ギー婆さんの治療
「が、ガルディス……」
ガルディスがシトラスを倒した現場に、一足早く到着したのはティナだった。
そのガルディスは剣が刺さったままのシトラスを、近くの木の下に横たわらせていた。
「ティナ……」
「ガルディス、あなた……。何でシトラスを……!」
ティナがガルディスに掴み掛かる。
ルナンも現場に来た。
「ガルディス様……? はっ、ご主人様!」
ガルディスの側のハエの魔物がブンブンうるさい。
ガルディスは、ティナを突き飛ばした。
「キャッ!」
「ティナ様!」
ガルディスは何も言わず、ハエと共に消える。
しかしその表情は物悲しく、泣きそうで、唇を噛んでいた。
ルナンがティナを支えて起こす。
ジェニファーとロックも来た。
ジェニファーは、シトラスの姿を見た途端、唇を押さえ、青い顔で、その場にへなへなと座り込んだ。
力が抜ける。
感情が、涙になって流れ出た。
「い、嫌あっ! シトラスぅ!」
ロックはシトラスの下に駆け寄る。
彼も焦っていた。
「おい、シトラス! 嘘だろ? しっかりしろ!」
「……う」
微かに、シトラスが応えた。
良かった。まだ生きてる。
ロックは、シトラスを苦しませている剣を抜こうとした。が、ティナに止められる。
「待って! それを抜いちゃ駄目!」
シトラスにまだ息があると分かった時、ティナは安心し、落ち着いた。
「ティナさん、でも……」
「まだ多分血が固まっていないわ。剣を抜いたら、バアッと血が噴き出すわよ。その方が危険だわ」
「じゃあ、どうすれば?」
「剣が刺されている回りに布を巻いて。そうっと、とりあえずギー婆さんの所に運びましょう。彼女は賢者の血を引いてる。ルナン、手伝って」
「はい!」
ルナンとティナが手分けしてシトラスの体に布を巻く。その間、ロックはジェニファーを落ち着かせていた。
「ジェニファー、大丈夫か? 安心しろ。シトラスはまだ生きてる」
「生きて……。良かった……」
「ああ。オレもホッとした。あいつに何かあったら、オレだって生きていない」
「ロック……!」
「ジェニファー。できるだけ早くシトラスをギー婆さんの家に運びたい。テレポート、できるか?」
「うん!」
「よし。ティナさん、ルナン、いいですか?」
「いいよ、ロック」
シトラスの上半身をロックが、ティナが下の方を支えた。
ルナンとジェニファーが左右に立つ。
「テレポート!」
ジェニファーの力で、シトラス達は運ばれた。
「おう、これは、どうした事じゃ」
外で勇者達を待っていたギー婆さんは、いきなりテレポートで帰って来たジェニファー達に驚いていた。だが、剣が腹に刺さったシトラスを見て、何となく理解する。これは、敵にやられたのだと。
ギー婆さんがルナンとジェニファーに指示し、布団を敷かせると、その上にティナとロックがシトラスを横向きにして寝かせた。
「ベッドでなくて悪いな。わしの身長に合わせてあるんで、勇者には狭いじゃろう」
「いえ、ギーバさん。布団をお借りしただけで助かります。ありがとうございます」
ルナンが礼を言った。
ギー婆さんはシトラスの剣の刺さった辺りを触る。
「それにしても、これほど真っ直ぐ刺すとは、相手はよっぽどの達人か。どれどれ、まずは血を止めよう」
言いながらも、回復魔法をかけてくれた。
ビカアアア。
手が光ってる。
さすがだ。
「うむ。これでいいと思うのじゃが」
ギー婆さんにそう言われ、ロックがそっと剣を抜いた。
血が少し流れる。
「おやおや、わしの勘が鈍ったかの」
服を少しめくり、今度は傷を塞ぐ。
ジェニファー、ルナンは不安そうな目で見つめる。
傷口は塞がった。
だが、まだ完全では無い。
ギー婆さんは疲れた顔で言った。
「ふう。老体には堪えるわい。じゃが、傷はだいたい塞がった。痛みはまだあるじゃろうが、まぁ、大丈夫じゃろ」
「お手数をおかけして申し訳ありません。でも、助かりました。少し、キッチンをお借りしますね。わたくし、お茶を入れて参ります」
「そうか、じゃあわしも行こう。お前達が採って来てくれた山菜を料理しなきゃならん。みんなで食べよう」
「それならアタシも手伝うよ。ジェニファー、ロック。あんた達はここに残ってて。シトラスの側にいてやって」
三人は奥に消えた。
ジェニファーは、汗だくのシトラスの額を優しくハンカチで拭いてあげる。
「シトラス……、頑張ったね。でもごめんね。あたしがもっと早く行ってあげなくて……」
ロックは黙っていたが、ジェニファーと同じ気持ちだった。
オレがシトラスから離れなければ、こいつはこんな目に合わなかったのに。
済まない、シトラス。
「何暗い顔をしてるんじゃ。過ぎた事は仕方ないじゃろう」
「ぎ、ギー婆さん!」
「落ち込むのは後にして、まずはこれを食べてみなされ」
ギー婆さん、ルナン、ティナが料理を運んで来る。
円になってしゃがんだ。
「お、美味しい!」
一口食べてジェニファーは叫んだ。
自分たちが持って来た山菜。
ティナ達も手をつけた。
「上手いよこれ。オレ、初めてかも」
「ええ、本当に。わたくし驚きました」
「そうだねえ」
「じゃろ。自分たちで手に入れた食材じゃ。不味い訳が無い。まぁ、わしの料理の腕もあるがな」
「ギーバさん……」
「それに美味しい物には、人を元気にする力がある。勇者が目覚めた時、笑顔じゃなきゃ可哀想じゃろ?」
「はい……、ギー婆さん。そうですね」
「これ、魔法使いの娘。泣くなっちゅーに」
「ハハハハハハ」
そうだ。ギー婆さんの言う通り。
シトラスが起きた時、あたし達が落ち込んでたら。
彼、どう思うだろう。
ジェニファーは、横目でシトラスを見た。
まだ目覚める気配は無い。
ただ、吐息は聞こえる。
クスッ。
(早く起きてね。シトラス……)
指で、髪をさすった。




