スーリアの襲撃
海底神殿、二階。
シトラス達が訪ねて来ている事を感づいた水の聖霊アクアリーゼは、その場所から動かず静かに待っていた。
微かに笑みが浮かぶ。
今彼らは下の階。
もうすぐ到着するだろう。
だが、それとは別の気も感じていた。
何だ?
以前ここに入った魔物とは違う。
もっと強い、闇のーー。
「こんにちは」
「!!」
アクアリーゼの目の前に、突然魔物が立った。
驚いて、後ろに下がる。
「あなたは、魔族?」
「さすが聖霊。わたしを魔族と見抜くなんて。そう、この世界で魔物と呼ばれる者は、基本的に魔王様が石の力でお造りになった者。わたし達魔族は、魔王様と共に復活した者。いわば、魔物の上位職よ」
「しかしあなた達魔族は、数が少ない。そうですね。スーリア」
「……驚いたわね。心を読まれるとは」
スーリアは大きく息を吐いた。
アクアリーゼは薄い衣をまとい、じっとこっちを見ている。
青い髪と瞳が印象的だ。
人間の女性の姿をしている。
「では、わたしがここに来た訳も分かるわよね」
「ええ。私を封じ込めに来たんですよね」
「そうよ。勇者に、オーブを渡す訳にいかないの」
スーリアの両手に、風が集まる。
小型の竜巻のよう。
それをアクアリーゼに向けて放った。
アクアリーゼは素早い動きで避ける。
そして水を操り、スーリアに大量の水しぶきを浴びせた。
スーリアは大きく弾かれる。
「やるわね。けど」
立ち上がったスーリア。
まだ余裕だ。
聖霊がそう簡単に倒せるとは思っていない。
が、こちらもまだ本気を出してない。
「少し、大きいのをいきましょうか」
スーリアの体が飛んだ。
風を纏った両手を組み、上に上げる。
アクアリーゼの頭上めがけて、振り下ろした。
アクアリーゼは防ぐ。
そこに、
「なっ、これは……!?」
シトラス達が上って来て、その光景を眺めていた。
ルナンは、スーリアに気づかれないように猫の姿になり、さっとジェニファーの服に隠れる。
シトラス達もそれは分かっていた。
ルナンは、魔王城から逃げて来た身。
スーリアに、その姿を見られる訳にいかない。
もしばれたら、残ったガルディスの身が危なくなる。
「……っ」
シトラス達に一瞬気を取られ、アクアリーゼの水しぶきが弱まった。スーリアは、蛇のしっぽで彼女の体を叩く。
バシイッ。
倒れるアクアリーゼ。
スーリアの強力な風が、彼女を絡め取る。
「待って!」
ティナが叫んだ。
「そこにいるのは聖霊アクアリーゼよね。その方に何をする気なの!?」
「魔王様のご命令で、勇者にオーブを与える前に倒せと言われたの。狙い通り、あなた達はこの神殿に来た」
「その方を離しなさい!」
ティナが杖をギュウッと握りスーリアに迫る。
シトラス達も武器を構え睨んだ。
スーリアは笑ったまま。
アクアリーゼの苦しげな声が聞こえる。
「嫌、と言ったらどうする?」
「くっ、スーリア!」
ロックが怒りを押さえ切れず、飛天狩射を飛ばした。
スーリアは避けるでもなく、その矢を右手でバシッと掴んだ。
「あら、わたしの名前覚えていてくれたの? 嬉しいわ」
「ふざけるな! 聖霊を離せ!」
「うふふ。元気な男の子は好きよ。けどね」
右手の矢をロックに向けて投げる。
魔力を込めたのか、真っ直ぐ、スピードに乗ってる。
「そう興奮しないで。わたしは、魔王様の命に従っただけなんだから」
矢が黒くなった。
自分の矢だけど仕方ない。
シトラスに頼み、落としてもらう。
ズバッ。
ロックに当たる寸前に、真っ二つに割れた。
床に落ちたそれは、元の矢だ。
「ロック……」
「ありがとなシトラス。もったいないけど、また作ればいい」
「あら、当たらなかったのね」
「……ちっ、お前……」
「悪いけど、邪魔しないでね。坊や達」
太い蛇のしっぽが、鞭のようにしなって来る。
シトラス、ロック、ジェニファー、ティナはなぎ倒された。
「わあああああ!」
「ごめんね〜。聖霊を、石化させてもらうわ」
アクアリーゼの方を向く。
風の中のアクアリーゼは苦しげだったが、スーリアを睨み付けた。
「スーリア……」
「フフ。あなたには、抵抗できなくてよ」
風が止んだ。
が、アクアリーゼが力を込める間も無く、手を触れたスーリアの力で、足元から石に変えられて行く。
声も出ないまま、全身石化された。
「ああ……」
起き上がったシトラス達。
アクアリーゼが石化されたのを見て、ショックを受ける。
「これで、あなた達には、何もできないわ」
「まだよ。まだ!」
ティナの声にスーリアの笑みが消える。
「聖霊は石になったの。諦めなさい」
「あなたには分からないの? アクアリーゼの微かな気を」
石になったアクアリーゼの体が、僅かに光っている。
「……! これは……」
「聖霊アクアリーゼは、まだ生きているわ。あなたを倒せば、何とかなるかも」
「なら、試してみる?」
スーリアの目が変わった。
シトラス達と対峙する。
風が、動いた。




