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魔王の罠

 遠くから、誰かが駆けて来る足音がする。

 一人ずつ、体を揺すられた。


「ティナ、しっかりしてティナ! それにレイニーさん。坊や達!」


 どうやら気絶していたみたいだ。

 ティナは目の前の人物の顔をうっすらと眺める。


「み、ミズナ……」


 シトラス達も目を覚ます。

 もうすっかり夜は明け、太陽の光が差し込んでいた。


「アタシ達は、一体?」


 状況が飲み込めず、座ったまま辺りを見回す。

 巨大なリカさんの魂と、闇に囚われた人々は消えていた。

 祠だけが、黒く光っている。


「あたしがここに来た時、あんた達が巨大なリカさんに踏み潰される直前だったんだ。びっくりして、声が出なかったよ。リカさんは、その後悲しげな顔で、街の人達と祠の中に消えて行った。あんた達、死んだと思ったよ。けど良かった。大したことなくて……!」


 ミズナは強くティナを抱きしめる。

 親友が心配で飛んで来たのだろう。

 嬉しさが伝わる。


「ミズナ。ありがとう。心配かけたみたいだね」

「ううん。いいよ。それよりどっか痛くないかい?」

「平気だよ。シトラス達は?」

「俺は何ともありません。ティナさん」

「あたしも〜」

「オレもです」

「俺様もだ。それよりティナ、リカさんは……」

「うん……」


 ティナとレイニー、ミズナは黙ってしまう。

 悲しいな。

 この街の人々の、リカさんへの思いは、凄く強い。

 言葉で言われなくても、その表情を見てれば分かる。


(本当に、大切な人だったんだな)


 シトラス、ロック、ジェニファーも一緒に辛さを分かち合う。

 だからーー、

 ロックは拳をギュッと握った。


「リカさんは……。リカさんの本当の心が、オレ達を守ってくれたんだと思います。だからオレ達は怪我が無かった。ですから、ティナさん、レイニーさん。助けてあげるんです。オレ達が」

「ロック……」

「彼女の魂を解放してあげましょう。そして、本当の意味でこの街が自由にならないと」

「自由に……」

「はい! 一番それを望んでいたのは誰ですか? それを実現するのは、あなた達です」


 ロックの言葉に、レイニー、ティナ、ミズナは顔を上げた。

 瞳に意志が宿る。


「そうだな。オメエの言う通りだ。俺様達がやらねえといけねえな」

「そうだね。アタシ達が諦めちゃ駄目だもんね」


 立ち上がり、祠を見る。

 あの中にリカさんが、助けを求めている人々がいるんだ。

 深呼吸をする。

 ミズナが言った。


「みんな。また見えたんだ。祠の中は闇の世界になって、どうなっているか分からない。けど、人々はまだ無事なはずだよ」

「分かった。じゃあ、行って来るよミズナ」

「待ってティナ! あたしも行く」

「え?」

「待っているのはもう嫌なんだよ。それにさ、あたしもこの街の人間だ。役に立てないかもしれないけど、リカさんの事、救いたいんだ。あの時、助けられなかったから」

「ミズナ……」


 街の人々は、誰もが後悔していた。

 あの時、矢面に立ってくれたリカさんを救えなかった事が。

 闘技場から運ばれて来た遺体を見た時、みんなで泣いた。

 笑顔だったから。

 最後まで人を信じ、笑いながら旅立った。

 だからーー、

 今彼女が苦しんでいるのなら、その魂を救ってあげたい。

 それが自分達なりの、償いだから。

 ティナは頷いた。


「分かったよミズナ。一緒に行こう。あなたの能力も役に立つかもしれないよ」

「本当? ありがとう!」


 シトラスが祠の扉に手をかけ叫ぶ。


「それじゃあ行きましょう、皆さん!」

「オ〜〜ッ!」


 ミズナを含めた一行は、中に入った。

 ちょうどその時、

 魔王城の魔王は瞑想を止め、ドラモスとスーリアの前に出て来た。

 二人は驚いた顔をしながらも礼をした。

 ドラモスが訊いてみる。


「魔王様。決着をつけられたのですか?」


 ダイロスはフッと笑い答えた。


「いや、まだだ。後はあの魂がやるだろう」

「……? どういう事なのですか?」

「勇者どもは祠の闇の中に飛び込んだ。あそこには闇が充満している。わたしの手助けは要らないだろう。それに、まだ仕掛けはある」


 ダイロスから仕掛けの事を聞いたドラモスとスーリアは安心して笑みを漏らした。


「さすがは魔王様。そのような罠を用意しておいでとは。我々には、考えの及ばぬ事です」

「フッ、おだてるな。まあ、ここで奴らが出て来たとしても、チャンスはいくらでもあるからな」

「あまり弱い内に倒しても、面白く無いですからね」

「そういう事だ」

「では、我々はここで」

「うむ。ご苦労だったな」


 ドラモスとスーリアは一礼し、接見の間を後にする。

 ダイロスは再び椅子に腰掛けた。


(さて、勇者シトラスよ。わたしの罠から抜け出せるかな?)


 そんな仕掛けがある事は知らない、闇の中のシトラス達。

 ランプのほのかな灯りまで消されていた。が、準備のいいミズナが代わりのランプを持っていた。

 そのランプの光に照らされているのは、先ほどのような巨大な姿ではない、人間サイズのリカさんの魂だった。


「リカさん……」

「勇者シトラス、お待ちしていました。魔王ダイロス様の(めい)により、あなたの命、頂きます」


 穏やかな口調だったが、まだ闇に囚われているようだ。

 ミズナは後ろに下がり、シトラス達は武器を構える。


「では、わたくしから」


 ダッ。


 三つ編みの髪がほどけ、シトラス一行を襲う。

 するするって、伸びて近づいて来た。

 縛り上げて動きを封じる気か。

 その前に、


 ビュッ。

「疾風!」


 シトラスの剣が彼女の髪を斬った。

 リカは大して残念がらず言う。


「おのれ、よくも女の命の髪を……。なんて言うと思いましたか? 残念でしたわね。わたくしは魔王様から力をもらった身。いくらでも伸びるのです」


 斬った髪が再生していく。

 これではいくら切ってもきりが無い。

 襲い来る髪をシトラス達は走って避けた。


「ならば、これ!」


 ジェニファーとティナが同時に杖を捧げる。

 リカは余裕の笑み。


「光ですか? ただの光ならわたくしには効きません」

「違います!」

「えっ!?」


 リカの足下から炎の渦が上がる。

 ジェニファーが力を込めた。


「フレアインパクト!」


 ゴウゴウと音を立てて燃え上がる炎の柱。

 リカは少し焦げたものの、平気な顔をして立っていた。

 そこにティナの召喚魔法。


「出でよ! ラッピー」


 青くてフワフワした毛並みの、耳が大きく垂れているウサギに似た聖獣。

 ラッピーは空中に浮かぶと耳をばたつかせ、風を生み出した。


 ビシュウ……。


 思ったより強い強風。

 リカの体は飛ばされる。

 一回転して止まった。


「やりますねティナ。でしたら、この方達をお呼びしましょう」


 リカがパチンと指を鳴らす。

 奥から二人歩いて来た。


「あれは……」


 その人物を見た途端、シトラス達は動きが止まった。




 

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