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温泉天国

「パパ!」

「アミー!」


 アミーちゃんは、人混みの中に自分のお父さんを見つけ、ジェニファーの手から駆け出す。

 砦の外で待っていたユノ村の村長が、娘のアミーちゃんを力強く抱きしめた。

 アミーちゃんもお父さんに会えて、安心のあまり泣いている。

 他の村人達からも、歓喜の声が漏れた。


「良かった……」


 勇者一行はその様子を笑顔で見つめながら、ゆっくりと砦の方から歩いて来る。

 アミーちゃんは興奮収まらぬまま喋り出す。


「あのねパパ、アミーね、怖い女の人に捕まってたの。そしたらね、お姉ちゃん達が来てくれて、その女の人をやっつけてくれたの。女の人、お婆ちゃんの魔女だった。お姉ちゃん達、強かったよ!」

「おお。そうか、そうか」


 村長はシトラス達に気付く。


「勇者殿、捕まっていた村人達全員、無事に助けてくれてありがとう。ユノ村を代表して、礼を言わせてもらうよ」


 村長が握手を求める。

 シトラスはそれに応え、ギュッと手を握った。


「礼なんて要りません。俺達はただ、山賊が許せなかっただけですから」

「いや。遠慮なんてしないでくれ。君達がいなかったら、みんなを助け出す事も、事態を打開する事もできなかった。君達のおかげだよ」

「ねえ、パパ」

「ん? どうしたアミー」


 アミーちゃんはキラキラした瞳で、無邪気に言った。


「アミーねえ、お姉ちゃん達気に入っちゃった。これからお家で一緒に遊ぶの」

「え? それはちょっと、勇者殿達に迷惑じゃないか?彼らも、疲れているだろうし」

「いやいやいや、遊ぶの〜〜!」

「参ったな、これは……」


 何も知らない小さな女の子のワガママといえば分かるのだが、村長はどう説明していいか困惑していた。シトラスはそんなアミーちゃんのご機嫌をとろうと手を繋ぐ。


「分かった。アミーちゃん、一緒に遊ぼう」

「ホント? お兄ちゃん!」

「うん。君の家に案内してくれるかな?」

「うん、こっちだよ!」


 嬉しそうにアミーちゃんは、シトラスの手を引いた。

 ジェニファーとロックも続く。

 村人達も子供達を守るみたいに、一緒に帰って行く。

 歩きながらサララが、村長に言った。


「村長さん。アミーちゃんは砦の中で怖い思いをしました。だから、今は思い切り楽しませてあげましょう。わたし達も、協力を惜しみません」

「しかしそれでは、君達に迷惑じゃないのかい?」

「いいえ迷惑だなんて。むしろ楽しいです。わたし達も」

「そう言ってもらうと助かる。君達は、本当にいい子達だな」


 そう言っている間に、ユノ村に帰って来た。

 シトラス達は早速、村長の家におじゃまする。

 村の奥にある、二階建ての立派な家だ。


「お兄ちゃん達、こっちだよ」


 アミーちゃんの部屋は二階にあるらしい。シトラス達は村長の奥さんに挨拶して、階段を上った。

 小さな女の子の部屋にしては、広い。

 可愛らしく、壁はピンクになっている。

 ぬいぐるみが、たくさん置かれていた。


「アミーちゃん。何して遊ぼうか?」


 部屋の真ん中に座ったシトラスが聞くと、アミーちゃんはオモチャのお茶セットを持って来た。


「これで、おままごとするの」

「うん、いいよ」

 アミーちゃんの指示で、おままごとが始まった。


 やがてー、

 賑やかだった二階から、シトラス達が降りて来た。

 村長と奥さんはリビングでお茶を飲んでいる。


「ああ君達も、こっちで一緒にお茶を飲まないかい?」


 村長の誘いに、シトラス達はOKした。

 実は喉が乾いていたのだ。

 着席すると、奥さんがお茶菓子と紅茶を出してくれた。

 村長が話す。


「勇者殿、みなさん。娘の遊びに付き合ってくれてありがとう。疲れているだろうし、遠慮しないで食べて。ウチのモノの手作りなんだ」

「そうなんですか? 美味しそう。頂きます! それとアミーちゃん、今は疲れて眠っていますよ」

「そうか。ほら、紅茶も冷めるよ。遠慮せずに」

「はい!」


 シトラス達の目の前には、キャロットケーキが置いてあった。見た目も美味しそう。パクっと、口に放り込んだ。


「美味しい! あたし、こんなケーキ初めて」

「俺、人参はちょっと苦手だったけど、これなら食べられるな」

「シトラス、正直に言いすぎ。でも、オレも旨いと思う」

「ほんのり甘くて、柔らかくて、真似してみたいレシピです」


 評判は上々だった。

 村長と奥さんは、嬉しい顔で見ている。


「そうだろう。ウチのモノのお菓子は、最高なんだ」

「まあ、あなたったら」


 少しだけ、夫婦のノロケを聞かされたが、それさえもシトラスには微笑ましく感じた。親のいないシトラスとサララには、この感じが、温かかった。


「勇者殿。良かったら、みなさんの名前を聞かせてもらえないかな?」

「はい、いいですよ」


 シトラス達は分かりやすく自己紹介をした。

 そのあと、村長からこの村の名物の温泉に是非浸かっておいでと言われたので、そこに向かった。

 ただ、シトラスとロックには不安があった。

 サララとジェニファーが、一緒に入ってくれるかという事。

 水着だけど、恥ずかしさもあるかなと。

 歩きながら、二人の顔を見る。


「あら、シトラス。あたしの顔に、何かついてる?」

「い、いや別に……」


 シトラスとロックはモジモジする。

 そんな男の子を見て、女の子達は笑った。


「そうね〜。シトラス今日頑張ったし、ご褒美をあげちゃおうかな〜」

「えっ!? マジ?」

「ロック。特別にわたしの水着、見ていいわよ」

「本当ですか、サララさん!」


 二人の言葉にシトラスとロックは同時に叫んだ。


「やった! 大ラッキー!」


 同様にサララ達も期待していた。

 男の子達の鍛えた上半身、いや水着姿が見れると。

 もちろん、言葉には出さなかったが。

 温泉の側に、きちんと男女別の更衣室がある。

 水着は持ってなかったらレンタルできるそうだ。けど、シトラス達は長旅に備えて、ちゃんと持ってきていた。


 チャポン。


 先に湯船に浸かったのは、シトラスとロックだった。

 程よい筋肉。

 腹筋も割れていた。

 湯加減は40℃。

 熱すぎず、丁度いい温度だ。

 足も楽々伸ばせる。

 20人は入れる広さだ。


「お待たせ〜」


 お待ちかねのサララとジェニファーがやって来る。

 サララは白の、ジェニファーはピンクのビキニ姿だった。


「おお〜〜!」


 シトラスとロックの歓声があがる。

 お湯に足を入れた時、サララの胸が揺れた。


 プルんっ。


 シトラスの隣に来たジェニファーがからかう。


「あ〜〜。ロック顔赤〜い」

「そ、そんな事ね〜よ!」

「またまた〜」


 サララも座る。

 四人で滝を眺めた。


「ん〜〜。最っ高〜〜!」

「そうだね、姉さん」

「滝を見ながら、しかもシトラスの隣で、あたし、嬉しい!」

「そ、そうか? ありがとな。ジェニファー」

「滝もいいけど、オレはサララさんの美しい水着姿を見ただけで、幸運です!」

「もう、ロックったら興奮して」

「ハハハハハハ」


 こうして、温泉と滝で癒され、ユノ村の宿で眠りについた。

 明日は、どんな冒険が待っているのだろう。

 とにかく今は、いい夢を。

 グッドナイト。










 



 



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