聖獣との契約
緊張が広がる中、シトラスが紋章に力を入れ始めた。
鳥は大人しく、静かな面持ちで待っている。
そこへ、
「あ〜〜〜!」
ティナが大きな声を出した。
タイミングを外されたシトラスや、見守っていたロック、ジェニファー、さらに鳥までがずっこけた。
「なっ、なっ。ティナさんどうしたんですか?」
「だってさ〜、アタシ達レアモンスターの羽を持って来る約束をしたんだよ。浄化しちゃったら、もしかしたら消えちゃうんじゃないの?」
「そ、それは……、どうなんでしょうね」
「タリスマン、手に入らなくなるの?」
「あ、それはあたしも困る!」
「おいおい、ジェニファーもかよ」
困惑するシトラス達に、鳥は言った。
「そうですか。私の羽が欲しいのですね。それならば」
ハラッ。
広げた翼から、羽が落ちる。
それも二枚。
ジェニファーが拾った。
「私が勇者に浄化されても、その羽は消滅する事は無いでしょう。あなた方がその羽を必要としているのならば、喜んで差し上げましょう」
「本当ですか?」
「ええ。ですから安心して下さい」
「はい。騒いで申し訳ありませんでした」
「いいえ。いいのですよ」
ようやく落ち着いて浄化できそうだ。
シトラスは紋章に願いを込める。
「はああああっ!」
光る腕で、直接鳥に触る。
その時、鳥に異変が起きた。
金色の美しい翼が、闇の色に変わっていく。
それは体全体に広がった。
「!!」
シトラスは離れる。
石の魔力が紋章の力に反発して、鳥を魔物に変えたのだ。
鳥は抵抗するが、やがて、
「コオオオオオ」
高く舞い上がり、シトラス達に向かって口から炎を浴びせた。
勇者達は驚きながらサッと避ける。
「ジェニファー、ティナさん、無事か?」
「ええ、シトラス!」
「アタシも平気だよ」
「シトラス、あの鳥……。魔王の力なのか?」
「ああ多分な。けど俺は諦めない。みんな、力を貸してくれ!」
「はいよ!」
まずは鳥の動きを封じる。ロックは矢で翼を狙った。
「飛天狩射!」
羽を僅かにかすめる。鳥は急降下してロックに向けて火を吐いた。
「シールド!」
ジェニファーの魔法で守られたロック。今度こそ上手く命中させた。
「ティナさん!」
「ええ!」
地上に落ちた鳥に、ティナが召喚した聖獣ユニーが光を浴びせる。
鳥は眩しがって目を閉じた。
翼の色が戻りかかっている。
効いているのか。
ならば、とティナはジェニファーを見た。
ジェニファーは理解する。
「シャイニング!」
闇を照らす光の魔法だ。
ユニーの力とシャイニング。二つの効果で鳥は大人しくなった。
「今よ、シトラス!」
「ああ!」
紋章の輝きが、鳥の体を包んだ。
今度は闇が抵抗している。
シトラスは力を込めながら言った。
「頑張って下さい。あなたは聖獣です。闇の力に負けては駄目です!」
「クアアアアア」
鳥の中に眠る聖獣の思いが目覚めた。
パアアア……。
(シトラス。勇者……)
眩しく、でも優しい光の中、鳥は元の姿に戻る。
闇から解放された。
その美しき翼で飛ぶ。
金色の石が落ちてきて、割れた。
「ありがとうございます。これで私は魔物ではなく、聖獣に戻る事ができました。礼を言います」
「でも、石が割れたって事は、あなたは死……」
聖獣は自らの体を良〜っく見てみる。
そして気づいた。
「不思議ですね。普通は死んでいるのですから、魂になるはずが、逆に力がみなぎっています。これは、生きている時と同じ感覚です」
「もしかして、魔王が復活させた事が……」
「良い方向に繋がった。奇跡というものですかね」
「きっと、きっとそうですよ! 凄〜い」
ジェニファーは紋章の力に感激する。
ティナは聖獣に近づいた。
「あなたは……?」
「アタシは、召喚術士をやっている者です。あの、もしよろしければ、アタシに力を貸してくれませんか?」
「それは、契約という事でしょうか?」
「はい」
鳥は黙って考える。
シトラス、ロック、ジェニファーはどうなるのかと心配しながら見ていた。
「分かりました。あなたと契約致しましょう。せっかく甦った身。この世界の為、戦うのもいいでしょう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ティナの笑顔から、喜びが伝わって来る。
すぐに真顔になったが。
「では、早速」
魔法陣を描く。
パアッと青白く光った。
「聖獣よ、我は誓う。我そなたと共に生き、そなたと共に戦いたい。我の願い届いたなら、ここに血の契約を」
ティナは自分の右手首をナイフで軽く傷つけた。
薄く血が滲む。
鳥はその血を一滴浴びた。
「私は聖獣として、あなたと共に戦いましょう。確かに、血の契約を受けました。これからは、あなたに仕える身。どうか、好きな名前でお呼び下さい」
「う〜〜ん」
右手首の傷を押さえながら、ティナは悩んだ。
「金色だからゴールド。ううん、鳥だからバード。ありきたりだな。バード、バーニア、もっと可愛い名前に……。バーニア、バーナ、そうだ、パナってのはどう?」
「パナ。女性っぽい名前ですね」
「その喋り方から、メスかなって思ったの」
「はい、私はメスです。では……」
鳥、いやパナは、魔法陣の中に消えた。
聖獣との契約終了。
ティナは安心して、シトラス達の方を向く。
フラッ。
シトラスが目眩を起こす。
ロックが支えて横にした。
「大丈夫か? シトラス」
「ああ。ティナさんとジェニファーが光の魔法を使ってくれたから、俺の紋章の力が少なくて済んだよ」
「でも、ちょっと休んで。羽も手に入ったし」
「アタシも、聖獣と契約までさせてもらって」
ジェニファーがシトラスの手を握り、髪を撫でる。
心地いい。
シトラスはみんなの言葉に甘えて、目を閉じた。
砂漠の癒しの空間、オアシスで風を受けながら。
シトラスが起きたら戻ろう。
シトラスの回りで、ロック達はそう思った。




