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28 身の上話を聞く僕

タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。

ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。

エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。

ムークの錬金術師:実力に限界を感じているクランメンバー。

少年騎士:実力に限界を感じているクランメンバー。

 ――クラン<明けの明星(モーニングスター)>本拠地のホテル――



 ダンジョンから帰還し、タンザは今日の反省会を開く。ただ漫然と戦い続けるより、次の目標を決めて動く方が早く上達すると思ったからだ。大集団での探索を提案したのがタンザなのに、未踏地域をいつまでも任せきりにはしておけない。


 タンザの部屋で輪になって座る一同。

 いきなり女魔術師のエリカがムークの錬金術師(アルケミスト)に食ってかかった。


「あのね、連携下手くない? クランの魔物データはちゃんと見た?」


 弱々しく(うつむ)錬金術師(アルケミスト)


「あ、うん。凄いね、あれは。ああいう物を皆で造るなんて……魔術師協会の魔物の書に負けてないね。街のダンジョンに対応しているから、実用性はそれ以上だ」

「タンザのアイデアなんだよ」


 フェルパーの女盗賊・ルルスがなぜか得意そうに言うと、錬金術師(アルケミスト)は感心する。


「そうか。なるほど、クランで重用されるわけだよ。君は自分の活かし方を見つけたんだな……」


 彼をジト目で睨むエリカ。


「あのね、オジサンの話だったんだけど?」


 錬金術師(アルケミスト)は頭を掻いた。


「戦闘になると、どうしても気が()いて冷静な判断ができなくてね……現場に弱いんだなぁ、私は」


 そこから彼――デメトリオの身の上話になった。

 肌が全く見えないほど毛むくじゃらのムーク族。彼らは魔術が得意で、子供の頃から師匠に預けられて何らかの魔法を学ぶ。

 錬金術師(アルケミスト)の道を選んだ彼は記憶力には自信があり、師匠の下で学んでいた時は呪文や調合レシピを覚えるのが人一倍早かった。

 高度な魔法薬の作成には本人の魔力も必要となる。自信と名誉欲もあり、30年近く前、彼は冒険者になった。

 しかしいざ魔物との戦闘となると判断力や焦りへの弱さ、度胸の無さでどうにも上手く立ち回れない。記憶力は良いので作戦を決めておけばその通りに動けるのだが、実戦では臨機応変が常に求められるわけで……いくつものパーティをやめたり追い出されたりしているうちに、自分から声をかけて参加する事が怖くなってしまった。

 採集や調合で細々とギリギリの食い扶持を稼ぐうち、やがて魔王軍が現れ、冒険者が戦力としてさらに重要性を増したが――同世代、さらにはずっと年下の若者が活躍するのを横目に、やはりうだつの上がらない日々。

 魔王軍も倒され、この街のダンジョンに挑戦はしているが、深部に進む腕も無く、いよいよこれまでかと考えて、最後の望みをこのクランに賭けたのだった。


「でも環境が良くなっても、戦闘が苦手じゃどうしようもないんだねぇ……若かった頃に色も艶もあってふさふさしていた毛も、今では萎びてずいぶん減ってしまった」


 語り終える頃、既に中年のデメトリオは肩を落としに落としていた。



「……で、あんたは?」

「ぼ、僕ですか?」


 エリカに聞かれて少年騎士が狼狽(うろた)える。

 しかし彼もぽつぽつと話し始めた。


 少年――リアム=ランボルドは田舎領主の息子である。

 先祖は当時活躍した冒険者で、その成功例の典型……手柄を立てて地位を、村一つとはいえ領地を得た。

 その先祖が戦士系上級職の君主(ロード)であり、剣と神聖魔法の達人だったという。よってランボルド家も代々、ロードの(クラス)に就く事を許されてきた。

 しかし跡取りだからといって戦士に向いている者ばかりでもなく――リアムの父は善良な地主ではあるのだが、剣の腕はからきしだった。魔王軍が活動していた頃も、村の守りは傭兵や冒険者に頼りきり。村自体は守れたが、やはり村人に犠牲者が出る事もあり、その度に父は墓地で無念を噛みしめていた。

「私にロードの肩書に恥じぬ腕があればな……」と。

 リアムもまた生来小柄で非力、戦士に向いていると思った事は自分でも無い。女の子に間違えられる事もしょっちゅうの容貌だ、むしろ父よりなお向いていないだろう。だがせめてできる所までは腕を上げたい……そう思って父に修行へ出る事を願い出た。

 自分の無念もあり、父は「命だけは落とすな」といいつつ、修行は認めてくれた。

 そしてリアムはダンジョンがあるこの街へ来たのだが……やはりうだつの上がらぬ者の一人でしかなかった。


 リアムの話を聞き、地球のRPGを思い出すタンザ。


(ゲームでも最初から上級職に就くと育成が難しかったりしたっけ……)


 下級職から転職(クラスチェンジ)する事が前提で設計されていると、レベルアップに多くの経験値が必要だったり、いくつかのスキルを習得している事が前提だったりした。

 この世界でも似たような物らしい。


「向いていなくても、僕はこの職を継ぎたいんです」


 思いつめた表情でそう言うリアムに、エリカが(うなず)いた。


「なら仕方ないか」

「「「え?」」」


 周囲の皆が驚く。彼女は批判しそうな側だと思っていたのだ。

 その態度にエリカは口を尖らせた。


「な、何よ。誰だって都合ってもんがあるし、家や環境こそ都合そのものでしょ」

(そうか……エリカには他人事じゃないのか)


 そう思うとタンザには納得できた。


(さて、なんとか二人に道を開いてあげたいけれど……)


 任された以上、タンザはデメトリオとリアムに大きく飛躍してもらいたが――それにはどうすればいいか、この時点では見えなかった。


 この時点では。

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