グッバイ、ジョセフィーヌ
サメロンはロックの放った矢はヒョイッと避けたが、空中のシトラスの剣までは意識がいかなかった。
「ギャアッ!」
飛翔斬を受ける。
着地したシトラスは、オマケとばかりもう一発ぶちこんだ。
「十字斬!」
しゃきっと立っていたサメロンがフラッと倒れる。
ひれと尾っぽをばたつかせていたが、起き上がる事はできない。
「おう。さすがだねシトラスよ。いや〜、いい物を見せてもらったぜい!」
アランが甲板の中央に行こうとする。
サメロンの目が、ギラッと光った。
ジェニファーが気づく。
「まだですアランさん! 動かないで下さい!」
サメロンが高速で体を滑らせた。
甲板を、泳いでいるみたい。
口を大きく開けアランを狙う。
アランは、ギョッとした。
「ファイヤーショット!」
ジェニファーの火の魔法が、サメロンの肌に当たる。
ジュワッ。
サメロンの肌が湿っていた為、かき消された。
「えっ!?」
「ジェニファー。炎系は駄目。雷だったら、多分効くわ」
「分かったわ」
ジョセフィーヌのアドバイスを受け、ジェニファーが杖をかざす。
その間にも、サメロンはアランに近づいていた。
ピョンと飛ぶ。
「危ないっ!」
「!!」
アランの代わりに、ジョセフィーヌがサメロンの牙を受けた。
流れ落ちる血。
左肩から胸にかけて、ガッチリと食い込んでいる。
「サンダーボム!」
ジェニファーがサメロンの頭上に雷を落とし、ジョセフィーヌと離した。
フラフラとジョセフィーヌは座り込む。
「おめえ、俺っちを庇って……」
青い顔で心配するアランにも、ジョセフィーヌは笑ってみせた。
「平気よこのくらい。アタシも魔物だから。それより、安全な所に隠れていて」
「お、おうよ。悪かったな」
アランがまた隅っこに行く。
サメロンは、ピクピク痙攣していた。
濡れている分、電流が通りやすくなったか。
シトラス達も警戒しながら、回りを固めた。
サメロンの痙攣が止まる。
突如立ち上がり、ヒレでジョセフィーヌをどついた。
怪我をしている彼女は、簡単に倒れる。
「ジョセフィーヌ!」
ジェニファーが支えた。
サメロンは、
「あ〜。今のは効いたな〜。でもぼく、まだやれるもんね」
そう言うと、ジェニファーを口にくわえて海に飛び込んだ。
「ジェニファーっ!」
シトラスとロックが慌てて後を追おうとしたが、ジョセフィーヌが止めた。
「二人とも駄目よ。ここはアタシに任せて」
「ジョセフィーヌこそ、怪我してるじゃないか!」
「いいのよ。アタシは役に立ちたいの。それに海の中は、タコであるアタシが行った方が早いわ」
シトラスの制止を聞かず、ジョセフィーヌは大ダコの姿になり、海に潜った。
「ジョセフィーヌ……」
シトラスは、水面を見つめた。
アランが彼の肩をポンと叩く。
「今はジョセフィーヌを信じて、待つしかないな。シトラスよ」
「はい」
シトラスとロックはボーッと同じ場所を見ている。
ジェニファーとジョセフィーヌの帰還を信じて。
(どうか、無事で……)
海に、願った。
一方の海中。
ジェニファーは息苦しさに耐えながら、必死にサメロンの口から逃れようともがいていた。
幸い、魔法の杖はしっかりと握ったまま。
この杖だけは、離すものか。
魔法書で見た、覚えたてのあの呪文。
使ってみますか。
杖を握る手に力が入る。
「ウイングナイフ!」
サメロンの体の回りを囲む小さな風が、無数のナイフのように彼の全身を切って行く。
「ぐわっ!」
ジェニファーは、サメロンの口から逃れた。
海中に漂う。
そこに、大ダコのジョセフィーヌが現れた。
「ジェニファー!」
ジョセフィーヌはタコの足で優しくジェニファーを包むと、海上に向かって上昇する。
ジェニファーは人間。
これ以上は、息が続かないだろう。
「待て……」
サメロンだ。
ぼろぼろになりながら、しつこく追いかけて来る。
ジョセフィーヌが、水面に顔を出した。
船で待っていたシトラスに、ジェニファーを渡そうと足を伸ばす。
ガブッ。
サメロンがジョセフィーヌを攻撃する。
海に沈みかけてる。
このままじゃ。
アランが素早くロープを投げる。
ジョセフィーヌはそのロープを、ジェニファーの体に結んだ。
「えっ!? ジョセフィーヌ!」
「シトラスちゃん。アタシは後でいいわ。今はジェニファーを助けてあげて。意識を、失いそうよ」
「分かった」
シトラス、ロック、アラン力を合わせて、ジェニファーを船の中に引っ張る。
「ジェニファー! ジェニファーっ!」
シトラスが呼び掛けると、ジェニファーは水を吐いて目を開けた。
「良かった……」
シトラスは安堵する。
ジェニファーを支え、 海の様子を見る。
ジョセフィーヌがサメロンに噛まれながらも、タコ足で強く縛りつけていた。
「ぐわわわわっ! ぼくは……」
「しつこいわよ、あんた」
巨大なサメとタコの格闘だ。
傍目には面白いが、やっている本人達は真剣そのもの。
魔王に仕える魔物と、裏切り者の命の取り合いだから。
サメロンの牙が離れた。
ジョセフィーヌの足も取れる。
二匹とも限界に近い。
最後の力を振り絞る。
ジョセフィーヌが空中に浮かんだ。
サメロン、ギラッと口を開き待ち受ける。
「ジョセフィーヌミサイルっ!」
「ぬおおおおお!」
頭からサメロンにぶつかるジョセフィーヌ。
激しい激突。
ついにサメロンは力尽きたが、ジョセフィーヌにも致命傷を与えていた。
頭から、バーッと血が吹き出す。
海に落ちた。
「ジョセフィーヌ!」
泣き顔で、ジェニファーが叫ぶ。
海に赤い血を流しながら、ジョセフィーヌは言った。
優しい笑顔。
「シトラスちゃん、ロックちゃん。そしてジェニファー。あなた達と会えて、楽しかった。少しの間だったけど、一緒に旅ができた事、アタシの誇りだわ」
「ジョセフィーヌ……」
「泣かないでジェニファー。シトラスちゃん達と一緒に、前を向きなさい。あなたには、笑顔が似合うわ」
「うん」
ジョセフィーヌに言われて、ジェニファーは笑ってみせた。目に貯めた涙を拭って。
「それでいいわ……。ジェニファー、アタシね、人間になりたかったの。昔ね、海岸に打ち上げられたアタシを、助けてくれた男の子がいたの。青い髪で、黒髪のお姉さんがいた」
「……!! それって……」
「フフッ、もう時間ね。ジェニファー、シトラスちゃん、ロックちゃん、あなた達の事……、忘れない……わ」
海の中に沈んで行く。
ジェニファーは、ハッとして手すりを掴んだ。
水に包まれて、大ダコから人の顔へ。
力が抜ける。
船に向けて手を伸ばした。
「フフッ、死ぬ時って、あっさり逝くのね」
笑いながら、溶けて行った。
黄色いリボンが、浮かんで来る。
「あ……」
ジェニファーが、杖を使いそれを拾う。
彼女が、ジョセフィーヌにあげた物。
「ジェニファー……」
シトラスが、泣き出しそうな彼女の側に来る。
ジェニファーは、前を向いて言った。
「シトラス、行きましょう。サララさんの為にも、ジョセフィーヌの為にも、進みましょう!」
「ああ!」
目指すはグリンズム王国。
辛い事があっても、走る事は止めない。
それが彼らの戦いだから。




