表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/635

不思議な猫との出会い

 砂丘ツアーが終わり、アクアル村の人々と別れ、砂の王国を後にしようとしていたシトラス達。

 次はミゲル達夫婦から聞いた、無人島に行く事にした。

 その無人島はサウズランドと目と鼻の先にあった。昔は一つの大陸だったらしいが、地殻変動で離れ、草木生い茂る荒れ地となってしまった。魔物が棲んでいるという噂もある。その為、ほとんど誰も近づく者はいない。シトラス達は勇者として、その小さな無人島を調査に来たのだ。

 唯一、船が停められる平地に降りる。邪魔な草を刈りながら先に進むと、大きな岩肌に出た。よいしょっと岩を登り見下ろすと、草の海だった。

 岩の下が見えない。

 ジェニファーが、タリスマンを使う。

 ウィングナイフで、できるだけ周りの草を綺麗にした。いばらは、ティナが聖獣(パナ)の炎を使い、焼いてジェニファーを助けた。

 もちろん、火事が起きないよう調節している。

 シトラスとロックも手伝った。

 路が開ける。

 慎重に岩を下りた。


「んっしょ」


 滑らないように、さりげなくシトラスはジェニファーの手を引く。


「ありがと、シトラス」

「ああ」


 同じように、ロックもティナの手を引いた。

 優しい男の子達だな。

 ティナとジェニファーは密かに感謝した。


「本当に、何も無い無人島だな。ミゲルさん達に聞いた通りだ。俺達以外、人気も無いし」

「ああ。こんなに荒れてるって事は、長い間誰も訪れなかったんだな」

「でも、噂じゃモンスターを見たって話だよね」

「そうね。パナと同じように、空でも飛んでいたのかしら? ……ん、何か音がしない?」


 ティナの言葉に、シトラス達は喋るのを止め、静かに耳を澄ました。


 ガサッ。


 近づいて来る足音。

 シトラス達の脇の茂みから、何かが飛び出して来た。

 猫だ。

 グレーで、首の長い上品な猫。

 どう見ても魔物には見えない普通の動物だ。

 猫はシトラス達を見ると、嬉しそうに抱きついて来た。

 にゃん、と一声鳴く。

 シトラスが受け止めた。


「どうして、こんな所に猫が……? ん、あれは!?」


 猫を追うように現れたのは、恐竜を模したモンスター、リザーだった。

 シトラスの腕の中で、猫が震える。


「お前、こいつに追われて来たのか? 分かったよ。ちょっと隠れてな」


 猫は言われた通りに彼の服の中に隠れる。

 ちなみに彼らの服は砂漠の時の格好を脱ぎ、元に戻っていた。

 リザーは、ドンと脚を踏み込む。

 シトラスが剣を抜いた。


「さあ、来い!」


 リザーが口を大きく開けた。

 牙か?それともーー、


 ゴオオオオ。


 炎の攻撃だ。

 さすがに、手加減はしないか。

 木が焼けて、火が燃え広がる。

 ティナがウィルを呼び出した。

 聖獣の水で、火が消えて行く。


「よ〜し、あたしも」


 ジェニファーが新しい魔法を使うようだ。

 魔法の杖が光る。

 踊るような水の舞いが、リザーを襲った。


「ウォーターダンス!」


 周りの炎も沈黙した。

 後はシトラスとロックの番。

 ロックの飛天狩射が炸裂したのを見て、シトラスが走った。


「五月雨!」


 思ったより呆気なく、リザーは倒れた。

 シトラスの服の中から、猫が顔を出す。

 が、離れようとしない。

 周りに仲間が集まる。


「シトラス、この猫どうするんだ?」

「ん〜、そうだな〜。俺達の旅は危険だし、連れて行く訳には……」

「そもそも、どうしてこの島にいたんだろうねぇ」

「でも、見れば見る程可愛いです。あたし、気に入りましたよ」

「だそうよ。シトラス」

「そう言われても」


 その時、猫がピョンと跳ねて地面に着地した。

 頭を地にこすりつける。


「お願いです。どうかわたくしを、あなた方の仲間に入れて下さい。ご迷惑はおかけしません!」


 シトラス達はビックリ仰天。

 まさか、猫が喋るなんて。


「驚いてらっしゃるのも無理はございません。このような姿ですから。しかし、わたくしは人間でございます。いいえ、元人間と言った方がいいかもしれませんね」

「どういう事?」

「それを今から、説明致します」


 ジェニファーの疑問に答えるみたいに、猫はその場でジャンプしてクルッと一回転した。すると、猫の姿から一転、人間の女性の姿になる。


「!!」

「わたくし達は村という物を持たず、森の中で自由に生活しておりました。そこを魔王に狙われたのです。魔王は、わたくし達を実験台にする為に生け捕りにしたのです。そこは、暗い城でした。残念ながら、一瞬の事でしたので、どこをどう通ったか分からないのです。わたくし達は一人づつ闇の水晶に入れられました。仲間が次々と、恐ろしい魔物に変えられていきます。それは魔王の力を貯めた水晶で、人間を魔物に変える装置でした。いよいよわたくしの番。強烈な痛みと苦しみが走る中、噂を聞きつけたガルディス様が水晶を壊して下さいました。その為、わたくしは完全な魔物にならず、失敗作として猫になる能力を身につけたのです。ガルディス様は、実験場は予期せぬ爆発が起きたという事でごまかし、使えなくしました。しかし、魔物になった仲間達は、すでに世界各地に送られた後だったのです」

「そんな……。じゃあ誰かが退治してしまった可能性も……」

「はい。その可能性も捨てきれません。魔王は実験場が無くなった後、グリンズム王国に目をつけました。科学が発展したあの国に、魔物を送り込んだのです。しかし、その計画もあなた方によって阻止されたようですね」

「………」

「失敗作として生き残ったわたくしは、ガルディス様のお側で仕えていました。他の魔物達も、どうせ失敗作だからとわたくしには目もくれません。それがかえって、好都合だったのです」

「ガルディスは、ガルディスは無事なの?」


 ティナが悲痛な顔で聞く。

 女性は、一瞬の沈黙の後、悲しげな目で答えた。


「ガルディス様は、リディーム諸島からお帰りになった後、ドラモス様より制裁を受けました。ドラモス様は、ガルディス様を疑っておいでです。わたくしは、ガルディス様と共に城を抜けようと思ったのですが、ガルディス様はわたくしだけを逃がし、もう一人の勇者、シトラス様に仕えるように言われました。申し訳ありません。ガルディス様をお連れする事は、叶いませんでした」

「そんな……」


 ティナは泣きそうだ。

 ジェニファーが肩を抱き慰める。

 シトラスが前に出て来る。


「それじゃ、あなたはガルディスから、俺に仕えるように言われたんですね」

「はい。そうです」


 そう。この女性はいつぞや、傷ついたガルディスと話をしていた、あの女性だった。

 シトラスは、女性の目をジッと見る。

 嘘をついているようには見えない。

 何より、ガルディスの願いなら。


「分かりました。一緒に頑張りましょう」


 女性の顔がパッと輝いた。

 シトラスはみんなの同意を求める。


「別に、オレは構わないぜ」

「あたしも、シトラスが決めたのなら」

「ガルディスの頼みなら、仕方ないね」

「ありがとうございます皆さん。では勇者シトラス様。いいえ、お仕えするのですから、ご主人様。これから、よろしくお願いいたします」

「そこまで、かしこまらなくても。俺達仲間なんだから」

「いいえ。旅に同行させてもらうのですから、あなたはご主人様です」

「分かったよ。ところで、あなたの名前は?」

「……え?」

「名前ですよ。あなたの。俺達これから、何て呼べばいいの?」

「あ……。人間の時の名前なら、ルナンです」

「ルナン。なかなか、言い名前だね。よ〜し、よろしくね、ルナン!」

「は、はい!」


 シトラスが差し出した手を、ルナンは握った。

 その上に、ジェニファー達も手を重ねていく。

 今ここに、新しい仲間が増えた。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ