表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/635

託された思い

 第二の島に着いた。

 と言ってもすぐ近くだったので、ちょっと船を動かすだけだったが。

 さっきの島より小さい。

 木が一本生えているだけ。


「シトラス。この島は何も無いね」

「そうですねティナさん」


 一応木の回りを調べて見る。

 ロックが木の枝に、紙が結んであるのを見つけた。


「おい、あんな所に何か結んであるぞ」


 彼の言葉にみんなは上を向く。

 思ったより高い場所の枝だ。


「ホント。でもロック、良く分かったわね」

「ティナさん、オレ、目はいいんです」

「そうなの? 弓で遠くから敵を狙っているからかな」

「かもしれませんね」

「なら、高い所は大丈夫? できたら、取って来て欲しいんだけど」


 ティナは色っぽく、ロックの頬に口づけをした。

 シトラスとジェニファーは目が点。

 ロックはポワッと赤くなりながら、


「は、はい! オレが行って来ます!」


 足をかけ、ヒョイヒョイと登って行った。

 ロックは木登りも得意だ。

 それにしても、ティナは男の子を乗せるのが上手い。巧みに、その気にさせる。

 美女のテクニックというやつか。

 ロックは、紙が巻かれている枝にたどり着いた。

 手を伸ばし、結び目をほどく。

 下ではジェニファーが見上げながら叫んでいた。


「ロック〜、気をつけてね〜!」

「ああ!」


 手を振った瞬間、


「わっ!」

「ロック!」


 バランスを崩し彼が落ちると思ったティナとジェニファーは、思わず腕を伸ばした。

 が、その気配は無い。


「……!?」


 見上げると彼は足で枝にぶら下がり、逆さまになっていた。


「あ〜、びっくりした。マジ、焦った〜」

「ちょっとロック! 大丈夫なの? 体揺れてるじゃない」

「ああティナさん大丈夫です。今、下りますね」


 鍛えた腹筋を使って枝を掴む。

 そのまま木の幹に足をかけ、滑り降りて来た。

 ティナが駆け寄り手を握る。


「ロック、ゴメンね〜。アタシが行けと言ったから……」

「平気ですよティナさん。オレが足を滑らせただけですから。それよりほら、手紙です」

「ああ、そうだね」


 シトラスとジェニファーも一緒に、手紙を読んだ。


 〈この手紙を、いつか発見してくれる人へ。どうか、わたしの願いを聞いて欲しい。この手紙を、リディーム諸島にいる、パミラという女性に届けて欲しいのだ。実は、この島と彼女のいる島は橋で繋がっていたのだが、魔物に落とされ、わたしは彼女に会いに行けなくなった。わたしの命も、もう尽きる。せめて、この手紙だけは魔物に取られぬように、高い所に結んでおく。どうか、お願いしたい。ミバール〉


 手紙には、血の痕がついていた。

 この場所で、力尽きたのだろうか。


「シトラス……」

「ジェニファー。叶えてやろう。この人の願いを」


 ロックとティナも頷いた。


「アタシ達も異論は無いわ、シトラス。よっぽど、その人に会いたかったんでしょうね。手紙にも、その無念が表れてる」

「オレ達は、人助けの為に旅をしているからな。じゃあ、まずはその島とやらを探すか」


 四人は四方に散らばる。

 橋があったのなら、その跡があるはずだ。

 完全に破壊されていなければ。

 ジェニファーが大きな声を出した。


「シトラス、ロック、ティナさんこっち! 橋があったよ」


 それは木の裏側にあった吊り橋だ。

 ロープにくくりつけられた板が、バラバラにずれて風に揺れている。

 向こうの島を見て見ると、落ちた橋の長さが、こっちより長い。

 どうやら、渡ろうと思った瞬間に、スパッと切られたようだ。

 ミバールさんは、その時に怪我をしたのだろうか。

 ロープが結ばれている丸太に、黒いシミがついている。

 血の痕だ。

 これから推測するに、ロープが切られ海に落ちようとした瞬間、丸太を掴んでよじ登り、必死で木の枝に手紙を巻き付け、その後にーー。

 考えるほど、涙が出てきた。

 早く手紙を届けてやりたい。

 シトラス達は一旦船に戻って、パミラさんのいる島に行く事にした。

 橋が落ちている所に船を停める。

 三軒程の家が建てられていた。

 この中から、パミラさんの家を探す。

 一番右の家の前に、ちょうど子供たちがいた。

 ティナがしゃがんで聞いてみる。


「ねえ君達。パミラさんの家って、どこだか知ってる?」


 子供たちは元気よく答えた。


「うん知ってるよ。あの端っこの家」

「パミラおばあちゃん、一人で暮らしてるの。でもとっても優しいんだよ」

「そうなの。ありがとね、君達」


 子供たちに教えられた家のドアをノックする。

 ゆっくりと、お婆さんが歩いて来た。

 白くなった髪を後ろでまとめ、眼鏡をかけている。

 穏やかで、優しい笑顔だ。


「はいはい。どなた様ですか?」

「あの、俺達世界を旅している者です。あなたに、手紙を持って来たんです」

「まあ、お手紙を? さぁ、どうぞ中にお上がりなさい。お茶を入れて来ますね」


 パミラおばあちゃんは、シトラス達を部屋の中に入れてくれた。

 ハーブの香りがする。


「今わたし、ハーブティーにはまっているの。さあ、お飲みなさいな」

「あ、お手伝いします」


 ジェニファーが積極的にカップを並べる。

 手作りのクッキーもあった。


「ありがとね。こんな可愛い子に手伝ってもらえて嬉しいわ。ところで、お話って?」


 シトラスがミバールの手紙を見つけた経緯を話す。手紙を見せると、パミラおばあちゃんは涙を流した。


「そう……。あの人が、あの人がやっと来てくれたのね」

「パミラさん……」

「ごめんなさいね。でも、わたし50年も待ったの」

「50年、ですか!?」

「ええ、そうよ」


 パミラおばあちゃんは胸に手を当てて、甘酸っぱい思い出を語ってくれた。


「あの人は、真面目で誠実な人だった。隣の島で、大工の仕事をしながら暮らしていたの。わたし達は、吊り橋を使って互いの家を行き来していた。若かったのね。あの頃は、何もかもが楽しくて、一緒にいる時間が、永遠であればいいと思ってた。けど、あの人急に来なくなったの。橋が壊されて、向こうに行くのに行けなくなったわ。噂で、いなくなったらしいと聞いたけど、わたしは、あの人の思い出と生きていくと決めたの。ひょっこり、現れるかもしれない。そんな思いが、まだ消えなくて。馬鹿ね。わたし。50年も待つなんて」

「そんな事ありません! パミラさんの気持ちは、素晴らしいと思います」


 ジェニファーが手を握った。


「そう?」

「そうですよ。50年も大切な人を思い続けるなんて、なかなかできる事じゃありません。パミラさんは、一途で素敵な人です。ミバールさんも、きっと幸せだったと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。ただ、お願いがあるの。わたしもう一度、あの島に行きたいわ。あの人が眠っているであろう、あの島に」


 シトラス達は力強く頷いた。


「いいですよパミラさん。俺達の船に乗りましょう。ミバールさんに、会いに行くんです」

「ありがとね。ああ、こんな良い子達に出会えるなんて、神様の思し召しだわ」

「ふふっ。さぁ」


 シトラスとロックが両脇からエスコートする。

 美少年二人にはさまれ、どことなく嬉しそう。


「あらあら。照れてしまうわ」


 船にたどり着く。

 ゆっくりとパミラを乗せ、ミバールが眠る島へ。


(ミバール……。わたし、今行くわ)


 パミラおばあちゃんは、甲板で祈っていた。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ