薬草を手に入れろ
ジェニファーが放った魔法を、トーラは簡単に避けた。余裕で笑う彼女。そこに、ロックの真っ直ぐな矢が狙う。ジェニファーの方ばかり見ていたトーラは気づくのが遅れ、肩に矢を受けてしまう。
「うっ」
大した傷じゃない。すぐに矢を抜いた。
が、さらにロックの攻撃は続く。
相手は魔族。
休む暇を与えたら多分負けるだろうなと分かっているから。
「乱天狩射!」
「キャッ!」
全ては避け切れ無い。
尖った爪で叩き落とす。
そうしている内に、ジェニファーの次の魔法が来た。
「バーニングバード!」
トーラは坂に体を打つ。
転がって、ジェニファーのいる平らな場所に落ちて来た。
「うっ……」
見上げると、ロックが顔ギリギリで矢を構えていた。
この距離だと、確実に額を打ち抜かれる。
「トーラ、オレ達は薬草を取りに行きたい。先に行かせてくれないか?」
「ふざけるな。あたしはおめおめと引き下がる訳にはいかないんだよ!」
体を回転させてロックと距離を取る。
四つん這いになり、気合いを入れ始めた。
「あたしは魔族とはいえ、スーリア様、ドラモス様のような実力は無い。せいぜいレアモンスターより少し下のレベルさ。だけどね、そんなあたし、いやあたし達にも、スーリア様は優しく接して下さった。そのスーリア様を傷つけたお前達は、許せないんだよ!」
「あたし達?」
「ああ。双子の妹がいるんだ。そのあたしの妹は今頃勇者を抹殺する為、あの小屋に行ってるはずさ」
「何だって!?」
「さぁ、おしゃべりは終わりだ。決着をつけさせてもらうよ!」
トーラは白い虎の姿に変身した。
咆哮を上げる。
前足で砂を蹴り、ジェニファーとロックに迫った。
ギー婆さんの家。
シトラスは布団で楽な姿勢を取りながら、ルナンと話をしていた。
ギー婆さんとティナは外で花壇の手入れをしている。
その時、トーラの言ったように、彼女の妹が襲撃に来た。
トーラは白い虎だったが、彼女は普通の黄色い虎の耳と尻尾だった。
「あたしはターラ! 勇者シトラス、命を頂戴!」
ティナとギー婆さんが向かえ打つ。
ターラはしょっぱなから虎の姿になり、戦闘モード。
「シトラスに触れる事は、アタシが許さないよ!」
「魔族が、このような所まで現れおったか。どれ、このばばあも助太刀するわい」
シトラスは自分も戦いに出ようとするが、ルナンが説得して止めた。
ターラは、
「婆さんは引っ込んでな! どうせ戦えまい」
と、馬鹿にした様子。
それに対しギー婆さんは、おいでおいでと挑発する。
ターラは怒って、牙を剥き出しに襲って来た。
「ほれ、これでもかじってな」
ギー婆さんはターラの口の中に、太めの枝を縦に突っ込んだ。これで、ターラは口が閉じなくなる。
「んぐぐ……」
「ほれ、わしの魔法をプレゼントするぞ」
ギー婆さんの右腕が、鉄の塊になる。
ターラの胴体を殴った。
「アイアンアタック、じゃ」
「グアッ!」
吹き飛んだターラは、木の枝を吐き出す。
強烈なパンチだった。
仰向けのまま起き上がれない。
虎の変身が解け、女の姿に戻った。
「ティナ、今じゃ!」
「はい!」
何とか顔を上げたターラに、ティナが召喚したパナの炎が迫る。
「キャアアアアア!」
熱い炎を浴びながらも、ターラはテレポートの力で魔王城に逃げ帰る。
去り際に、捨て台詞を残して。
「くそっ、許さないよ! ばばあ、次はお前を……!」
ルナンが外に飛び出す。
「ギーバさん、ティナ様、お怪我は……?」
「おお、あの魔族は逃げて行ったわい」
「アタシ達に怪我は無いよ。ルナン」
「そうですか。ご無事で何よりです。ご主人様も心配しておられました」
「あとは、あの二人が帰って来れば、じゃな」
「はい」
ギー婆さん、ティナ、ルナンは山を眺めた。
トーラと戦っているジェニファー達。
ジャンプして飛びかかって来たトーラをかわし、ロックは矢を射った。
「炎天狩射!」
「一本だけか? こんなの」
サッとトーラは避ける。
が、それは時間差攻撃。
「アイシクルレイン!」
「グアッ!」
「今度こそ当たらせて貰う! 飛天狩射!」
胸に命中。
トーラの変身が解けた。
ジェニファーが尋ねる。
「まだやる気なの? トーラ!」
「当たり前だ! あたしはまだ……」
「なら、仕方ないわね」
トーラの足元に浮かぶ魔法陣。
この魔法は、
「フレアインパクト!」
「アアア!」
ギリギリの所で、トーラは魔王によって城にテレポートさせられた。
敵がいなくなった山。
ロックがジェニファーを気遣う。
「ジェニファー、走れるか?」
「うん。これ位の事で、大丈夫だよ」
「よし」
ロックがジェニファーの手を引き、再び山を登り始めた。
それから数分後。
ギー婆さんの家に、薬草を携えたロックとジェニファーが戻って来た。
山のてっぺん、崖ギリギリの所に、一つだけ生えていたと言う。
「お帰りなさいませ、お二人とも。まあ……」
ルナンは擦り傷だらけのジェニファーの体を見て驚いた。
「そちらも、魔族に襲われたのですか? ロック様は、お怪我は……?」
「オレは平気だ。それより、こっちは無事か?」
「ギーバさんとティナ様のおかげで事なきを得ました。ご主人様も、無事です」
「良かった……。ジェニファーの手当てを頼む」
「あ、アタシがやるよ。ジェニファーこっちに」
ティナが家の中にジェニファーを連れて行った。
ルナンとギー婆さんは、ロックから薬草を受け取る。
「ご苦労じゃったの。さぁ、中に入ってお休み」
「後はわたくし達がこの薬草を煎じてご主人様にお与えします。さぁ、ロック様」
「ああ」
ロックも中に入る。
薬草を受け取った二人はそれを綺麗に洗い、用意しておいた道具で煎じた。
その間、シトラス達は話をして待っていた。
薬草が届く。
生で食べるのと違い、一旦お湯で湯がいてから、それを細かく擦る。その擦った物を再びお湯に入れて、それを飲むのだ。
「さぁ、一気にお飲み。お湯はそんなに熱く無いじゃろ?」
「はい。頂きます」
シトラスはゴクリと飲み干した。
傷の痛みが治っていく。
「わ、もう全然痛く無い」
「そりゃそうじゃ。みんなが苦労した分、治って貰わなきゃ困る」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「ハハハハハハ!」
楽しい笑い声が、その場に響いた。




