リカVSシトラス一行
この世界の何処かにあるはずの、誰も知らない……って、このパターンもう何回か使っているよね。読者の皆さんも、飽きてきただろうと思うので、単純に魔王の城。今魔王ダイロスは、接見の間で瞑想していた。彼が腰掛けている椅子の前にはカーテンがひかれ、表情は伺う事はできない。リカの街に現れた勇者一行を混乱させるべく、リカの魂を使って攻撃している最中だった。
やはりあの優しいリカさんは、操られていたのだ。
その接見の間には、二人の戦士がいた。
一人は龍の姿をした男。
そう、サララを死に至らしめたあの憎きドラモスだ。
もう一人は、女。
胸をサラシで巻き、それでいてへそ出しという男だったらたまんない格好だが、下半身は蛇という体を持つ魔族だった。
彼女は不安そうにダイロスを見つめる。
「ダイロス様……」
ドラモスは落ち着いていた。
あの時と同じように、どっしりと構えている。
「どうしたスーリア。我らは魔王様の側近だ。常に落ち着いていなければならない」
「しかし、魔王様は今、勇者達と戦っておられるんでしょ? 心配で」
「心配は要らん。実体はここにおられる。戦っているのは、あの街で死んだ女の魂だ。魔王様は、魔力をお貸ししているだけだ」
「そう、だね……」
「それに、魔王様が瞑想中は、我らがここで御身をお守りするのが役目。魔物が、報告に来る場合もあるしな」
「けれど、ここは人目につかない魔王城よ。一体誰が攻めて来るって?」
「ジョセフィーヌのように、裏切り者がいたらどうする」
「あ……」
「そういう事だ。それに我には、気になる男がいる」
「ガルディスの事ね」
「ああ」
ここでドラモスは深いため息をついた。
ガルディスはダイロスより、魔王城の外へ好きに出かける事を許されている。別に、その事は気にならない。ドラモス達とて、それは同じだから。ただ、ドラモスとスーリアは魔族なので、基本的には城にいる。
気になるのは、その事ではない。
「ガルディスは、我らとは違う人間だ。今は魔王様に忠誠を誓っているが、同じ人間の勇者どもと通じる事があるかもしれん。それに、ここ最近の奴の行動は引っかかる」
「城から出るのが多くなったからね。もしやすでに、誰かと通じていると?」
「それは分からん。ただ、用心しておくに越した事はないという事だ」
「まあ、そうなったらわたし達で始末をつければいいわよ。粛清としてね」
「ああ。魔王様にも、ご相談してみよう」
「そうね」
二人は話を止め、魔王ダイロスの方を見た。
接見の間は静かになる。
ダイロスは、眠っているように瞑想していた。
ダン、ダン。
リカのパンチが次々と土を削る。
シトラス達は一方的に攻められていた。
レイニーとティナは一度は構えたものの、リカの姿をした者に攻撃を加えられない。
逃げるだけでいっぱいだ。
巨大化している為、シトラスの剣やロックの矢を当てても跳ね返されてしまう。
頼りはジェニファーだけか?
「バーニングバード!」
炎の鳥が命中し、リカは怯んだ。
ジェニファーは続けて行く。
「サンダーボム!」
頭上からの雷と爆発。
さっきのバーニングバードが完全に消えていなかったから、これは効いたかも。
リカの魂は前にふらついた。
このタイミングならいけるかも。
「炎乱狩射!」
ビシュウウウウ。
ロックの矢が捉えた。
リカは後ろに倒れる。
闇に入ろうとしていた人達の足も止まった。
キョロキョロして、周りを見ている。
「みんな! 今の内にこっちに!」
ティナの声。
が、リカの魂が起きた。
「させんぞ」
表情はますます恐ろしくなり、声のトーンも違う。
まるで、男の人の声。
「まさか……?」
シトラスは何かを感じた。
リカの魂の裏にある、大きくて、不気味で、黒い気を。
触れちゃいけない気がする。
「ティナさん、リカさんは、何かに操られています!」
「何かって、何よ?」
「それは分かりません。分かりませんが、ひどく暗い、大きな気を感じます」
「それって……」
ティナは何かに気づき始めた。
その時、彼女達の頭の中に声が響く。
優しく、懐かしい声。
(ティナ、レイニー、そして皆さん。わたくしを動かしているのは魔王の気です。どうか、わたくしを止めて下さい)
「リカさん!」
ジェニファーとロックの攻撃の影響で、眠っていた彼女の本当の意思が目覚めたのだ。
(さあ、早く。このままではこの街が滅びてしまいます。わたくしは、皆さんと過ごしたこの街が、大好きなのです。ですから)
「……はい」
リカの願いに、レイニーは拳を、ティナは杖を構えた。
「リカさん! 本当のあなたを、俺様が解放してやるぜ!」
涙のパンチを放つ。
重く、思いのこもった一撃が決まった。
「ぐあっ!」
魔王ダイロスの気が乱れ、リカの体が揺れる。
ティナは杖を地面に軽く押す。
魔法陣を描き始めた。
描き終わるとトンと杖で叩く。
魔法陣が光を放った。
「聖獣召喚! 出でよ、ユニー!」
頭に一本角の生えた、白く翼のある馬。
その出で立ちは正に伝説のユニコーン、か?
空に浮かんでいる姿は小さい。
そう、まだ子供なのだ。
「ユニー、光を!」
翼を大きく広げ、ユニーは吠える。
聖なる輝きが、リカの魂を照らした。
「グオオッ」
リカ。いや、魔王が苦しんでいる。と思ったら、
「甘いな」
目をカッと見開き、ユニーを手で弾き飛ばした。
ユニーは魔法陣の中に戻る。
「ユニー!」
ティナが叫ぶがそんな暇は無い。
リカが狙っていた。
シトラス達が守ろうとする。
ドカアッ。
巨大な足が、振り下ろされた。




