小さな島々
船上には、心地よい風が吹いていた。
帆を広げ、順調に波の上を進む。
ティナさんは、シトラス達にこれまでの旅の話を聞いてきた。仲間になったから、今まで彼らがどんな思いをして世界を廻って来たかというのを知りたかったのだろう。それにもう一つ、アルズベルト村でのシトラスの生活ぶりだ。生まれ故郷から貰われて行った後、本当に幸せだったのか、苦労はしていなかったのか気になっていたから。
シトラス達は長くなると前置きをして、包み隠さず今までの事を話した。
「それじゃ、やっぱりあんたは苦労していたんだね。ゴメンね。アタシ達が預けたせいで」
シトラスの村での生活を聞いたティナは、一粒涙をこぼした。
シトラスは首を振る。
「ティナさん。泣かないで下さい。姉さんやジェニファー、ロックがいましたし、俺、幸せな事もありました。それに、あの村にいたから、こうして旅ができて、ティナさんとも会えたんですよ」
「シトラス……」
「だから俺、大ラッキーだと思ってます。世界を見る事もできますし」
「そうだね。これからはアタシもいるからね。それにしてもあんた達、随分いろんな所を廻って来たんだね」
「はい! 子供だけで……? って驚かれたりもしましたけど、これからは、大人のティナさんがいますものね」
「ああ。ドンとこの胸に任せておきなよ」
「はい!」
ティナが胸に拳を当てる。
プルン。
なんて形の良い弾力のあるバストだろう。
思わず見とれる。と言うより見てしまう。
俺達より年上の、20才だと言っていたっけ。
美人で気っぷが良くて頼れるお姉さん。
ああ、仲間になってくれて良かった。
「……シトラス。シトラスってば」
「ん? ああ、何だジェニファー」
「何だじゃないでしょう」
ジェニファーはジト目でこっちを見ていた。
ヤバイ。
「シトラスぅ〜。何ティナさんの胸ばっかり見てるのよ」
「う……、そ、それは……」
「あら、可愛いわね坊や。何なら感触を確かめてみる?」
「ホントですかティナさん! って、ジェニファーよせ、嘘だ。冗談だよ!」
「問答無用〜〜〜!」
彼女の後ろに怒りのオーラが上がった。
シトラスは甲板を逃げ回る。
「よせジェニファー。船の上で火は使うな!」
「安心しなさい。あんたに当ててやるのよ」
「わ〜〜〜」
「ファイヤーショット!」
そのドタバタをロックとティナは笑いながら見ていた。
「あ〜あ。馬鹿だなあシトラスは、こうやって見えない所で触れば……」
「ロック〜!」
ビュン。
なんと、ロックの顔面にまで火の玉が飛んで来た。
ティナさんはびっくり顔。
ジェニファーはざまあ見なさいという感じで腕組みをした。
おお。怖いけど格好いい。
「ジェニファー。ちょっとやり過ぎじゃないの?」
「いいんですよティナさん。こうしないとスケベ根性治らないから」
「でも、アタシは平気だけどね。それにこれ位普通よ」
「えっ!? そうなんですか」
「うん。何なら、もっと過激な事を教えて……」
「ティナさん!」
その時、伸びていたシトラスとロックが起き上がった。
「う〜ん痛てて。ジェニファーひでえよ」
「まさか、オレまでとばっちりとは」
「可哀想に二人とも、大丈夫かい?」
「別に手加減してるんだから平気でしょ。それより、あたし達これから何処に向かうの?」
ジェニファーが地図を乱暴に渡す。
やれやれと、シトラスが受け取った。
ティナが隣で覗き込む。
「う〜んそうだねぇ。あんた達、こう来た訳か。せっかく船に乗ってるんだから、船でしか行けない場所に行くってのはどうだい?」
船でしか行けない場所?
それは何処という顔で、シトラス、ロック、ジェニファーはティナを見つめる。
「例えばここさ。リディーム諸島」
ティナが分かりやすくペンで囲ってくれた。
小さな島々が点々としている。
方向的には、グリンズム王国の北に位置していた。
「この小さな島々をまとめてリディーム諸島って言うの。どう? ここを船で回るってのは」
「面白そうです。それ」
シトラスはちょっと考えてすぐ結論を出した。
「確かに。こういう場所にこそ、意外なお宝が眠っているかもしれないぜ」
「もう、ロックったら現金ね。けど、そう考えるとそうかも。あたし達、世界を廻るつもりだったし、ちょうどいいかな」
ロックとジェニファーも異論は無さそうだ。
「じゃあ、そうと決まったら」
シトラスが操縦かんを握る。
今、船は闘技場の東に向かっている。
つまり、目指す場所と逆の方向だ。
クルッと、大きく左に旋回させる。
船が向きを変えた。
「それじゃ、リディーム諸島に向かって」
「出発、進行〜〜!」
一体、どんな出会いが待っているのやら。
ガサッ。
リディーム諸島の一角の島。
その男は、シトラス達が到着するのを待っていた。
悲しく、寂しさを含んだ目で……。




