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【31】平和な毎日、すごせています!

 今日も今日とてポーションを作成し、出来上がったものを試験紙を使って確認したプルメリアは思わず小さな声をだしてしまった。


「この組み合わせ、思ったよりもいいかも。今までで一番コスパ最高の可能性が!」


 効用のポイントと材料の参考価格、そして魔力を注いだ時間をプルメリアは上機嫌で記していた。今まで聞いたことも試したことのない薬草の組み合わせだったし、まずさも抜群なのだが、ここから飲みやすさを追求すればいい結果のものを仕上げることもできるかもしれない。


「やっぱり生命の危機で飲むときは飲みやすいものじゃないと吐いちゃうかもしれないし……」


 味は大事。味覚は大切に。

 そう唱えながら、プルメリアは鍋から大きな瓶にポーションを移した。


「でも、どうしようかな。予想通り喉越し最悪のまずさだし、騎士団に持っていくのも申し訳ないよね」


 捨てるのももったいない――そうなれば、プルメリア自身が飲むというほかないだろうか? ある程度まずいという予想はできていたので、いつもより作成量を控えたため、飲み切れない心配も――頑張れば、きっとない。


 そんなことを考えていたとき、コンコン、と、研究室のドアがノックされた。


「どうぞー、開いてますー!」

「失礼します。仕事中邪魔してごめんね」

「あ、シオンさん」


 ひょっこりと顔を出したシオンに、プルメリアは少しだけ驚いた。

 薬草園で会ったことはあるが、仕事中にシオンが研究室を訪ねてくるのは初めてだ。


「どうされました? もしかして館長にお会いに? 今日は夕方には戻るって聞いてますけど、出張ですよ」

「いや、プルメリアに用事があって。今晩、時間ある? もちろんユウナも一緒でいいんだけど」

「え? 暇だけど……どうしたの?」


 きょとんと首を傾げるプルメリアに、シオンは笑った。


「実は今日、夜会があるんだ」

「え? もしかして……そのお誘い?」

「もしかしなくても、そのお誘いです」


 その言葉に、プルメリアは肩を上げて驚いた。


「無理無理無理、そんな格式高そうな場……!! 私だよ!!」

「大丈夫、そんなに堅苦しい場ではないから」

「いやいや、だって……城の夜会でしょ!? 服だってないし」


 堅苦しい場ではないと言われても、まさか今の恰好で出るわけにはいかないだろう。

 しかしシオンは笑みを崩さなかった。


「大丈夫、服は王妃様と館長がすでに用意しているから」

「館長!? 私は何も言われてないんだけど!!」

「だって、私が口止めしていたから。ルドベキアもプルメリアが来るのを楽しみにしているよ」


 悪びれもなく言うシオンに、プルメリアは肩を落とした。


「それ、もしかしなくても私の参加は決定なのね。なんで当日まで教えてもらえなかったの」

「それはいつも驚かされてばかりだから、驚かしてみようかなって私が思ったからかな」

「子供っぽい理由を並べないでよ……!」

「だめ?」

「可愛く言ってもだめです!」


 一瞬流されそうになってしまったが、これは流されてはいけないものだ。

 けれどいたずらっぽい笑みを浮かべるシオンにはプルメリアの抗議など意に介した様子はなかった。むしろ、悪だくみが成功したことを喜んでいる思ってしまった。

 そのことに対して多少思うこともあるのだが、出ないということはプルメリアにはいえなかった。なぜなら、ルドベキアが楽しみにしていると言われてしまっているからだ。弟分の期待を裏切ることなど、プルメリアにはできるはずもないことだ。


「ごめんごめん」

「本当に悪いって思ってるの?」

「まぁ、少しだけ。ちゃんと埋め合わせはするから。とても美味しいケーキ屋さんがあるんだ。案内して御馳走する」

「……三個食べてもいいなら、手を打とう」

「それくらい、お安い御用だよ」


 苦し紛れに言われた提案をあっさり受け入れられ、プルメリアは驚いた。


(ケーキが三個も……!)


 だが、表情に出すのはぐっと堪えた。

 もので釣られる大人だと堂々と出してしまうのは、少々はしたないという自覚もある。


「ところで……そこにあるのって、今日のポーション?」

「あ、うん。でも、あれは騎士団には持って行かないよ」

「え? ほかに持っていくところがあるの?」

「ううん。まあ、頼まれれば持っていくけど……あれ、まずいから。すごく」


 体力は回復しても気力にダメージを受けるのはよくないだろう。そうプルメリアが説明すると、シオンはしばらく考え込んだ。


「どうしたの?」

「それ、もらってもいい?」

「え? まずいよ?」


 今のシオンがそれほど疲れているようにはみえないし、明日はもう少し違うものを作るのでわざわざ持っていく必要もないはずだ。しかし、シオンは笑っていた。


「せっかくプルメリアが作ったんだし。独り占めできる機会なんてそうそうないなら、まずくてもなんでもいいかな」

「なにそれ」


 さらっと言ってしまっているが、好意があると誤解を生んでもおかしくない物言いじゃないかとプルメリアは内心焦ったが、シオンにそんなつもりなど微塵もないことだろう。いや、友人としての好意はあると思っているが――。


「どうしたの?」

「なんでもないよ。……でも、本当にいるの?」

「くれるなら」


 プルメリアとしてもすでに結果はでているし、必要がないものではある。まずいということがわかりきっていることを除けば、いつも渡して分けてもらっているのと何ら変わりがないのだが、なんとなく気恥ずかしい。だが、それでもここで断る理由はなにもなかった。


「……どうぞ」

「ありがとう」

「言っとくけど、本当にまずいからね」


 そう念押ししても、シオンからポーションを返されることはなかった。むしろ、より嬉しそうにしているような気さえした。


(まあ、いいか)


 王都にでてからというより、旅に出てから、まずいもので喜んでもらうのはさすがに初めてだ。


(成り行きで来た王都だけど、ここに来れてよかったな)


 予想もできなかった楽しいことがたくさん起こっている。

 これからも楽しいことが起きるだろうな、と思えば多少不参加を訴えたい夜会に参加してでも、まだ王都にとどまりたいと改めて思ってしまった。





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