ティナ、仲間に
闇に包まれたリカの魂の周りにいるのは、シトラスとロックとジェニファー。レイニー、ティナ、それにミズナだけ。リカの味方となって動いてくれる人は、もう誰もいない。
剣を構えたシトラスが言う。
紋章の輝きが眩しい。
「リカさん、あなたの魂を解放します」
「くっ、ならば、あなた達も闇に落ちなさい!」
体の前に黒い闇の魂を膨らませる。
思い切り投げた。
ズバッ。
シトラスの一閃で破壊される。
「あ、ああ……」
「リカさん。俺様達は信じてる。あなたの中にある、本当の強さを!」
「レイニー……」
「アタシもだよ! リカさん、よそから来たアタシにも、あなたは笑って接してくれた。嬉しかったよ。だからアタシ、この街で生きられたんだ」
「ティナ……」
フワッと、心の中に灯りが浮かんだ。
この街で、みんなと過ごした日々が思い出される。
最初の頃は、確かに街の人々の風貌が怖いと感じた。ひげ面で、体格が良くて、刺青をしていて。けれど、話をしてみたら思ったよりいい人達で。そうか。見た目で判断しては駄目なんだ。この人達も、本当は寂しいんだなと分かった。
だから、おせっかいかもしれないけど、自分にできる事はないかと探した。そして、だんだんと変化して行く街で、みんなと生きていくのは楽しかった。
そう、わたくしは、好きになっていたんだ。
誰よりもこの街を。
(ティナ、レイニー……)
「リカさん!」
(思い出しました。あなた達と笑いながら生きた日々の事を。わたくしは、この場所が好きなのです。あの時確かにわたくしは、恨みのナイフをこの身に受けました。しかし、わたくしを刺した方も、あなた達も恨んではいません。一時の気の迷いで、過ちを犯したかもしれませんが、それは負けた悔しさからそうなってしまっただけの事。人は誰でも感情があります。憎んだり、妬んだり、怒ったりする事もありますが、前を向いて欲しいと、わたくしは思います。それができるのも、人間ですから)
「リカさん……!」
美しく微笑む彼女は、まさに天使のようだった。
ティナとレイニーは安堵する。
(さぁ、シトラス。わたくしの闇を斬って下さい)
「はい!」
気合いを入れる。
光と共に、高く飛んだ。
「飛翔斬!」
闇が真っ二つに裂かれる。
その中心点から光が左右に広がり、祠全体の闇までも浄化して行った。
「リカさん……」
光に包まれたリカの魂。
魔王の力は、消えたようだ。
「皆さん、ありがとう。これでわたくしは、向こうに戻る事ができます」
「リカさん、俺様……」
シトラスが剣を収め離れると、レイニー、ティナ、ミズナが彼女に近づいた。
話をさせてあげよう。
シトラス達は後ろで待った。
「レイニー。立派になりましたね」
「リカさん。俺様、闘技場のチャンピオンになる。なって世界中のみんなに伝えるんだ! この街の事を。変わって行ける俺様達の事を。そしていつか、また地上に出る。それが、俺様にできる事なんだ」
「はい! 期待しています」
「リカさん。あたしは踊り子だから、踊るしか能がない。けど、いつかリカの街が地上に出たら、いろんな人達に踊りを伝えていきたいな」
「ミズナ。伝統を伝えていくという事は、素晴らしい事です。それにあなたには、未来予測という能力があります。自分に何も無いなんて思わないで下さい」
「リカさん、あの……」
「どうしました? ティナ」
「アタシ、この街を出て行く事になる。シトラス達と一緒に旅をするんだ。でも……」
リカはゆっくりと、ティナの手を握った。
魂だったけど、その温かさは分かる。
「ティナ。自分を恥じないで良いのですよ。街を出るのは、悪い事ではありません。それだけ、あなたがこの街を好きだという証拠なのですから。勇者と共に旅をするのでしょう? 正々堂々と参りなさい。あなたには力があります。わたくしは知っていましたよ。あなたがこの時を、ずっと待っていた事を」
「リカさん……」
「大丈夫、自分を信じるのです。世界が平和になる日を、わたくしも見守っています」
「はい!」
リカの魂が宙に浮かんで行く。
お別れの時だ。
彼女はレイニー達の決意を聞いて、本当に嬉しそうに、にこやかに消えた。
祠の中に、静けさとほのかな灯りが戻る。
石の塔もそのままだ。
「さて、と」
レイニー達は離れて待っていたシトラス達の方を向いた。が、様子がおかしい。
シトラスが倒れている。
「どうしたの!? シトラス!」
「ティナさん。急にシトラスが意識を失って……」
ジェニファーは涙目だ。
ロックも慌てた素振りだったが、それでも冷静を繕おうとしていた。
レイニーは考える。
「そういや、闘技場で俺様と戦った後も倒れたな。あの時も、紋章の力を使ってた。どうやら、紋章の力はまだこいつには重すぎるのかもしれねえな」
「レイニーさん、どうしましょう」
「心配するなジェニファー。とにかく休ませよう。オメエらも疲れただろ? 俺様の家で休みな」
「……はい」
レイニーがシトラスを背中におぶってくれた。
彼を先頭に、祠を後にする。
一旦、レイニーの家へ。
シトラスが目覚めると、布団に横にされていた。部屋の中は見覚えがある。
レイニーさんの家だ。
周りには誰もいないが、外から話し声がする。
体を起こした時、スープを持ったジェニファーが入って来た。
「あ、シトラス気がついたの? 良かった」
彼女はホッとした表情で、すぐに隣に来た。
「ジェニファー、俺……」
「リカさんの魂を救った後、倒れちゃったの。どうやら紋章の力は強すぎて、今のあなたにはコントロールできないみたいね」
「そうか……」
彼は暗い顔になった。
ジェニファーがフォローする。
「そんな落ち込まないで。あなたならきっと使いこなせるわ。あたし達もカバーする。それより、スープを飲まない?」
「えっ? ジェニファー特製?」
「え? あたし特製が良かった? ごめんなさい。作ったのティナさんなの。そうだ。飲ませてあげるね」
ジェニファーはスープをスプーンですくい、自分の息でフウフウした。
「はい、あ〜ん」
「う、うん」
照れながら口に入れるシトラス。
すると、
「おっ! いい感じだねぇ。お二人さん」
ロックが現れ、からかう。
さらにもう一人。
「お待たせ〜。支度出来たよ〜」
「ティ、ティナさん……」
肩が丸見え。へそ出し。胸を布で隠している。
胸を隠している布は背中の方でリボン結びになっていた。
キュッとくびれのある腰。
ここにも布が巻かれている。
足にはサンダル。太ももまで伸びているリボン。
これ、ダンスホールで踊った時と同じ靴だ。
お気に入りなのかな。
それにしても、胸と腰を強調した衣装だ。
慣れるまで、目のやり場に困る。
実際今だって、どこを見ていいのか。
「あら〜、シトラス、ロック。アタシのスタイルに見とれてるの〜? フフッ。触ってみる?」
プルンプルンした巨乳が揺れる。
シトラスとロックは、顔が真っ赤。
「フフッ。可愛いなあ」
「ティナさん、二人にちょっかい出すのは駄目です〜」
「あらジェニファー。ちょっとからかっただけよ。では、シトラスも起きたし、出発しようか」
ティナが先に行く。
シトラスは布団の側の剣を取ると、ジェニファー、ロックと一緒に続いた。
梯子を上り、数日ぶりの地上へ。
空は晴れ渡っていた。
レイニーと街の人々が待っている。
「レイニーさん!」
「ようシトラス。街の奴らには俺様が説明した。みんな、オメエらを見送る為に来てくれたんだ」
「ありがとうございます! レイニーさん、お世話になりました。皆さんもお元気で」
「おう! また来いよ。また闘技場で一戦やろうぜ」
「はい、是非!」
船に乗り込むシトラス達。
ミズナが人々の間から出てくる。
「シトラス君、ティナをよろしくね。ティナ、元気で!」
「はい、ミズナさんもお元気で!」
手を振る人々に、シトラス達も手を振って応える。
船が動き出した。
ティナが笑ってシトラス達を見る。
「ティナ・ガーデンよ。改めてよろしくね。シトラス、ロック、ジェニファー」
「はい! こちらこそ」
新たな仲間と、新たな旅へ。




