思惑
レミは本当に毎日クラリスを訪ねてきました。どうやらそれまで泊まっていた宿屋で働き始めたようです。
レミはクラリスにそれまでの旅での体験を語りました。
クラリスはレミにその町や国の歴史を話しました。
互いに興味深い話で、面会時間のギリギリまでいつも話していました。
たまにレミはお菓子などをお土産に買ってくることがありました。そうするとクラリスはお礼に歌を歌いました。
町の人たちは全く訪ねてこなくなりましたが、クラリスは幸せでした。
ある日いつものようにクラリスがレミを待っていると、レミは全身いたるところにケガをしていたのです。
「レミどうしたの!?大丈夫?」
「たいしたことないよ。気にしないで派手に転んじゃったんだ」
クラリスはレミが遠慮するのを押し切ってレミの手当てをしました。
「どう転んだらこんなキズになるのよ」
「あはは、階段で踏み外してね」
嘘でした。
実はクラリスが魔法を使えなくなったのはレミがクラリスを言いくるめたからではないかと疑った(ほとんどそれが事実ですが)一部の町の人に暴力をふるわれたのでした。
でもレミはクラリスが悲しむのが嫌で嘘をついたのです。
クラリスの処刑の日の50日前のことでした。
その日にカーチス王は処刑の10日前からのクラリスへの一切の面会を禁止しました。
カーチス王はクラリスが魔法を使えなくなったことで安心はしていたのですが、それなのに仲良くしている者がいると知ると、またクラリスの逃亡の手助けをするのではと恐れました。
カーチス王は大臣に相談しました。
「クラリスと交流を持っている旅人がいる。逃亡して反乱を起こすかもしれない。どうすれば良いだろうか。」
大臣は答えました。
「捕らえて処刑してしまいましょう。町の者を皆処刑するのは難しいですが今対象となるのはただの旅人で処刑は簡単です。罪は魔女を逃がそうとしたなどと言っておけばいいでしょう。そのようにすれば皆王様を恐れて反乱など起きなくなるでしょう。」
カーチス王はこの考えを採用し、すぐに兵士を送りました。
やがて面会時間の終わりが近づいてきた頃クラリスはレミにこう言いました。
「明日からここには来ないで」
レミは驚いて聞き返しました。
「どうして!?」
そして少し黙って続けました。
「もしかして僕が来るの、ずっと嫌だった?僕たちのこと嫌い?」
「そんなわけない!!」
クラリスは思わず叫んでしまいました。
声が教会に響きました。
「私、レミの事が好きです。大好きです。私を普通の人として接してくれて、あなたのおかげで魔法も使わなくてよくなって、面白い話をしてくれて、私のことを支えてくれて、私はそんなあなたを好きになった。」
クラリスは続けした。
「でも幸せな日が続くと、死が本当に怖くなるの。あなた達が優しくしてくれればしてくれるほど私は生きていたくなるの。それが辛いの」
そんなクラリスをレミは強く抱きしめました。
「なら生きればいい。」
レミは思わず言い返して、続けました。
「クラリス、僕も君が好きだよ。実は初めてきみを見た瞬間に好きになった。僕は君が死んでしまうのは嫌だ。そんなことになったら僕も死んでしまう。だからクラリス」
レミはクラリスの目を見て言いました。
「ここを抜け出そう」
クラリスは少しだけ黙ってレミの腕の中から抜けだしました。
そして笑顔で言いました。
「レミ、あなたの気持ちだけで私もう十分すぎるくらい幸せなの。私をここから逃がそうとして、失敗したらあなたが死んでしまう。それは私に最も起きて欲しくないことなの。だから、もう帰って。2度と来ないで!!」
レミはクラリスが一番見たくない、悲しげな顔をして、出口のほうに歩いて行きました。
しかし途中で振り返ると、こう言って立ち去って行きました。
「待ってて、絶対君を助けて見せる。」
クラリスはレミが立ち去って、しばらくじっとしていましたがやがてこらえ切れなくなって泣き崩れました。今まで感じた中で一番つらい悲しみでした。
その日の夜遅く、カーチス王の手下の兵士が町に到着し、レミを捕らえました。
レミが塔に現れなくなったのでクラリスはレミが自分の願いを聞き入れてくれたと安心していました。
クラリスの処刑の12日前のことでした。
そしてとうとう処刑の日が訪れたのです。




