聖霊を探して
炎魔鬼を倒し、先へ向かっている勇者一行。
水の聖霊アクアリーゼに出会った時は、比較的簡単だったので、今回もそうかなと思っていたが、見通しが甘かったようだ。
さすがダンジョン。そういう訳にはいかないか。
一行は、爆弾で開けた穴を抜け、通路を走っていた。
右へカクッと曲がっている。
曲がって少し走った所で、今度はほぼ直角に左に道は折れた。
「あ〜、何か疲れた〜!」
ジェニファーがへたれ込む。
壁に寄り掛かり、通路に座った彼女の隣に、ティナとルナンも来た。
「そうね。アタシもよ」
「わたくしも。こんなに長い洞窟だとは、思いませんでしたわ」
困った顔のシトラスとロック。
しかし女性陣の体力を考え、休憩する事にした。
「はい」
シトラスが水筒から水を配る。
ルナンもチョコレートを出した。
ジェニファーとティナは至福の表情。
「あ〜。美味しい。生き返るわ〜」
「そうですねティナさん。シトラスから水を貰えるなんて」
「嬉しい?」
「はい!」
「んじゃ、そろそろ行くか? お二人さん」
ロックが二人の前に手を伸ばす。
ジェニファーとティナは彼の手を掴んだ。
引っ張って、立ち上がらせる。
「悪いなジェニファー。シトラスじゃなくて」
「ううん、いいよ。休ませてもらったし」
まだ通路は続いているようだ。
先を急ぐ。
またもや部屋に出た。
ピアノが置いてある。
向こうの壁にはドアがあった。
「ピアノ? どうするんだろう」
「シトラス。例の暗号がどこかにあるんじゃないの?」
「そうですよね。みんなで探してみましょうか」
まず考えられるのは壁。
全員で目を凝らして見てみる。
が、それらしき物は無い。
じゃあ天井か、それとも床か。
「シトラスぅ〜。あたしとロック天井見たけど、何も無いみたいだよ」
「床にも暗号は書かれていなかったわよねぇ」
「ひょっとすると、このピアノは関係無く、ドアが開くんじゃねえ?」
と、ロックがドアノブを回す。
しかし、押しても引いても開かない。
「ロックの勘、外れたみたいね」
「そうだな。残念ながら」
シトラスとジェニファーが静かに囁く中、ルナンがハッと閃いた。
「そうですわ! もしかしたら……」
ピアノの蓋をパカッと開く。
暗号は、そこに紙で張ってあった。
シトラス達も覗く。
「わぁ、ルナン凄い。良く分かったね」
「壁にも床にも、天井にも暗号はありませんでした。なら、目に見えない、隠れている所かなと思っただけですよ。ジェニファー様」
「ううん。その発想が凄いの。あたし達には、思いもつかなかった」
「そんな。大した事ではありませんよ」
謙遜しながらも、ルナンは嬉しそうだった。
ティナが暗号を見る。
それは暗号というより、音符が書かれた譜面だった。
「この譜面通りに、弾けばいいのかな? ちょっとやってみるね」
「えっ!? ティナさん、ピアノが弾けるんですか?」
「踊り子の修行をしていた時に、たまに伴奏をしていたからね。と言ってもちょっとだけだよ。シトラス」
「それでも、弾けるだけましです。俺達は、全然駄目ですからね」
「お前は、剣だけだからな」
「お前だって弾けないだろうロック。それに今、何か引っかかる言い方を……」
「あ〜! あたしも女らしい事しとけば良かった〜」
「フフッ。それじゃ弾くわよ。みんな」
ティナの指が、鍵盤に触れる。
本人は否定していたが、これはなかなか、素晴らしい演奏だ。
快活で、元気になるメロディー。
ティナが弾き終わった後、みんなで拍手した。
パチパチパチパチ。
「ティナさん、俺感動しました」
「あたしも、あなたみたいに弾きたい」
「楽譜が読めるだけでも素晴らしいですのに、名演奏でしたよ。ティナ様」
「フフッ。ありがとねみんな。間違えるんじゃないかと、緊張したわ〜」
「えっ!? ティナさんでも緊張するんですか?」
「そりゃあするわよロック。人間だもの」
ガチャン。
ドアの鍵が開く音がした。
これで次の場所に行ける。
シトラス達は、ドアを抜けた。
床に光る星のマーク。
「これは……」
「テレポートゾーンですね」
これに乗ればいいのか。
シトラス達は意を決してそれに乗った。
ビシュウウウ。
飛ばされた先は、とある広い部屋だった。
何台もの燭台の明かりが照らしている。
床はつやつやした石が敷かれていた。
本当に、ここは洞窟の中かと思えるほど。
シトラス達の気配に、背中を向けていた人物が振り向いた。
男の聖霊だ。
左肩から右の腰にかけて、ナナメの布で隠されている衣装だ。
右肩は出している。
フワッとスカートのよう。
紐で軽く結ばれている。
下は同じ生地の薄いズボンだ。
赤い眼と、おでこを出した髪が印象的。
「勇者シトラスかい?」
「はい。俺が勇者です」
「良く来たね。わたしは炎を司る聖霊フレイルだ。いつか君達がここに来るだろうと思っていた。早速、炎のオーブを渡そう」
「ありがとうございます」
シトラスが、フレイルからオーブを受け取ろうと、手を伸ばした時だった。
「そのオーブは、ぼくが貰うよ」
シトラス達が来た方向から、誰か来る。
フレイルは感じた。
この気は、魔族か。
「君は、魔族か?」
「そう。ぼくの名前はテュッティ。ドラモス様の部下の、立派な魔族さ」
亀の甲羅を背負った、少年魔族が現れた。




