25 小さなリーダーを任される僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。
レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。
カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。
――クラン<明けの明星>本拠地のホテル――
女魔術師のエリカを助けた後、残る僅かなエリアの探索を終え、クラン<明けの明星>の冒険者達は帰還した。
ホテルのロビーで一息ついて、エリカは沈痛な顔で姉に尋ねる。
「私、何かの刑罰に問われるかしら」
だがヴァルキリーのレイラははっきりと首を横に振った。
「いいや。意識の無い状態で魔物に操られた者が、破壊や殺傷の責任を問われて無罪を勝ち取った例が複数ある。大丈夫だ。もし訴える者がいても司法で堂々と戦えばいい」
この世界にも裁判はあるし、同じ国なら法律もほぼ共通だ。ほぼ、であって細部は各領主ごとに異なりはするが、バトノスの街での冒険者が起こした事件をレイラは大まかに調べた事があった。
「それよりエリカ。身を寄せるクランがないなら<明けの明星>に入ったらどうだ?」
クラン長・カルロが質問の形で勧める。
しかしエリカの顔は浮かなかった。
「我儘ですけど、これ以上、お姉ちゃんにおんぶに抱っこされるのは……」
そこへ口を挟む者がいた。
「なら実力を身に着けて同士として活動すればどうかな?」
「え?」
言われて驚いたのはエリカだが、他のクランメンバーも驚いていた。
発言したのはかつてタンザと同じく安物街をうろついていたムークの錬金術師。彼はクランの相談でも滅多に発言せず、決められた事に黙って従ってきたのだが……。
しかし今日この時、周囲の反応をおっかなびっくり窺いながらではあるが、彼は皆に自分の意見を訴えていた。
「いやね、複数パーティで探索を進めているが、やはり適正や才能の問題か、実力には差が出ている。ここらで自信の無い者をもう一度鍛えてはどうでしょうかね。その、前と違って既に下地はできている以上、そう時間はかからないかと」
そして一つ咳払い。
「……何を隠そう、限界を感じているのは私自身でして。もしさらに修行しても頭打ちになるなら、いっそ引退も考えようかと」
「その時に自分が抜けた穴を、エリカに埋めてもらおうというわけか?」
カルロに訊かれ、ムークの錬金術師はうつむき加減に頷いた。
「恥ずかしながら……」
人生の分岐路に立ち、精一杯の度胸を振り絞った提案だった。
しかしそこへまた別の者が。
「僕も賛成です。理由は、同じような物で……」
錬金術師と一緒にクラン入りした、少年騎士だった。
彼も昔より遥かにレベルアップは果たしたものの、やはり自分の能力に限界を感じていたのだ。
クランメンバー達が互いに顔を見合わせ、ざわめき、意見を交わす。
やがてドラコン盗賊のザックが頭を掻いて言った。
「まぁ迷いを残して探索を進めるのは危険だな。幸い、11階の探索は終わった」
力強く頷くレイラ。
「よし、もう一度私が鍛え直してやろう!」
だがムークの錬金術師が躊躇いがちに言う。
「それだとですね、エリカさんが納得できないのでは……」
「うん、お姉ちゃんの手を借りないで実力を上げたい。やっと認めてもらえたのに、ここで頑張らないと……」
エリカも姉にそう訴える。
「そ、そうか。うーむ……ならばカルロに預けるしかないか」
困って腕組みして考えつつ、レイラは横目でクラン長を見た。
カルロは少しの間黙って考えていたが、やがて皆を見渡した。
「修業期間中、未踏地域への探索自体は少しずつ続けながら、金策や様々な素材集めを中心に活動しようかと思う」
「まぁ、ただ待つのは時間の無駄か」
エルフ魔術師のインテも同意する。
それを確認し、カルロはタンザの方を見た。
「タンザ。修行するチームを任せていいか?」
「え、ええっ!?」
そんな提案が出ると思っていなかったタンザは声をあげて驚くばかりだ。
しかし未踏地域へ探索を進めるなら、カルロが参加するのはそちらである。
ならば誰に底上げ修行のリーダーを任せるかというと、カルロはタンザが適任だと考えたのだ。
「君の呪文は攻撃・回復・補助と多岐に渡る。探索関係には特に有効で、ミスや見落としへのフォローも効きやすい。単独チームで動くなら君に任せるのが良いと思うわけだが」
ここでタンザがまだ気が付いていない事があった。
タンザ自身は、まだ運よく拾ってもらえただけの、末端メンバーだと思っていた。
だがカルロはタンザを<明けの明星>の主要メンバーの一人だと、既に考えていたのである。
クラン長からすれば、大切な仕事をするチームのリーダーを任せても何も不自然はなかったのだ。
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