27 出だしから難航する僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。
ムークの錬金術師:実力に限界を感じているクランメンバー。
少年騎士:実力に限界を感じているクランメンバー。
クランに新加入した女魔術師エリカ、実力不足を感じる者二人。彼らの特訓を任されたタンザは、ダンジョンの入り口で皆に告げた。
「みんなランク7相当の力はある筈だよね。まず第一ダンジョンの7階で腕慣らしをするから」
「はいっ、先生!」
おちゃらけ半分の元気な返事をして「キャハハ!」と笑うのはフェルパーの女盗賊・ルルス。
「もう、気を引き締めてよ?」
苦笑してそう言い、タンザは皆を連れてダンジョンへ入った。
――地下7階――
トロールの群れが獣のように吠えながら鈍器を振り回す。それを食い止めるルルスと少年騎士。
そこにタンザが放った青い粒子が降り注ぐ。人食い鬼どもは次々と眠り、床に倒れた。
続いてエリカが【ファイアーボール】を唱えた。火球が撃たれ、敵の群れの中で爆発する。しばらく会わないうちにその威力は格段に増し、この呪文の限界と言える所に達していた。
(うん、エリカは優秀だな。これなら<明けの明星>でもすぐに一軍として通用しそうだ)
安心するタンザ。
そこでムークの錬金術師が続けて攻撃呪文を撃ち込めば戦闘は終わっただろう。しかし彼はもたもたと呪文を詠唱している途中……どうも詠唱開始が遅かったらしい。
トロールどもは火傷の痛みで目覚め、怒り狂って再び鈍器を振り回す。
ルルスは素早く細身の剣を振るって弱った敵にトドメを刺したが、少年騎士は鈍器を盾で受けきれずに吹き飛ばされ、転倒してしまった。
そこへトロールが殺到……という時に、間一髪、錬金術師の呪文が完成する。何発もの岩石がトロールへ降り注ぎ、ようやく敵を倒した。
ルルスがトロール達の持っていた宝箱を調べている間に、タンザは少年騎士へ回復呪文をかける。
そうしながら非力な少年騎士と判断力の遅い錬金術師について考えた。
(どこか、褒める所は……)
しかし現時点では彼らになんらかの強みは見えなかった。
より深部に降りるのは危険と判断し、タンザは7階での訓練を繰り返す。
別の部屋で遭遇したのはオーガーロードの集団である。巨躯の鬼族にしていくつかの魔法も使いこなす厄介な相手だった。
(単純なパワー型の敵がよく出るエリアを選んだつもりだったけど……)
だが厄介な特殊能力を持つ敵が出る確率もゼロでは無いのだ。タンザは急ぎ呪文を放った。青い粒子が上位の鬼族にまとわりつく。
鬼族の何体かは呪文詠唱の途中だったが、その声が突然途切れた。
【サイレンス】大気領域の呪文。空気の振動を阻害し、敵の詠唱を不可能にする。
だが元々力押しが得意な鬼族。大きな剣を振り回して襲い掛かってくる。やはりルルスと少年騎士がそれを止める……が、機敏に避けて立ち回るルルスに比べ、少年騎士は盾の後ろに隠れながら敵の一打ごとによろめき、倒れそうだ。
そこへムーク錬金術師の呪文が放たれる。今度は決断が、それにより詠唱の完成が早かったのだ。
オーガーの1体が毒の霧に包まれる。しばらく残留しダメージを与え続ける、スリップダメージ型の呪文。たしかにタフなオーガーもこれでじきに倒せるだろう。
しかし敵は群れなのだ。他の鬼どもは構わず剣で斬りかかってくる。
「にゃひっ!」
危うく剣にかすめられて悲鳴をあげるルルス。身軽といっても全ての攻撃を避けきる事などそうそうできるものではない。
そこでエリカの呪文、爆発する火球が鬼共に撃ち込まれた。毒霧で弱った奴が倒れ、他の鬼も体表が焼ける痛みに吠える。
「ああ、放っておけば倒せた奴が……」
「いっぱいいるのに1匹に時間かけないで!」
錬金術師をエリカが叱っているが、それには構わず、タンザは次の呪文を放った。
【スロー】水領域の呪文。敵の反射機能を鈍らせ、動作を減速させる。
敵の激しい攻撃が目に見えて勢いを失った。
速度差を利用し素早く回避と攻撃を繰り返すルルス。
少年騎士は必死に盾で敵の攻撃を受け止めようとして――相手の大剣が、少年の盾の上を滑った。つんのめるオーガー。
「!?」
少年は驚きながらも、別の鬼に剣を打ち込まれる。しかしその動きも鈍くなっており、少年は剣での防御を間に合わせた。一瞬力負けするが、急ぎ踏み込む少年の剣が敵の威力を逸らす。
そこへエリカの、いくつもの魔力の矢が撃ち込まれ、オーガーロードどもをなぎ倒した。
戦いが終わった後も、少年騎士は呆然としていた。
タンザはその肩を叩く。
「大丈夫かい?」
少年はハッと気が付いたように振り向いた。
「え、あ、はい」
そして躊躇いがちに切り出す。
「今日は、このぐらいで引き上げていただけませんか?」
「そうだね……反省会もしたいし、一度帰ろう」
タンザは少年騎士の意見を受け入れたが、ムーク錬金術師は自身なさげに自分の道具袋を見せる。
「一応、回復薬は用意しておいたけど」
「おお、買い込んでるんだ」
ルルスが感心すると、錬金術師は恥ずかしそうに言った。
「いやいや、自作だよ。これは得意なんだ」
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