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リカの街の秘密

「ティナさん!」


 踊り子達の控え室の手前で、シトラスはティナの腕を掴んだ。びっくりして、ティナは振り向く。

 ジェニファー、ロック、レイニーも追い付いた。


「ティナさん。待って下さい。話を聞いて下さい」

「アタシはあんた達と話なんて無いの。仲間になれないと言ったでしょ」

「あなたには無くても、俺達にはあるんです!」


 シトラスの手を振り切り、その場から立ち去ろうとする彼女を逃がさないように、グッと肩を掴み、こっちを向かせた。

 顔が近い。

 年下の少年だが、真剣な眼差しのシトラスに、ティナはドキッとした。


「あ……」

「ティナさん。さっきあなたと入れ違いに来た踊り子の人に、あなたの事を聞きました。あなたは、俺の生まれた村の人だったんですね。俺……、知らなかったから。何も知らなかったから。つい最近だったんです。俺がアルズベルトに預けられた訳を聞かされたのは。だから、もっと知りたいんです。あなたは、姉さんの代わりじゃない。一人の女性として、召喚術士として、一緒に来て欲しいんです! そして教えて下さい。あなたが知っている、俺自身の事を」

「あんた……」

「あなたはずっと俺を……、勇者を待っていたんですよね。俺は確かに、まだ一人前じゃないかもしれません。けど、魔王を倒します。その為にずっと、旅をしていたんです。ティナさん。あなたの力を貸して下さい。俺達には、あなたが必要なんです!」

「シトラス……」


 ティナは目を伏せ、少し考えているようだ。

 サララが死んだ後も、ずっと旅をしていたのか。

 アタシに会う為に。

 ロックとジェニファーが畳み掛ける。


「シトラスの言う通りです。あたし達、諦めません。その為に、村を出たんです」

「オレも、ずっとシトラスを支えていきます。それがサララさんの願いであり、オレ自身の思いです。魔王を倒す為に、新しい仲間、こんな美人さんが入ってくれるなら、オレ、嬉しいです」

「あんた達……、村を出てまで、勇者を支えると?」

「ええ。オレ達は、親友ですから!」

「あたしも、シトラスの為なら、戦える」


 ティナは涙が出てきた。

 この子達はシトラスが勇者だろうと、そんな事は関係無いと思っている。

 たとえ魔王が勇者を狙って村を襲ったとしても、側にいただろう。

 仲間だから。

 親友だから。

 本当は心配だった。

 アルズベルト村で、どんな生活をしているだろうと。

 大丈夫。

 この子達なら、一緒に……、


「アタシは……」

「ティナ!」


 ティナがシトラス達に思いを伝えようとしたその時、血相を変えて男性が走って来た。


「どうしたんだい? 慌てて来てさ」

(ほこら)が……。リカさんの祠が黒く光ってる!」

「何だって? 本当かい?」

「ティナ! 祠って、もしかしてあれか?」

「うん! レイニーさん、ちょっとこの子達と待ってて。アタシ、行って来る」


 ティナは男性とダンスホールを出て行った。

 シトラス達は、レイニーに聞く。

 リカさんの祠って何なのかと。

 レイニーはゆっくりと語り始めた。


 闘技場の島の地下にある街、リカ。

 この街はさまざまな事情を重ねた者達が集まる街。

 例えば、村から悪い事して追われたり、逆に逃げ出したり、死に場所を求めてたどり着いた者もいる。

 通称、荒くれ者の街。

 しかし、そんな人達にも、聖女のように優しく接してくれた女性がいた。

 リカ・デュマリエ。

 どんな時でも変わらぬ微笑みで、街の人達の心を癒し、見守ってくれた。

 彼女を慕う者も数多くいたという。

 闘技場を作ったのも、彼女の発案だ。

 最初は喧嘩っ早い街の人達を仲良くさせようと、コミュニケーションの手段で提案したのだが、いつの間にか噂が噂を呼び、世界中から人が集まるようになってしまった。

 新しい主催者でルールが作られ、もともと地上にあったリカの街は地下へと追いやられた。

 それでも人々は闘技場に出ようとする。リカさんが作ってくれた場所が好きだったから。が、荒くれ者の街という事で悪い噂を立てられ、次第に遠慮するようになる。レイニーのように出身地を隠して出場している者も、稀にいるが。

 もちろんリカはその事を嘆いた。同じ人間でも、良い人もいれば悪い人もいる。しかし、真心を持って接すれば、通じあえるはずだと信じていたから。

 その後、リカは何とか外との繋がりを探そうとするが、闘技場でリカの街の選手に負けた他の村の人に逆恨みされ、殺されてしまう。リカを慕っていた街の人達は怒り、復讐しようとする。が、リカがそれを望んでいないと思い直し、せめて彼女の魂が安らぐようにと祠を建てた。そして名前のなかった街の名をリカの街と決めたのだ。


「そんな……、そんな事が……。もしかして、俺達がこの街に来たから異変が……」

「そんな事はねぇぞシトラス。オメエらには関係ねぇ。気にすんな」

「そうさ。あんた達のせいじゃないよ」

「あなたは……」


 そこには、ティナの話をシトラス達に聞かせてくれた踊り子の人がいた。


「リカさんは、嘆き、苦しみながら死んだ。その絶望が、闇を生んだんだ。この街を覆い尽くす位の」

「街を覆い尽くす? オメエの能力か? 見えるのか?」

「どういう事ですか、レイニーさん」

「シトラスこいつはよ、能力を持ってるんだ。未来予測っていうな」

「それは凄い! でもリカさんって人が死んだのは……」

「ああ。俺様も引っかかる。どうして今頃……」

「分からないよ。でも、何かが起きようとしている。はっ!」

「どうした!?」

「ティナが、ティナが危ない。祠に……」


 青い顔の踊り子。

 レイニーはシトラス達を引き連れ、急ぎ祠に向かう。


「祠はこの街の東側だ。太陽のような人だったからな、リカさんは。あ、あそこだ!」


 洞穴のような入り口に、石の扉。

 矢印の方向に引っ張る。

 中に入った途端、男性の悲鳴がした。



 




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