白熱の戦い
サララが氷の中のロックに呼び掛けてみる。しかし、反応が無い。スノーマーメイドは、妖しげな笑みでサララを見た。
「あらあら、私の氷の中で眠っちゃったのかしら。可愛い子。もう少し、休んでいてね」
「何言ってるの! このままじゃ死んじゃうわよっ!」
「あら、それは困るわ。でも、死んじゃったらずっとこの中で変わらずにいられるわ。それもいいかもね」
「……っ!」
スノーマーメイドの勝手な言い分に、サララはカチンときた。
それはシトラスとジェニファーも同じ。
武器を持つ手が、怒りで震えている。
「まあ。そうカッカしないで、仲良くやりましょう」
スノーマーメイドが、口から投げキッスのように息を吐いた。
冷たい、氷の息吹だ。
「ブリザードキッス」
勇者達は上手く避けたが、部屋の壁が凍って行く。
なんて冷気だ。
「あら、上手く避けたわね。でも次は……」
ビュッ。
サララが走った。
滑りやすい床の上でも、上手にバランスを取っている。
「演舞斬!」
スノーマーメイドのブリザードキッスとぶつかる。
吹雪に押され、前に進めない。
「フフフフフ……」
「くっ、こんな物っ!」
サララの気迫が、ブリザードキッスを切り裂いた。
驚くスノーマーメイドの元にたどり着く。
「桜花演舞!」
桜花斬と演舞斬を合わせた、サララの必殺技だ。
スノーマーメイドが悲鳴を上げる。
「ギャアアア」
氷の欠片が舞い飛び、スノーマーメイドの体に傷がつく。サララは、もう一撃浴びせようとした。
が、苦しんでいたスノーマーメイドの目がニヤッと笑いサララを見る。
ハッとしてサララは離れた。
「コールドソード」
スノーマーメイドの右手が尖った剣になる。
サララは腹を刺された。
「姉さん!」
シトラスが倒れたサララを抱える。
ジェニファーがすぐ回復魔法をかけ、大事には至らなかった。
その間、ジョセフィーヌがスノーマーメイドの矢面に立つ。
「私とやるっていうの? この裏切り者のタコが」
「そうね。確かに今はシトラスちゃん達と一緒に戦っている。でも仕方ないじゃない。気に入っちゃったんだから。好きになるのに、魔物も人間も魔王様も関係ないわ!」
「戯れ言を! どう繕っても、あなたはもう魔王様の下には戻れないわ!」
「そうね。仕方ないわね」
「ならば死ね!」
スノーマーメイドとジョセフィーヌがぶつかる。
シトラス達はその凄さに口を開けて見ていた。
「タコ足の輪舞!」
「コールドソード」
ズバババババ。
目にも止まらぬ速さの蹴り。
スノーマーメイドの手の動きも早い。
双方ともに傷ついていく。
蹴りがスノーマーメイドの体を飛ばした。
と同時に、
ズバッ!
タコ足の何本かが切り落とされる。
床に転がるタコの足。
血が吹き出る。
「ジョセフィーヌ!」
シトラス達が青い顔の彼女の所へ。
ジョセフィーヌは笑った。
「大丈夫よ。元に戻るから……」
言われた通り、切られた箇所に足がくっつく。
ただ、傷の再生は遅いみたいだ。
ジェニファーがキュアリーをかけようとするが、ジョセフィーヌは断った。
「平気よジェニファー。それより攻撃して。ロックちゃんが、ヤバいわ」
ジェニファーはスノーマーメイドを見る。
サララ、シトラスも近くに来た。
「なあに、今度はあなたが相手なの? でも、中途半端な攻撃じゃ、私の氷は溶けないわよ」
そのスノーマーメイドの言葉に、ジェニファーは不敵に笑った。
「ふうん、氷を溶かせばいいんだ」
「えっ!? ちょっとあなた、何する気?」
「さあね」
ジェニファーの足下に魔法陣。
という事は、この魔法は、
「フレアインパクト!」
が、スノーマーメイドの回りには、炎柱が出ない。
彼女の本当の狙いは、ロックを包んでいる氷。
ボオオオオオッ。
炎の勢いは物凄く、天井まで届いた。
スノーマーメイドはおろおろと慌てる。
「あっ、ああっ。ロック君が!」
「あら、ロックを閉じ込めてびくともしないって事は、その結晶厚いんでしょう? その氷を溶かすだけよ。ロックには、当たらないわ」
「このっ、あんた!」
スノーマーメイドがジェニファーの魔法を止めようとコールドソードを伸ばす。そこにシトラスとサララが左右から斬った。
「ギャッ!」
ロックのいる場所から、水がたくさん流れて来る。ジェニファーは、魔法を収めた。
ビシュウウウウ。
水蒸気が昇る中、ロックの姿が見える。
無事に氷から出たようだが、その場で横になっていた。
サララが呼び掛ける。
「ロック!」
「サララ、さん……」
返事をした。
意識はあるようだ。
スノーマーメイドが、彼に近づこうとする。
「もう一度、氷の中に……」
「させない!」
「姉さん、これ!」
シトラスがサララに投げた物。それはスノブル村でおじさんにもらった熱々のお湯が入っていた水筒だった。外の気温が寒かったので、熱湯ではないものの、それでもまだ温かい。
「スノーマーメイド!」
「え?」
振り向いた魔物の顔に、そのお湯をぶちまけた。
氷の体で、体温が低いスノーマーメイドにとっては、その位のお湯でも効いた。
「うっ、熱っ。何するの?」
「うるさい!」
サララが剣でなぎ倒す。
いつも冷静な彼女が、ここまで熱くなるとは、珍しい。
恋の力だろうか。
スノーマーメイドが、フラフラと立ち上がる。
そこに、スノーマーメイドが落とした弓矢を拾ったロックが、歩いて来た。
「ロック君……」
「サララさん、トドメは、オレが」
ロックが矢に火を点ける。
スノーマーメイドの額に近づけた。
スノーマーメイドの顔色が変わる。
「え? ちょっと止めて! ロック君!」
「スノーマーメイド。オレは、あんたのモノになる気は無い。オレには、好きな人がいるんだ」
「ロック君、私は、あなたを……」
「さよなら」
炎天狩射が、スノーマーメイドを焼いた。
恍惚の表情で、スノーマーメイドは逝く。
ロックは倒れた。
「ロック!」
「ロックちゃん!」
サララがロックを抱き寄せる。
ジェニファーが、キュアリーをかけた。
「ロック! しっかりして。死なないで!」
サララの腕の中、ロックが目を開ける。
「ロック……!」
「平気、です。オレは、死にません。あなたを……、みんなを残して、逝けるものですか」
「うん!」
シトラス、ジェニファー、ジョセフィーヌが囲む。ロックは、精一杯笑顔を見せた。
「ロック、立てるか?」
「ああ」
シトラスの肩を借り、ロックは立つ。
スノーマーメイドが座っていた椅子の後ろの壁に、扉があった。
ギイイイ。
細い通路になっている。
多分、この先に目的の花がある。
シトラス達は、通路に足を踏み入れた。




