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奇跡の花

「さぁ、パミラさん。こっちです」


 船から抱き上げてゆっくり下ろす。

 そのシトラスの優しさに、パミラおばあちゃんはポワッとなった。


「まあ、若い頃のあの人みたいだわ。こんな気持ちになるなんて、何年ぶりかしら」


 その言葉を聞いたティナは、小声で言った。


「シトラスの魅力って、おばあちゃんにも伝わるのね。ねえ、ロック」

「そ、そうですね」

「あっ、伝わっちゃ駄目です〜」


 ジェニファーがソワソワしている。

 何か怒っているようだ。


「あ〜らジェニファー。嫉妬しちゃ駄目よ」

「別に妬いて無いですよ〜。フンッ」

「あらあら、素直じゃないんだから」


 やれやれ。

 ティナは苦笑した。

 こういう所は、まだまだ子供だな。

 ま、お姉さんが導いてあげますか。

 先に木の側に着いていたシトラスが呼ぶ。


「何してるの三人とも。こっちこっち」

「は〜い」


 パミラおばあちゃんは、木の根元にしゃがみ込んでいた。

 木の感触を確かめる。


「この木は……。こんなに立派になって……」


 シトラス、ロック、ジェニファー、ティナも見上げる。

 幹が太く、どっしりしている。

 枝振りも立派だ。

 パミラおばあちゃんの目から涙がこぼれた。


「この木はね、あの人と二人で植えた木なの。あの人と一緒になった時に、二人で眺めていようって……」

「パミラさん……」

「ごめんなさいね。この木を見た時に、思い出しちゃって。こんなに小さい、若木だったのに」


 長い年月が、パミラさんとミバールさんの間を通りすぎて行ったのだ。パミラさんが、おばあちゃんになるまでに。

 シトラス達は黙ったままうつむいていた。

 何も言えなくなる。


「暗くならないで。わたしは幸せだったわ。泣いた夜もあったけど、あの人の事が分かるまで、笑って生きようって決めてたの。あの人の思い出があったから、わたしは歩いて来れた。だから、あなた方がそんな顔をする事はないのよ」

「パミラさん……!」

「さあ、笑って。笑顔で送り出してやりたいじゃない。最後まで」

「はい!」


 年齢を重ねた人は強い。

 時間が、悲しみを忘れさせるって言うけど、本当は、前向きな思いや、人とのふれあいが立ち直させる。そんな気がした。

 パミラさんは、木の根元を掘る。

 シトラス達は驚いた。


「パミラさん、何をしているんですか?」

「あの人は、たまに地に穴を掘って、魔物の攻撃を避けてたの。だから多分、ここにあの人が」


 手が土だらけになる。それでもパミラは構わず掘り続けた。

 シトラス達四人も手伝う。

 時間が経過しているからか、木の根が伸びていたけど、それを上手く剣でどかして穴を掘った。

 やがて、頭部の骨が見つかる。

 その周りにも数本の骨が落ちていた。


「ああ、ミバール。こんな所に。やっと会えたわね」


 パミラおばあちゃんは彼の骨を抱いた。

 50年ぶりの再会。

 笑顔が、素敵だった。

 その時、木がボワッと光る。


「見て!」


 ジェニファーの声。

 パミラさんは立ち上がった。


「ミバール、ミバールなの?」


 彼女の持っている人の骨が輝き、手から離れる。

 それは人の形状に変化した。

 若く凛々しい男性。

 50年前に亡くなった、ミバールの魂だ。


「ああ、ミバール……」


 パミラさんがミバールに抱きついた。

 おばあちゃんの姿から、若き頃の彼女になる。

 これにはシトラス達も驚いた。


「パミラ、会いたかったよ」

「わたしもよ。ああ、ようやく願いが叶った」


 二人の様子を見ながら、ロックが囁く。


「シトラス、どうなってんだ? これ」

「分かんねえよ。俺だって」

「それにしても素敵ね。あたし、羨ましい」

「そうね。多分だけど、魂でも会いたいって思っていたミバールさんと、愛する人を思い続けたパミラさんの気持ちが同調して、奇跡を起こしたのね。しばらく、見守ってあげましょう」

「はい」


 ティナの言葉に、シトラス達は納得した。

 パミラさんとミバールさんは、木の側に仲良く座って話す。

 パミラさんは今までの事を。

 ミバールさんの魂は、相づちを打ちながら笑っていた。

 良かった。

 本当に、二人とも嬉しそうだ。

 パミラさんが不意に立った。


「ミバール。踊りましょう。わたし、またあなたとステップを踏みたいわ」

「いいとも」


 手を取り合い、華麗に踊り初める。

 パミラさんのスカートの裾が、ふわっと揺れた。

 踊りという事で、ティナの体が疼いたが、シトラスに止められ、ウウッと我慢した。

 パミラさんがクルッとターンする。

 ミバールさんと見つめ合った。


「ミバール……」

「見てごらんパミラ。そこの勇者君達もどうぞ」

「えっ!?」


 少し離れた所で見守っていたシトラス達だったが、ミバールに呼ばれ、側に来た。

 目の前の木の枝に、花が咲いていく。


「これは……」

「桜の花だわ」


 シトラスとジェニファーの会話。

 ロックとティナも目をパチクリして見ている。

 綺麗……。

 こんな景色が見られるなんて。


「どうだい? パミラ」

「綺麗。とっても綺麗よ。ミバール」


 パミラさんの肩をそっと抱いたミバールが聞く。

 パミラさんは感激していた。


「生きている時に、二人でこの景色を眺めたかった。でも僕は、死んでしまった」

「ミバール……」

「だけど、勇者一行が僕の手紙を見つけてくれて、願いが叶ったんだ。ありがとう。本当に」


 ミバールの魂が、パミラから離れる。


「ミバール」

「パミラ。僕は行くよ。君にもう一度会えて良かった」

「ミバール。わたしは泣かないわ。あなたに会えて、わたしも嬉しかった。この奇跡を、忘れない」

「さよなら、パミラ」

「さようなら、ミバール」


 別れ際、二人はキスを交わした。

 そっと、ミバールの魂が天に昇って行く。

 桜の花びらを連れて。

 木の光が消え、パミラさんの姿も元に戻った。


「パミラさん……」

「シトラス君、わたし、ミバールの骨を埋葬するわ。わたしの家の近くに。そうすれば、毎日でもお話しに行けるでしょ。この島には、いつか橋が直った時にまた訪れる事にするわ。その時まで、長生きしなくちゃね」

「そうですよ。ミバールさんの為にもね」

「フフッ。そうね」


 シトラス達はまた船で、パミラおばあちゃんを家まで送ってあげた。話を聞いた島の他の住民が、橋を直す事を約束してくれた。これで、パミラおばあちゃんも安心できるだろう。

 こうして二人の願いを叶えたシトラス達は、ほんわかとした気持ちになった。

 島民に手を振り、シトラス達は歩き出す。

 リディーム諸島の島の数は、確か全部で五つ。


「さぁ、次の島へ行くぞ!」

「オーッ!」


 元気なシトラスの声に仲間達が合わせる。

 船は波に乗った。















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