闘気
テュッティはフレイルの炎攻撃第一段は避けたが、次は避ける事ができず、天井を向いて倒れた。
「はあ……はあ……」
息が荒い。
火傷を負った体がヒリヒリする。
そんな状態でも、
「ぼくは、まだ……」
根性が凄い。
ルナンの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
もうこれ以上は。
「テュッティ様……」
「ルナン。言っただろ。ぼくにも意地があると。それにお前は城を出た。出た以上はお前とぼくは敵同士だ。敵に情けをかけるな」
「しかし……」
「確かに、お前は優しかったよ。ぼくにも、ガルディスにも」
フッと笑顔を浮かべるが、どこか寂しげでもあった。
フレイルが炎を放つ。
「うわああああっ!」
テュッティは動かない。
ロックが確認すると、まだ微かに息があった。
ルナンの方を見る。
彼女は、トドメを刺して欲しく無いみたいだった。
「でもよルナン。このままここに寝かせておく訳には……」
「そうですね。分かっています。敵に情けをかけるなと、言われましたものね。けど……」
「ルナン、残念だけど」
ロックは矢を握った。
彼女の切ない気持ちも、何となく理解できる。
ジョセフィーヌの事があったから。
だが、テュッティは多分魔王ダイロスの腹心の部下。
仲間にはなりえないだろう。
なら、感情を捨てて。
テュッティの首に向けて矢を下ろした。
その時、声が邪魔した。
「待て」
魔王の声だ。
スーリアの時と同じく、黒い闇がテュッティを包んだ。
「テュッティはまだ幼い魔族とはいえ、わたしのお気に入りだ。ここで殺される訳にはいかん。勇者、強くなったな。だが、この屈辱、忘れんぞ」
フッ。
テュッティは城に連れ戻された。
フレイルがシトラスを手招きする。
「フレイル……」
「何て顔をしているんだい? まあ、その気持ちも分からなくはないよ。君は、優しいんだね。けど、あまり詰め込むと、前に進めなくなるよ」
「はい」
「さあ、これが炎のオーブだよ。これを取りに来たんだろう?」
シトラスの手に、オーブが二つ。
アクアリーゼから受け取った水のオーブと、たった今フレイルから貰った炎のオーブだ。
青い輝きとオレンジの輝きがキラキラしている。
「やったね。シトラス」
「ああ。これで二つ目のオーブだな」
「あと一つ探すんだよな。それでメモリーリングが手に入る。まあ、オレじゃなく、勇者にしか使えないらしいけど」
「どこにあるんだろうね。それ」
「ギーバさんも、その事についてはお分かりにならないようでした」
「その前にいいかな? 君達」
オーブを見ながらメモリーリングについて話しをしていたシトラス達の耳に、フレイルが呼びかける。
次の聖霊について、知っているのかもしれない。
シトラスが聞いてみた。
「フレイル。三人目の聖霊の居場所を、知っているんですか?」
「もちろん知っているよ。けどシトラス、その前に君は闘気という物を知っているかい?」
「闘気……?」
名前は聞いた事がある。
姉さんが以前教えてくれた。
戦闘時に、体から発せられる気だって。
でも、まだ、習得まではいかなかった。
「聞いた事はあります。けれど、習得はできていません」
「そうか。やはり。わたし達聖霊は、お互いテレパシーでやり取りする事ができる。アクアリーゼが教えてくれた。君は紋章の力を使うと、意識を失うそうだね。しかし、もし闘気を習得できたら、気を失う事も無くなるよ」
「本当ですか?」
「うん。紋章の力は、闇を払う力。それには、かなり精神力を使うんだ。その精神力を、闘気でカバーするんだよ」
そこに、ロックが申し訳なさそうに口を挟んだ。
「あの、大事な話をしている時にすみません。オレも一ついいですか? 以前、ドラモスという魔族と戦った時に、波動という物を使われたのですが……」
「相手に触れずに、気で吹き飛ばす技だね。名前は違うけど、それも闘気と同じ物だよ」
「そうなんですか」
「うん。それで君達に提案だよ。敵の気を感じる事ができるなら才能はある。わたしの下で、闘気の習得をしてみないかい? そうすれば、君の矢の腕も、シトラスの剣も強くなる。もしかしたら、新しい技もできるかも」
「えっ、それは……。もちろんやるよな。シトラス」
「ああ!」
間髪入れずに、シトラスとロックは返事をした。
フレイルは笑う。
「あの、あたし達は……?」
「君達には、魔力があるよね。シトラス達の闘気は、その代わりだよ。剣技と弓矢が上手いだけでは、勝てない敵がこれから出て来る。でもね、心配しなくていいよ。彼らもここまで戦って来たんだ。闘気を習得するには、そんなに時間はかからないだろうね」
「じゃあ、シトラス達が修行している間、アタシ達は休んでいよう」
「そう致しましょうか」
ジェニファー、ティナ、ルナンは部屋の端に腰掛けた。
邪魔にならないように。
シトラス、ロックは緊張していた。
「そんなに硬くならなくてもいいよ。リラックスして。まずは深呼吸してみようか」
スーハー。
言われた通り深呼吸する。
気持ちが落ち着き、楽になった。
「いいよ。次は目を閉じて、気を集中してみよう。お腹から全身にかけて、力が涌き出るイメージで」
フレイルの優しいアドバイス。
教え方が上手い。
見た目男の聖霊という事で、気難しく怖いのかと思っていたが、この人、いや、このお方は穏やかだった。
ジェニファー達が見守る中、シトラス達は目を閉じた。




