砂丘のモンスター
二つ目のオアシスを後にして、いよいよ砂丘に到着した。
わぁ。
ため息が出るほど広い。
そして高い。
一体どれ位の高さがあるんだろう。
ラクダから降り、近づいてみる。
触っても大丈夫だと言われたので、ちょっと指で触れてみる。
あ、意外と固いんだ。
砂なのでサラサラしていると思ったら、粘りけがある。
そうだよね。だから崩れないんだ。
ミゲルとカーシャが呼ぶ。
シトラス達はそこに行ってみた。
砂の階段がある。
「こちらから、砂丘の上に登る事ができますよ。外観を壊さないように、僕達がそっと固めた物です」
「そうなんですね。何段位あるんだろう?」
「ざっと60段位ですか。上には板が敷いてありますので、その上から景色を楽しんで下さい」
「わ、分かりました」
ざっと60段。ううっ。見上げるほどだ。
まあ、行って見ますか。
それにしても、この階段を作ったミゲル達も凄い。
シトラス達が階段を登り始めると、彼らも後をついて来た。
一歩一歩進む。
上に近づくたび、風の気配を感じた。
「わぁ〜!」
頂上に着いた。
板の上に並んで立ち、景色を見上げる。
砂丘の向こう側は、海だった。
海と砂の境目には岩があり、それらがゴロゴロと島を囲むように砂丘の近くまで押し寄せていた。
つまり向こう岸には船は停められない。
カーシャが話し出す。
「夕刻にこの場所から海を眺めますと、太陽が沈むのが見えてとても美しいのですよ。砂漠も赤く染まって、それは絶景でございます」
ジェニファーとティナが悔しがった。
「え〜! じゃああたしその時に来たかったな〜」
「アタシもよ。でも悔しいけど、それはタイミングが合わなかったんだから仕方ないかな」
「ティナさん、大人の発言ですね」
「それでしたら、こちらを」
カーシャが取り出した紙。
綺麗に折り畳まれている。
広げたら、そこには夕日の絵が描いてあった。
「村の絵師が描いてくれたのです。夕日に染まる海と砂漠、その様子が伝わってきますね」
「どれどれ?」
シトラスとロックも覗いた。
やっぱり気になっていたんだ。
絵だけど、その綺麗さは分かる。
カーシャは紙を丁寧にしまった。
こういう時の為に持ち歩いているのだろう。
それにしても、
「ここ、風がよく来ますね」
というシトラスの言葉に、今度はミゲルが応えた。
「ええ。この砂丘の上は、風がよく感じられる場所なんです。気持ちいいでしょう? 後ろを振り向いて下さい。僕達の村が、あんな所に見えますよ」
「おお〜」
アクアル村が、あんな遠くに見える。
ずいぶん歩いて来たんだな。
ラクダに揺られてだけど。
「それでは、そろそろ下に降りましょうか。ラクダ達も飽きたみたいですし」
「はい!」
二頭のラクダは呑気に膝を曲げ、楽な姿勢を取りながらあくびをしていた。
その時、強い風が階段を下るジェニファーの背中を押し、彼女は足を踏み外す。
グラッ。
体が浮き、落ちると思った。
「危ない!」
ミゲルが華麗に彼女の前に走り、お姫様抱っこして助けてくれた。
「大丈夫ですか? どこかお怪我は?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございました」
「良かった……。あなたのような可憐な乙女に、お怪我をさせる訳にいきませんからね」
ミゲルはそのままジェニファーを階段の下まで運んでくれた。
優しく彼女を下ろす。
その爽やかな笑顔に、ジェニファーは頬を染めた。
「あらあら、ライバル登場かもね。シトラス」
ロックと共に下に降りて来たティナが言う。
「そ、そんな事……」
シトラスはそう返すが、顔は明らかに不機嫌だ。
ティナとロックはプッと吹く。
最後に降りて来たカーシャは、
「おかしいですね。砂丘の近くで突風は吹いた事が無いのに……」
と、もう一度見上げた。
すると、ラクダが急に暴れ出す。
まるで何かに怯えるような、悲鳴みたいな鳴き声を上げて。
ミゲルとカーシャがなだめるが、ラクダは逃げ出そうとする。
「どうしたんだ、一体?」
「ミゲル、まさか……」
カーシャの悪い予感が当たった。
砂丘の中からうようよと、触角みたいな物が無数に現れた。
やがてそれは一つになり、砂の中から這い出て来る。
「うげっ」
砂丘の中に隠れていた、巨大なミミズのモンスターだ。
シャキンと空に向けて立っているが、しっぽがクネクネと動いている。
「こいつは、砂ミミズ!」
ミゲルはカーシャにここから離れてラクダを落ち着かせるように言い、格闘の構えを見せる。
シトラス達も武器を出し、彼の側へ。
「ミゲルさん、このモンスターは?」
「こいつは砂ミミズ。たまにこの砂漠に現れる魔物です。しかし、ここまで大きいのは初めてですね」
「そうなんですか。にしても、あなたも戦えるんですね」
「ええ。お客様に何かあっては申し訳ないですから、僕とカーシャは格闘家になりました。それより、危険ですからあなた方はカーシャと共にお逃げ下さい」
「いいえ。俺達も戦います! 俺はシトラス。勇者と呼ばれてます」
「オレはロック。弓使いです」
「魔法使いジェニファー。先ほどのお礼に、お手伝いさせて下さい!」
「召喚術士ティナよ。気にしないで。これがアタシ達の使命なの」
「あなた方が、あの噂の勇者……」
ミゲルは驚く。
ここまで案内して来たのが、あの勇者一行とは。
しかし敵は待ってくれない。
砂ミミズが頭を地面に頭突きして、大穴を空けた。
シトラス達はジャンプして避ける。
「分かりました。是非一緒に、戦って下さい!」
「はい!」
砂ミミズと睨み合った。




