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第三話 オートナビ

自動運転ナビを手に入れた坂口は、さっそく使ってみたが……

 坂口がマイカー通勤していると言うと、大抵うらやましがられる。

 だが、渋滞に巻き込まれたり、油断してバッテリーが上がったり、ガス欠寸前なのに近くにガソリンスタンドがなかったり、ほんのちょっと停めただけなのに駐禁を切られたり、やけに前が空いてるなと思ったらネズミりにひっかかったりと、ロクでもないことが多い。

 坂口にしてみれば、満員電車に揺られてウツラウツラと居眠りしながら通勤していた若い頃がなつかしいくらいだ。特に寝不足の朝など、誰か運転を替わってくれと本気で思う。

 だから、ついに自動運転ナビが一般販売されるという話を耳にした時、すぐに飛び付いた。しかも、お試し期間は無料だという。坂口はなじみのディーラーを訪ね、さっそく取り付けを頼んだ。

 ほんの十分ほどで、担当者に呼ばれた。

「さあ、オーケーです。一応、標準設定にしてありますが、音声ガイド付きなので、簡単にカスタマイズできますよ。とりあえず乗ってみてください。説明しますので」

「わかった」

 坂口は車のドアを開けようとして、ふと、思いついたことを言ってみた。

「開け、ドア!」

 ピクリともしない。

 担当者が苦笑している。

「すみません。そういう機能はありませんので」

「まあ、そうだよな」

 顔を赤らめながら坂口が運転席に乗り込むと、「失礼します」と言って担当者が助手席に座った。

「まず、普通にエンジンをかけてください」

「うん」

「ナビに電源が入ると、一旦、マニュアルモードで立ち上がります。すでに坂口さまの音声をオーナー登録してありますので、『フルオート』または『セミオート』とおっしゃってください。モードが切り替わります。フルオートの場合は、続けて行き先を指示していただけば、ハンドルを握る必要もありません。その際、対向車の運転手を驚かせないよう、フロントガラスに大きく『自動運転中』という表示が出ます。外の景色を見る必要がなければ、『遮蔽しゃへい』と命じてください。窓ガラスすべてがモニターパネルに変わりますので、好きな風景でも映画でもお楽しみいただけます。逆に、ドライブの場合はセミオートをおすすめします。ただし、フルオートはもちろん、セミオートでも交通法規は100パーセント遵守されます。また、その場合に万一事故があれば、全面的に補償されます」


 翌日。

 坂口は車のエンジンをかけると「フルオート。会社まで。遮蔽して、お休みモード」と告げた。すぐにナビの返事がくる。

『了解いたしました。ごゆっくりお休みください』

 車内は薄暗くなり、静かな音楽が流れる。

 ここ数日残業続きだったので、坂口はすぐに眠りに落ちた。

 ……。

 誰かが、コンコンと窓ガラスをたたいている。坂口は眠い目をこじ開け、「遮蔽解除!」と告げた。

 窓ガラスを叩いているのは、会社の守衛だった。坂口は窓ガラスを下ろした。

「なんですか?」

「坂口さん、困りますよ。エンジンかけっぱなしで長時間駐車されちゃ」

「えっ、長時間って」

 坂口は時計を見て驚いた。もう昼近い。思わずナビに文句を言った。

「なんで起こしてくれなかったんだよ!」

 ナビの返事はそっけなかった。

『起こして欲しいとは、命じられておりません』

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