アクアル村のひととき
シトラス達がアクアル村に帰ったのは、それから15分後の事だった。
すぐに〈怪しい道具屋〉のテントに向かう。
店主の女性は待ちくたびれたらしく、カウンターに顔を突っ伏していたが、シトラス達の姿を見た途端に飛び起き、走って来た。
「お帰りなさいませ。例の物は、見つかりましたでしょうか?」
ジェニファーが女性に二枚の羽を渡す。
女性は目を輝かせ興奮した。
「まあ、なんて美しい羽でございましょう。このような綺麗な物を見たのは、初めてでございます」
シトラスが、聖獣に出会った時の様子を話した。
「まあ、オアシスにいたのですね。それにレアモンスターの正体が、本当は聖獣だったなんて、ただただびっくりです」
「ええ。俺達も驚いています。レアモンスターの羽を取りに行くはずが、まさか聖獣に出会うなんて。それに、契約まで……」
「凄いですね。召喚術士の方がいたからでしょうが、運が良いんですよ。きっと」
「そうでしょうか?」
「はい。少なくとも、わたくしはそう思います」
女性はまだ興奮覚めやらぬようだったが、
「ああ、いけない」
奥の方へバーッと走って、タリスマンを二つ手に取って戻って来た。
「失礼しました。これが、約束の物でございます」
ジェニファーとティナにそれぞれ渡す。
ジェニファーとティナは、しみじみとタリスマンを見た。
手に入ったんだ。
夢見ていた物が。
ティナはギュッと、それを胸に押し当てた。
嬉しそう。
「良かったですね、ティナさん」
シトラスの一言。
ティナは笑顔で頷く。
女性も笑っていた。
「わたくしも嬉しいです。貴重な羽を持って来て下さってありがとうございました。またこの村を訪ねる事があれば、是非お立ち寄り下さい」
「はい!」
怪しい道具屋を後にする。
せっかくだし、もう少し村人に話を聞いてみようか。
あそこに、ご夫婦らしき人達がいる。
話をしてみると、この村で宿を経営しているご夫婦だった。
嬉しい事に、泊まらせてくれるという。
ただし、お風呂は無い。
その代わり、村の外れの泉で水浴びができるらしい。
回りは土が盛り上がっており、ちょうど真ん中に湧き出ていた。
村の人達もたまに利用する。
ジェニファーとティナは、人のいない時間を教えてもらって、一浴びする事にした。
バサッ。
服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となる。
暑かった為、水のひんやり感が気持ちいい。
「気持ちいいね。ジェニファー」
「はいティナさん。それにしても、改めて思ったんですが……」
「何?」
「胸、大きいですね」
ジェニファーはティナの巨乳を眺める。
一体どうやったら、あそこまで成長できるんだろう。
自分の胸と見比べる。
羨ましい。
ティナはフッと笑った。
「そう? 別に何もしていないんだけどね。それに、大きいと肩が重くてさ。それが困るよねぇ」
「でも、シトラス達は……」
「そうそう。あの子達を誘惑するのには役立つわね。それに、ジェニファーも魅力的だよ」
「ええ!?」
「女のアタシから見ても可愛いよ。あなたは」
ジェニファーはティナのその言葉に照れた。
ブクブクと、水に半分顔を埋める。
「あ、あたしなんて……」
「あははは……! もっと自分に、自信を持ちなって」
背中を叩かれ、水を飲みそうになる。
ジェニファーは思わずむくれた。
「ちょ〜っとティナさん!」
「まあ、ごめんねえ」
「もう」
その頃のシトラス達。
こんなめったに無いチャンスを、逃すはずは無かった。
土を登った時、二人の背中が見える。
木が一本立っていた。
女性陣に見つからないように、後ろに隠れる。
「見えるか? シトラス」
「ああ、背中だけど。ん〜、こっち向いてくれないかな〜」
「それか上手く回り込むか。ん? げっ」
ロックが何かの視線に気づく。
ティナの聖獣、ラッピーだ。
それが木の枝からバサッと降りて来て、強風をシトラスとロックに浴びせた。
「あわわわわわっ」
二人は土を転がり一番下へ。
ティナとジェニファーは物音に気がつく。
「何の音でしょう? ティナさん」
「ん〜。きっとネズミが入って来たんだよ」
「ネズミですか」
「そう。見に行こうか?」
「はい」
ティナはラッピーがやってくれたらしいと感づいていた。
「う〜ん、痛ててて……」
シトラス達は砂だらけ。
服の汚れを落とす。
土の上を見上げた。
「参ったな。まさか、ティナさんの聖獣がいるなんて」
「ああ。オレ達が来る事が分かってたみたいに」
「へ〜、まさか、あなた達がネズミだったとはね。一応罠を張ってたけど、驚きだわ」
「ティ、ティナさん!」
バスタオル一枚を濡れた体にまとって、ティナとジェニファーがやって来た。ジェニファーは、悲しみと怒りが混じった顔をしている。
「シトラス、ロック。覗くなんて……!」
「ジェ、ジェニファー……」
「見たの? 見たのね。あ〜〜、乙女の裸が〜〜!」
「落ち着けよジェニファー。俺達が見たのは、背中だけだって!」
ジェニファーの泣き声が止まる。
「本当? シトラス」
「あ、ああ。背中だけど、白くて、綺麗だったよ」
「あ〜ら嬉しいわ。坊や達なら、全てを見せちゃおうかしら」
「ちょ、ティナさんっ!」
バスタオルをはだけようとしたティナを、ジェニファーが止めた。
「ティナさん。いい加減にして下さい」
「あらジェニファー。そんなに怒る事ないんじゃないの? シトラス達は、背中しか見てない訳だし。それ位なら、許してもいいんじゃないの?」
「そ、そうですね」
「よし、じゃあアタシ達は着替えて来るわ。坊や達もさっぱりして来なさい。宿で食事、待っててあげるから」
「は、はい」
ティナのフォローでジェニファーの怒りが収まり、シトラス達も泉に入る事ができた。火照った体に、水浴びはちょうどいい。宿ではお待ちかねの食事が待っていた。肉がメインだったが、野菜も美味しい。さらに、この地域ならではのヤシの実ジュース。パカッと半分に割ったヤシの実にストローを刺して飲む。これは良かった。
夜はみんな一緒に寝る。大きいテントだが、あのご夫婦の部屋と別れているだけで、シトラス達は四人でごろ寝した。
「お休み、シトラス」
「ああ、ジェニファー……」
隣にジェニファーの顔がある。
寝付けないと悪いから、明かりを消して、目を閉じた。
ティナとロックはすでに寝息を立てている。
明日は、どこへ行こうかな。




