表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/635

アクアル村のひととき

 シトラス達がアクアル村に帰ったのは、それから15分後の事だった。

 すぐに〈怪しい道具屋〉のテントに向かう。

 店主の女性は待ちくたびれたらしく、カウンターに顔を突っ伏していたが、シトラス達の姿を見た途端に飛び起き、走って来た。


「お帰りなさいませ。例の物は、見つかりましたでしょうか?」


 ジェニファーが女性に二枚の羽を渡す。

 女性は目を輝かせ興奮した。


「まあ、なんて美しい羽でございましょう。このような綺麗な物を見たのは、初めてでございます」


 シトラスが、聖獣に出会った時の様子を話した。


「まあ、オアシスにいたのですね。それにレアモンスターの正体が、本当は聖獣だったなんて、ただただびっくりです」

「ええ。俺達も驚いています。レアモンスターの羽を取りに行くはずが、まさか聖獣に出会うなんて。それに、契約まで……」

「凄いですね。召喚術士の方がいたからでしょうが、運が良いんですよ。きっと」

「そうでしょうか?」

「はい。少なくとも、わたくしはそう思います」


 女性はまだ興奮覚めやらぬようだったが、


「ああ、いけない」


 奥の方へバーッと走って、タリスマンを二つ手に取って戻って来た。


「失礼しました。これが、約束の物でございます」


 ジェニファーとティナにそれぞれ渡す。

 ジェニファーとティナは、しみじみとタリスマンを見た。

 手に入ったんだ。

 夢見ていた物が。

 ティナはギュッと、それを胸に押し当てた。

 嬉しそう。


「良かったですね、ティナさん」


 シトラスの一言。

 ティナは笑顔で頷く。

 女性も笑っていた。


「わたくしも嬉しいです。貴重な羽を持って来て下さってありがとうございました。またこの村を訪ねる事があれば、是非お立ち寄り下さい」

「はい!」


 怪しい道具屋を後にする。

 せっかくだし、もう少し村人に話を聞いてみようか。

 あそこに、ご夫婦らしき人達がいる。

 話をしてみると、この村で宿を経営しているご夫婦だった。

 嬉しい事に、泊まらせてくれるという。

 ただし、お風呂は無い。

 その代わり、村の外れの泉で水浴びができるらしい。

 回りは土が盛り上がっており、ちょうど真ん中に湧き出ていた。

 村の人達もたまに利用する。

 ジェニファーとティナは、人のいない時間を教えてもらって、一浴びする事にした。


 バサッ。


 服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となる。

 暑かった為、水のひんやり感が気持ちいい。


「気持ちいいね。ジェニファー」

「はいティナさん。それにしても、改めて思ったんですが……」

「何?」

「胸、大きいですね」


 ジェニファーはティナの巨乳を眺める。

 一体どうやったら、あそこまで成長できるんだろう。

 自分の胸と見比べる。

 羨ましい。

 ティナはフッと笑った。


「そう? 別に何もしていないんだけどね。それに、大きいと肩が重くてさ。それが困るよねぇ」

「でも、シトラス達は……」

「そうそう。あの子達を誘惑するのには役立つわね。それに、ジェニファーも魅力的だよ」

「ええ!?」

「女のアタシから見ても可愛いよ。あなたは」


 ジェニファーはティナのその言葉に照れた。

 ブクブクと、水に半分顔を埋める。


「あ、あたしなんて……」

「あははは……! もっと自分に、自信を持ちなって」


 背中を叩かれ、水を飲みそうになる。

 ジェニファーは思わずむくれた。


「ちょ〜っとティナさん!」

「まあ、ごめんねえ」

「もう」


 その頃のシトラス達。

 こんなめったに無いチャンスを、逃すはずは無かった。

 土を登った時、二人の背中が見える。

 木が一本立っていた。

 女性陣に見つからないように、後ろに隠れる。


「見えるか? シトラス」

「ああ、背中だけど。ん〜、こっち向いてくれないかな〜」

「それか上手く回り込むか。ん? げっ」


 ロックが何かの視線に気づく。

 ティナの聖獣、ラッピーだ。

 それが木の枝からバサッと降りて来て、強風をシトラスとロックに浴びせた。


「あわわわわわっ」


 二人は土を転がり一番下へ。

 ティナとジェニファーは物音に気がつく。


「何の音でしょう? ティナさん」

「ん〜。きっとネズミが入って来たんだよ」

「ネズミですか」

「そう。見に行こうか?」

「はい」


 ティナはラッピーがやってくれたらしいと感づいていた。


「う〜ん、痛ててて……」


 シトラス達は砂だらけ。

 服の汚れを落とす。

 土の上を見上げた。


「参ったな。まさか、ティナさんの聖獣がいるなんて」

「ああ。オレ達が来る事が分かってたみたいに」

「へ〜、まさか、あなた達がネズミだったとはね。一応罠を張ってたけど、驚きだわ」

「ティ、ティナさん!」


 バスタオル一枚を濡れた体にまとって、ティナとジェニファーがやって来た。ジェニファーは、悲しみと怒りが混じった顔をしている。


「シトラス、ロック。覗くなんて……!」

「ジェ、ジェニファー……」

「見たの? 見たのね。あ〜〜、乙女の裸が〜〜!」

「落ち着けよジェニファー。俺達が見たのは、背中だけだって!」


 ジェニファーの泣き声が止まる。


「本当? シトラス」

「あ、ああ。背中だけど、白くて、綺麗だったよ」

「あ〜ら嬉しいわ。坊や達なら、全てを見せちゃおうかしら」

「ちょ、ティナさんっ!」


 バスタオルをはだけようとしたティナを、ジェニファーが止めた。


「ティナさん。いい加減にして下さい」

「あらジェニファー。そんなに怒る事ないんじゃないの? シトラス達は、背中しか見てない訳だし。それ位なら、許してもいいんじゃないの?」

「そ、そうですね」

「よし、じゃあアタシ達は着替えて来るわ。坊や達もさっぱりして来なさい。宿で食事、待っててあげるから」

「は、はい」


 ティナのフォローでジェニファーの怒りが収まり、シトラス達も泉に入る事ができた。火照った体に、水浴びはちょうどいい。宿ではお待ちかねの食事が待っていた。肉がメインだったが、野菜も美味しい。さらに、この地域ならではのヤシの実ジュース。パカッと半分に割ったヤシの実にストローを刺して飲む。これは良かった。

 夜はみんな一緒に寝る。大きいテントだが、あのご夫婦の部屋と別れているだけで、シトラス達は四人でごろ寝した。


「お休み、シトラス」

「ああ、ジェニファー……」


 隣にジェニファーの顔がある。

 寝付けないと悪いから、明かりを消して、目を閉じた。

 ティナとロックはすでに寝息を立てている。

 明日は、どこへ行こうかな。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ