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第二話 シューイチ

明日は、中山にとって週に一度のハレの日……

 朝目覚めるなり、中山はため息をついた。なんとか今日一日がんばれば明日は週に一度のお楽しみである、そう自分に言い聞かせ、のそのそとベッドから起き出した。

 歯を磨きながら洗面台の横にあるスイッチを入れると、鏡が電子新聞の画面に切り替わった。

《いよいよ明日、日本人宇宙飛行士が月面着陸》

《関西タイガース、今年もワールドシリーズに進出》

《完全失業率は十年連続で0.0001パーセントを切る》

 中山には興味のないニュースばかりだ。

 鏡に戻した瞬間、後ろに妻が立っているのが映った。

「あなた、急いでちょうだい。裕樹ゆうきの発表会に遅れちゃうわ」

「あ、ああ」

 あわてて身支度みじたくませ、妻といっしょに車に乗り込む。車に行く先を告げると、自動運転で走り出した。たまには自分で運転したいと思うが、心配性の妻が許してくれないのだ。目的の市民ホールに着くと、車に迎えの時間を指示して一旦自宅に帰らせた。

 ホールはすでに父兄でいっぱいだった。みんな幼稚園の音楽発表会とは思えないような盛装せいそうで来ていた。ケーブルテレビのカメラも入り、音響も照明もすべて本格的だ。

 本格的でないのは、園児たちの演奏だけである。まあ、こればかりはしょうがない。中山はアクビをみ殺しながら、三時間耐えた。昨日の長女の学芸会もつらかったが、それにまさるともおとらない。

 発表会が終わると、今日は学校が半ドンの長女と合流してレストランで食事をし、さらにデパートで買物に付き合った。帰りにはもうヘトヘトで、自宅に着くとそのまま倒れるように寝てしまった。


 次の日。朝起きるなり、中山は自然に笑みがこぼれた。

 朝食が終わるとスーツに着替え、書類カバンを持った。

「じゃ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。車は自動運転にしてね」

「うん」

 まあ、それぐらいは仕方がない。こっそり自分で運転したら、運行記録でバレてしまう。そんなことより、今日は週に一度の大事な日なのだ。

 会社に着くとタイムレコーダーにIDを差し込んだ。今の時代、たとえ管理職であっても労働時間はきちんと管理されている。

「中山課長、おはようございます」

「ああ、おはよう」

 次々に部下からあいさつを受け、中山はちょっと目がうるんでしまった。

 さあ、仕事をするぞと、中山は張り切ってデスクに着いたが、たいした仕事があるわけでもない。高度に発達した機械文明は、もはや、ほとんど人間の労働を必要としなくなっていたのだ。

 書類のチェックも、企画書の稟議りんぎも、おそらく三十分もあれば終わってしまう。それではすることがなくなってしまうので、ゆっくり丁寧ていねいに、たっぷり時間をかける。

 かといって、残業は法律で厳しく禁じられているので、五時までには必ず終わらせなければならない。そのあたりの加減かげんは、中山ぐらいのベテランになればお手のものである。

 昼休み、中山は同期の古川と社員食堂でいっしょにランチを食べた。

「なあ、古川。ちょっと前の電子新聞の特集記事で読んだけど、昔は週に何日も仕事ができたらしいな」

「ああ。昔は週に五日も働けたらしい。しかも、表向きは残業していないことになっていても、こっそりサービス残業というのをさせてもらえたそうだ」

「いいなあ。うらやましい。毎日楽しかっただろうな」

「おれもそういう時代に生まれたかったよ」

「ああ、同感だ。お互い、生まれた時代が悪かったなあ」

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