きているのかがわかる。
左腕の感覚がない。
左腕自体がどうなっているのかわからない。
魔王はどこだ?
どこに消えた?
地面の冷たさを感じる。
……なぜ目の前に地面がある?
ソエルの声が聞こえたような気がしたが、何を言ったのかわからない。
周りが黒くなっていく……
自分の意識はそこで消えた。
40話です。
皆さんこんにちは。今日は仕事をお休みしています。
色んな手続きを終わらせて、小説投稿しています。
暑いのか寒いのか分からない気温のため、食中毒・胃腸炎が流行っています。
皆さんもお気を付けください。
小説は主人公が倒されました。この後も面白くなります。
是非また読んで頂けたら幸いです。
次回は月曜日予定となります。不定期で投稿出来たら、よろしくお願いします。




