覚悟の別れ
激しく回転する甲羅。
テュッティは最初から刺を出していた。
何も出さないままじゃ、また野球のボールみたいに打ち返されるだろう。
が、今回は相手が悪かった。
ガルディスは闘気を剣に溜めると、
斬っ!
刺を斬り落とした。
さらに甲羅を上から叩かれる。
テュッティは甲板に伸びた。
「ああっ! ぼくの自慢の刺が……」
手で甲羅を確認し、動揺する。
ガルディスは冷静に言い放った。
「テュッティ。人間はお前達魔族から見れば確かに弱いかもしれない。が、俺は少なくとも魔王城の中でビッグスリーまで上り詰めた。それは俺の実力だったと自負している」
「それは、あなたが勇者の力を持っているから。そして、魔王様が決められた事」
「そう。魔王の罠だったって事は想像がつく。俺はその立場を利用してシトラスを鍛えた。しかし勇者でなくても、魔族と同等に戦える人間もいる。ここにいるロック、ジェニファー、ティナ、ルナンはその代表だ」
「まあ、わたくしも仲間に入れて貰えるのですか?」
「ああ。俺はお前を魔物と思った事は無い」
「嬉しいですわ。わたくし」
「く……、ガルディス!」
テュッティは拳を握り、ガルディスの顔面に向けて繰り出した。
ガルディスはパッとその腕を掴む。
「テュッティ。人はな、力で強くなるんじゃない。心で、強くなるんだ」
「心なら、ぼくらにもある!」
「そうだな。お前達は、自分達だけの世界を作る為に戦う。俺は、世界を守る為に戦う。その違いだ」
「あなたが戦うのは、力の為じゃないのか?」
「俺には、守りたい者がいる。この世界が好きなんだよ。だから、壊したく無いんだ」
「分からない、分からないよ!」
テュッティは海に飛び込んだ。
先ほどのように、水中から攻撃するつもりか。
船に穴でも開けられたら大変だ。
シトラス達は目を皿にしてテュッティの姿を探す。
ドスン。
衝撃はいきなり来た。
やはり船底を叩いている。
ティナが、戦いやすいように止めていた船を動かすようにシトラスに言う。
そうか。
それならテュッティの位置が分かる。
シトラスは船を発進させた。
「こら〜、待て〜」
進む船を追いかけてテュッティが泳ぐ。
確かこの船には大砲がついていた。
ルナンが狙いを定める。
「ルナン、いいの?」
「はいご主人様。テュッティ様は敵味方に別れた以上、感情を捨てろと言いました。わたくしが、やるしかないと思います」
「でも、手が震えてるよ。席を変わって。俺がやるから」
「申し訳ございません、ご主人様」
大砲の玉が、テュッティに向かって放たれる。
海の中、テュッティは必死に爆発を避けた。
「わっ、わっ!」
「ほら、もう一丁」
「くっそ〜。お前っ」
テュッティが飛ぶ。
回転した甲羅は操縦していたロックにぶち当たった。
船が再び止まる。
テュッティの攻撃はそれだけでは無い。
今度はティナに向かう。
「ロック!」
「ティナ、大丈夫か!」
シトラスとガルディスの叫び。
ティナは何とか直撃を避けたものの、転んで膝に擦り傷を負ってしまう。
ガルディスが、すぐ駆けつけた。
それより問題はロックだ。
彼は不意討ちを食らい、頭から血を流して倒れてしまう。
ジェニファーは泣きながら回復魔法をかける。
シトラスの呼び掛けにも応えない。
ただ心臓は動いてる。
ルナンは目に涙を溜めてテュッティを睨んだ。
「テュッティ様……! なんて事を……」
そのテュッティは得意げに甲板に降り立った。
腰に手を当てて、胸を張っている。
「へへ〜ん。どうだ。ぼくだってやるんだ。これでドラモス様に褒めて貰える」
「……そうか」
静かな怒りを抱え、ガルディスはティナを背に立った。
ティナは彼を後ろで見ている。
今のガルディスは、ちょっと怖い。
「テュッティ。魔族の意地は分かった。俺も子供とは思わん。本気で行く」
「え?」
「お前は俺の大切な者達を傷つけた。遠慮はしないぞ」
テュッティは笑っていられなくなる。
ガルディスの目が真剣だ。
まさか、本気で怒らせたか。
「衝雷斬!」
「ぐあああっ!」
痛みが半端ない。
焼け付くような痛みが全身を襲う。
さらに、
「迅雷!」
三日月型の波動がテュッティを飛ばした。
血を吐き、起き上がれない。
ルナンの心が、思わず口をついて出た。
「テュッティ様……。もう、お止め下さい!」
が、テュッティは首を振る。
「ルナン……。ぼくは子供だ。だけど、ガルディスを倒せたら、ぼくは魔族として、もっと強くなれるかもしれない……。だから……」
ガルディスを見上げる。
「行くよ、ガルディス」
「ああ、来い」
テュッティの覚悟を受け止める。
これ以上戦えば、どうなるかというのも、分かっているはずだ。
最後の力を振り絞る。
甲羅がギュンギュンと回転した。
そのスピードは、今までで一番早い。
「うおおお! スピンアタック!」
「衝雷斬!」
紋章が輝く。
その力で、ガルディスはテュッティを斬った。
頑丈だったはずの甲羅がボロボロになる。
ダンッ。
甲板に落ちたテュッティを、ルナンが抱き抱えた。
「テュッティ様っ……」
「ルナン……」
薄目を開けて、テュッティが笑う。
ガルディス、ティナ、そして意識が戻ったロックが、両脇をシトラスとジェニファーに支えられながら近づく。
ガルディスは、テュッティの側に膝を立てた。
「ガルディス……。やっぱりぼくは、あなたに勝てなかったよ……」
「テュッティ……」
「ルナン。ぼくは魔王城にいた者は、みんな仲間だって思ってたよ。だから……、たとえ人間でも、ガルディスやお前と、仲良くしたかった……」
「テュッティ様……」
「ぼくには……。母親がいない……。優しいルナンを、お母さんみたいに思ってた……。ガルディスも、ぼくを、弟みたいだって……」
「………」
「ありがと……。二人とも、好きだった……」
テュッティは目を閉じる。
もう、何を言っても、話さない。
そこに、怒りのドラモスがテレポートで現れた。
「ドラモス!」
ガルディスは警戒する。
ドラモスはテュッティの遺体を両手で抱え、戦士達に言い放つ。
「勇者ども。この痛み、忘れんぞ。次こそは、必ず……!」
そのまま消えた。
大切な部下を、弔ってやるのだろう。
シトラスは悲しい顔で、兄とルナンに聞いた。
「兄さん……、ルナン……、大丈夫?」
二人とも辛い気持ちはあったが、笑って見せた。
船はまた、動き出す。




